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【NHL】敵地に乗り込んできたビジターチームの控室に、ホームチームの選手が一人だけ向かったのは何故?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
メディアに囲まれるジェイ・ビーグル(Courtesy:@NHL_Norge)

「アイスホッケーが国技だ!」

 誰もがこう言うほど、カナダでは性別や年齢を問わず、様々なカテゴリーの試合が行われています。

 なかでもNHLへの注目度はひときわ高く、常に多くのメディアが取材に訪れています。

▼試合に出場しないのに最も多くのメディアから注目された選手

 昨夜(現地時間)行われた「バンクーバー カナックス vs ワシントン キャピタルズ」の試合にも、バンクーバーをカバーしているメディアを中心に、両チームの練習が行われる試合前日から多くのメディアが集結。

 しかし、最も多くのメディアから取材を受けたのは、試合に出場しないバンクーバーの選手でした。

▼相手の控室にホームチームの選手が一人だけ向かっていった!

 もっとも、それには理由があります。

 敵地にやってきた対戦相手のドレッシングルーム(控室)に、わざわざホームチームの選手が、一人だけ向かって行ったからです。

 試合前日の練習の時であれば、旧知の選手同士がリンクサイドや通路で立ち話をする光景を見ることができますが、今回のバンクーバーの選手は、、、

★ 対戦相手の選手が全員揃っているビジターチームのドレッシングルームに!

★ たった一人だけで向かっていった!

 こんな行動をとっただけに、「何が起こったの?」という声や、「以前の試合で乱闘をした相手でもいるの?」と心配をする方が、いらっしゃるかもしれません。

▼対戦相手の控室を訪ねて行った真相は?

 真相はこのようなものでした。

 ワシントンのドレッシングルームに一人だけ向かっていったジェイ・ビーグル(FW・33才)は、NHLデビューを飾ってから、昨季まで足掛け10季にわたって、ワシントンでプレーしていた選手。

 しかも、NHLに昇格する前も、ワシントンのアフィリエイト(のマイナー) チームでプレーを続け、ケリーカップ(3部リーグに相当するECHLの優勝カップ)、カルダーカップ(2部リーグに相当するAHLの優勝カップ)、そして昨季のワシントンでのスタンレーカップ(NHLの優勝カップ)と「北米プロアイスホッケー界の主要リーグ三階級制覇を達成した史上初めての選手」

▼愛着のあるチームとの別れの理由は「史上初の3階級制覇」

 しかし、「史上初の3階級制覇達成」という快挙が、ビーグルのキャリアに、新たなチームの名前を加える理由となりました。

 初優勝を飾ったワシントンは、当然のように契約更新を迎えた選手に対し、年俸アップで応えなくてはなりません。

 その一方で、NHLにはサラリーキャップ(チーム総年俸上限)制度があるために、年俸をアップした上で全ての選手と再契約を結ぶのは困難で、ブライアン・マクレランGMは、ビーグルとの再契約を断念せざるを得なかったのです。

▼バンクーバーから白羽の矢

 「どうして、さよならの挨拶をしようとするんだい?」

 再契約は困難だという状況を知っているワシントンのメディアが、こぞってシーズン終了後に別れの言葉を述べていたのに対し、ビーグルは自分の希望が叶う見込みがないことを知りつつ、笑顔で応じ続けていたそうです。

 そんなビーグルに白羽の矢を立てたのが、バンクーバーでした。

 8季前にスタンレーカップ ファイナル(=プレーオフの優勝決定シリーズ)まで勝ち上がったあとは、レギュラーシーズン敗退が4度。

 3回ほどプレーオフに進んだ年も、全て最初のラウンドで敗退と、低迷からの出口が見えないチームを変えようと、「4年総額1200万USドル(およそ13億5000万円)」の契約を提示。

 これまでの4倍の年俸という高い評価を受け、ビーグルは新天地へ移りました。

▼少し遅れて優勝リング贈呈セレモニー

 このような経緯から、今季の開幕前にワシントンの選手たちに贈られた優勝リングを受け取る時間がなかったビーグルへ、バンクーバーでの試合の前日に、昨季までのチームメイトたちが「優勝リング贈呈セレモニー」を実施。

 招待を受けたビーグルは、普段は立ち入ることのない対戦相手のドレッシングルームに、一人だけ向かったのです。

 

 

▼2月にワシントンD.C.へ

 ビーグルは自身の持ち味である献身的な守りが原因で、今月13日の試合で相手選手のシュートをブロックしようとしたところ、パックが前腕を直撃。2か月半程度の欠場を強いられることになってしまいました・・・。

 そのため、昨夜の試合には出場することができなかっただけに、来年2月5日のワシントンD.C.で行われる試合で、活躍が期待されます。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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