テレビや雑誌に取り上げられる成功者の「ウソ」と「ホント」
組織における目標達成と、人生における成功
世の中の、一般的に「成功者」と呼ばれる人は、富や名声、権力を勝ち取っている人のことを言います。そしてこういった「成功者」が、人生で成功するための指南書を出版したり、自己啓発セミナーなどを開催したりします。しかし「逆説の成功法則」~ これまでの成功法則では成功できなかった人たちへで書いたとおり、残念ながらそういった「成功法則」を知ってうまくいく人と、うまくいかない人がいることも事実です。(うまくいかない人のほうが圧倒的に多い)
(※ 今回扱う「成功」という定義は、富や名声、権力を手に入れることとします。この手の「成功」に興味のない人は読み飛ばしてください)
私は企業に入り込んで、目標を絶対達成させるコンサルタントです。私が相手にしているのは、一般企業の従業員ですから、「人生において成功したい」「お金持ちになりたい」「有名になって自己啓示欲を満たしたい」という気持ちがそれほど旺盛ではない人が大半です。そして私は彼ら彼女らの行動を変えて目標を達成させています。なぜ前者は結果が出ない人が多いのに、後者は結果が出るのでしょうか。「人生を成功させたい個人」「組織の目標達成する個人」の2つに分解し、両者の相違点を列挙していきたいと思います。
< 人生を成功させたい個人 >
●目標 → 「ありたい姿」
●責任・義務感 → ない
●姿勢 → 前向き
●内的動機づけ → モチベーション、意欲に大きく関連する
●外的動機づけ(報酬) → ある
< 組織の目標達成する個人 >
●目標 → 「あるべき姿」
●責任・義務感 → ある
●姿勢 → 前向きも後ろ向きも関係がない、あたりまえ
●内的動機づけ → モチベーション、意欲に関連すべきでない
●外的動機づけ(報酬) → ないことが多い(給与等を含めた対価を含めない)
……このように分類できると思います。つまり、人生において成功したいと願う人は、とても前向きでやる気に満ちています。しかし義務感がないため、個人のモチベーションに大きく左右されます。いっぽう組織に所属している人は、組織の目標を達成させることが「あたりまえ」です。その価値の対価として賃金が支払われているからです。(賃金は価値の対価であって、労働の対価ではない)
成功できない人の特徴
高度情報化時代になり、この両者を混同させている人が増えています。いろいろなパターンで分析してみましょう。ほとんどのケースで知識不足が原因で、認識不足ではありません。
■ 組織が設定すべき目標を、個人で設定しようとする。
→ あり得ません。
■ 組織が設定した目標を達成するのにモチベーション、動機付けが必要と考える。
→ 「組織が設定した目標」以上の目標の達成を依頼された場合に、動機付けが必要です。
■ 組織の目標が達成できていないが、人生の成功を勝ち取りたい
→ 危険な考え方です。もちろん、そのようにして成功した人もいるでしょうが、再現性がありません。他者の目には「逃げている」と映ることでしょう。
■ 人生の成功を勝ち取りたいので、組織には属したくない
→ 論拠が破綻しています。組織に属することが成功できない論拠にはならない。
「型破り」のほうが成功する? 「ウソ」と「ホント」
組織で目標達成できない人が個人の成功も得られず、組織の目標を達成できる人が個人の成功も手中におさめられることが多いのです。組織に属さないことが奏功して人生の成功を勝ち取ったという人もいるでしょうが、それは「たまたま」であり、再現性がありません。そして「たまたま」うまくいった人が提唱する理論もまた再現できないことがとても多いのです。この人だからこそ結果が出たわけであり、他の人もうまくいくとは限りません。
つまらない話となりますが、経営コンサルタントの立場から言及すると、「幸運」によって得た「成功」は長続きしないものです。しかし、従来の考え方とは異なる、奇抜なアイデアで成功した人のエピソードはとても「ニュース性」が高いもの。メディアが取り上げます。メディアでの露出が増えれば、まるで、そのやり方が成功の条件だと勘違いする人が増えていくのです。明らかに「知識」不足です。「知識」が足りないので、薄っぺらな「情報」に流されるのです。
「組織の言いなりにならないほうが成功しやすい」
「遊べば遊ぶほどすごいアイデアが湧き上がる」
「若いうちに借金など、無茶をやった人のほうが大成する」
こういう意見を真に受けるのはやめましょう。テレビや雑誌の見過ぎです。「型破りな人」のほうが視聴率は伸びるし、雑誌の部数も増えます。テレビや雑誌に取り上げられていることが正しいとは限りません。世の中には常識では考えられないようなアイデアを出す人、行動をする人がいます。そういった人が全員、成功するわけではなく、たまたま偶然、そういうハチャメチャな人が成功するとメディアに露出してくるだけです。テレビや雑誌に取り上げられていることが成功の証ではありません。ということは、もちろん成功者のほとんどは、テレビや雑誌には出てこないのです。ごく一握りしか存在しない成功者の、そのまた一部の「破天荒な人」を見習っても、普通の人が成功するはずがありません。
普通の人が成功するためには、普通の人でも成功できる方法論、そしてプロセスを知ること、それに、成功するためのマインドを醸成させることが不可欠です。そういう意味では、組織に所属することは、自分の感情に関係なく、強制的に目標達成のプロセスを体験できるわけですから、遠回りだと思っても成功への近道だと言えるでしょう。
1)組織で目標を設定され、義務感で達成させる
2)どんな商材、どんなお客様を相手にしても、組織の目標を達成させる
3)目標達成が「あたりまえ」になり、習慣化していく
4)目標をランクアップさせても達成が「あたりまえ」なので、目標が達成する
5)組織を飛び出しても、自分の設定した目標を達成できる。
6)どんなに高い目標を掲げても達成していく
組織の目標は「あるべき姿」であるのに対し、個人の成功目標は「ありたい姿」です。しかし組織で目標を達成する癖がついていると、「ありたい姿」のはずが「あるべき姿」だと思い違いをしはじめます。すると、目標がどんなに高くても達成しないと気が済まない、気持ちが悪い、という状態になっていきます。
私は講演やセミナーでよく「損失回避性」という行動経済学の用語を使って解説しています。「損失回避性」とは、たとえ同等の価値があろうとも、利益よりも損失のほうが心理的インパクトが強いことを言います。目標達成が「あたりまえ」になってくると、「あたりまえ」のことができなくなるという「損失」を回避したくなり、報酬のあるなしに関係がなく達成しようとします。
成功者は、自分の目標を明確に持っています。そしてその目標達成に邁進していきます。周囲からすると、「なぜそこまでやるのか?」と思うかもしれませんが、本人にとってはそれが「あたりまえ」になっているので苦になりません。達成する癖がついているため、次から次へとハードルの高い目標を設定して「あたりまえ」のように結果を出していきます。山登りと同じです。山が高ければ高いほど燃えてきます。頂上に達している自分が「あたりまえ」の状態ですから、そうなっていない自分をイメージできないのです。
退屈でも、再現性のある方法論かどうかを見分ける
どうしても、メディアで露出している人を参考にしたいというのであれは、その成功者ご自身の事業やビジネスが、継続してうまくいっているかどうか、また、一度低迷しても、這い上がってきている、というのであれば「一発屋」ではありません。再現性がある成功者と言えるでしょう。参考にするなら、長期において成功している人を観察すると良いと思います。
著名人でいうと、AKB48の総合プロデューサーである秋元康さんは、まさに再現性のある成功者と呼べるでしょう。おニャン子クラブ、AKB48のプロジェクト以外にも、膨大な数の楽曲を手掛け、数々のヒット曲を世に送り出しています。たとえAKB48関連のムーブメントが下火となったとしても、また別の企画等でブームを作ってくれそうです。(周囲に「あの人なら」と期待させる能力も成功者の条件ですね)
いずれにしても、テレビや雑誌など、メディアで目立っている人にばかり焦点を合わせていると、「成功者の条件」を見誤ることになります。「幸運」によって一時的に成功した人、天才的な才能を持つ成功者に惑わされることなく、普通の人が成功するための再現性のある方法論を参考にすべきですね。