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「依存弱者」(子供)をゲーム依存ゲーム障害から救うために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

<ゲーム依存の怖さをしらない「依存弱者」である子供を守るのは、あなたの役割です>

■依存症を治すのは簡単?

依存症を治すのは「簡単」です。やめれば良いだけだからです。ガンを治すのは大変でしょう。特別な専門家が莫大なお金をかけて高度な研究を進めます。そうして、新しい薬や新しい手術方法、画期的な治療法が開発されていきます。

それに比べたら、アルコール依存でも、ギャンブル依存でも、ゲーム依存でも、治すのは簡単です。やめれば良いのです。特別な薬も、手術も、医師も心理カウンセラーも、登場しなくてもかまいません。ただ、本人がやめればよいのです。

こんなに簡単なのに、しかしそれができないのが、依存症です。本来なら簡単なことなので、「俺はいつだってやめられる(だから依存症などではない)」と主張する依存勝者がたくさんいます。

やめれば良いだけなので、家族も病気だとは思えないときもあります。

やめれば良いだけなので、叱ったり、殴ったり、説教したり、取り上げたり、いろんなことをします。そして、失敗します。

こんな簡単なことなので、周囲も理解できないこともあります。お酒を買ってあげなければ良い、ゲーム機を取り上げれば良い、それができないのは家族の甘やかしだといわれることもあります。

本人がまったく自覚のないときもあります。本人がすでに自覚していることもあります。何とか治そうとしている当事者もいます。やめれば良いだけです。しかし、家族もやめさせようとし、本人もやめようと思っているのに、それでもやめられないのが、依存症です。

依存症を治す特効薬はありません。依存症を治す手術もありません。

■ゲーム依存症/ゲーム症/ゲーム障害

日常的な生活に支障が出るほどの、持続的で反復的なゲームへののめり込みが、ゲーム依存症です。WHOは、2018年に、ゲームのやりすぎで日常生活が困難になる症状を新たな病気「ゲーム依存症」(ゲーム障害、ゲーム症)と定義しました。

ゲーム自体が悪いわけではありません。むしろeスポーツと呼ばれ、プロ選手は大金をかせぎ、オリンピクの種目にもなりそうです。ゲームはとても楽しいものですし、認知症の予防に使っている人もいます。

しかし、魅力的だからこそ危険性もあります。

ゲームで健康を害し、生活が破綻する人が世界中で増えているからこそ、WHOは新たな病気としました。依存症と定義できるかどうかはともかくとしても、子供がゲームにのめり込んでとても困っている親達が大勢います。

ゲームばかりで運動も勉強もしない。夜中までゲームしている。朝起きられない。昼夜逆転。学校を遅刻欠席する。不登校。ごはんも満足に食べない。風呂にも入らない。そんな声が親達から聞こえてきます。

■依存弱者

どんな立派な人でも、賢い人、経験豊富な人でも、依存症になることはあります。しかし普通の大人なら、麻薬の危険性は知っています。反社会的集団が資金源にしていることなども知っています。また、酒を飲みするぎると肝臓に悪いとか、アルコール依存症は怖いという知識は持っています。

競輪競馬パチンコなどのギャンブルも、胴元が儲かっているからこそ商売がなりたっていることを知っています。ギャンブルを楽しむなら、ギャンブルに関する基礎的知識はほしいものです。

 <パチンコの大当たり確率300分の1は300回に1回当たるわけではない:ギャンブル確率のイメージと実際

しかし、世の中には知識や情報にうとい人もいます。大人でもそんな人はいますが、子供はなおさらです。それがどんな害があるのか、どのような節度が必要なのか、お金や時間をどのように使うのが正しいのか、どう自分の健康を守るのか。わかっている必要があります。

魅力的だけれども使い方を間違えれば依存症になる危険性があり、だからこそ安全に使う方法を知らなければなりません。そのようなことがわからない人を、オンラインゲーム調査研究所の平井大祐先生は、「依存弱者」と言います。

だから、ギャンブルは子供には許されていません。パチンコ屋もカジノではなく遊技場ですが、風営法で18歳未満の者は入場禁止です。酒、タバコも、未成年はだめです。未成年は馬券も買えません(以前は成人でも学生は買えませんでしたが、平成17年に法律が改正され、学生でも20歳以上であれば馬券を購入できるようになりました)。

弱者を守らなければなりません。ゲームに関する依存弱者でもある子どもを、ゲーム依存から守らなければなりません。子供の周囲にいる人々が、子どもを守るための知識を持たなくてはなりません。

■ゲームと子ども達

お酒やギャンブルは、大人のものです。子どもが近づけば、叱られます。親も警察も、社会全体で見守ります。アルコール0パーセントのノンアルコールビールさえ、子供には売りません。「お酒は二十歳になってから」です。

しかし、ゲームは違います。むしろもともとは子供のものです。

「1万時間の法則」と呼ばれるものがありますが、何事も1万時間がんばれば一人前になれるということです。1万時間。毎日3時間で10年です。私がこれから毎日真剣に3時間、けん玉の練習をすれば、10年後にはきっと皆さんの前で素晴らしい技を見せて拍手がもらえるようになれるでしょう。

子ども達の中には、すでに1万時間ゲームに時間を費やしている子もたくさにます。3時間で10年、6時間で5年、暇さえあればゲームをし、親の声も聞こえないほど熱中してゲームに取り組めば、普通の人から見れば名人級の腕前になれるでしょう。

ゲーム自体は悪いものではありません。ゲーム依存症を恐れすぎるのも問題でしょう。将来、eスポーツの大選手のなる子供もいるでしょう。しかし同時に、ゲーム依存症になり、人生を台無しにする子ども達も次々と表れてしまうでしょう。

大人でもゲーム依存になりますが、子どものころからゲームにどっぷりとつかっている子の方が、ゲーム依存になりやすいでしょう。未成年のうちから酒を大量に飲むのが危険なのと同じです。

しかしだからと言って、18歳未満ゲーム禁止ということもできないでしょう。だからこそ、ゲームの正しい遊び方を教える必要があるでしょう。

子供がゲームにのめり込み、すっかり人が変わってしまったと嘆いている親達がいます。こんなことならゲーム機など買い与えるのではなかったと心底後悔している親もいます。ただ、ゲームを完全に子供から引き離して育てることもできないでしょう。

薬物の恐ろしさは、子供たちは学んできました。警察の人が学校に来て講習を行うこともあります。今、ゲームも同様の活動が始まっています。ゲーム会社も悲劇を防ぐ活動を始めたり、心理学関係者も啓蒙活動を始めています。

しかし大切なのは、親であり家族です。大人が食事しながらゲームをしていて、子供にゲームをやる過ぎるなと叱っても、説得力はありません。まず保護者がゲーム依存の怖さを知り、学校や社会による教育に理解を深めましょう。

発達障害とゲーム依存の関係も言われ始めています(「依存弱者」(子供)をゲーム依存ゲーム障害から救う方法:ヤフー個人有料)。新しい知識も手に入れましょう。

今が、分岐点かもしれません。ゲーム依存が病気と認められた今、パンデミック(感染症の爆発的流行)のように問題が広がるのか、それとも交通事故のように社会全体の力で徐々に減らしていけるのか。ゲーム依存弱者である子供を守るのは、あなたの役割です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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