国の部活指針案 生徒の負担軽視 スポーツ庁によるガイドライン骨子(案)の問題点と今後の課題
■ガイドライン策定 最終段階
スポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」作成が大詰めを迎えている。2017年5月に作成検討会議の第1回目が開催されてから計6回の会合を経て、先月にその「骨子(案)」が発表された。
ブラック部活動が問題視されるなか、ガイドラインへの期待が高まってきたものの、公表された骨子(案)の内容は、部活動改革にたずさわってきた人びとを落胆させた。そして私もまた、落胆した一人である。
今後は3月のガイドライン策定に向けて、骨子(案)が修正されていくと考えられることから、本記事において骨子(案)の問題点を広く世に問い、その改善の方向性を示したいと思う。
■日本部活動学会関係者ら「募る危機感」
骨子(案)は、今日の部活動改革の流れをくんで、休養日の設定や部活動指導員の活用など、これまでに語られてきたさまざまな論点が盛り込まれている。
そして、大会の統廃合、学校単位から地域単位への移行、競争型ではなくレクリエーション型の構想など、抜本的な改革につながりうる大胆な方針も提案されている。この点は、高く評価されるべきである。
だが、骨子(案)に対しては、称賛より批判のほうが圧倒的に目立っている。
骨子(案)が発表されるとすぐに、部活動改革を推進してきた現職教員や研究者らがTwitter上で、骨子(案)への不満や不安をつぶやいた。なかには、昨年12月に設立された「日本部活動学会」の役員らも批判的見解を述べていて、それらのつぶやきは「部活動ガイドライン、募る危機感」と題してtogetterにまとめられている。
また、部活動改革の火付け役と言ってよい「部活問題対策プロジェクト」(現役の教員ら6名で構成されたグループ)は、2月上旬に骨子(案)を受けて「緊急提言」を発表し、その問題点と改善すべき点を丁寧に解説している。
■生徒の負荷と教員の負荷
「部活問題対策プロジェクト」による問題提起をはじめ、骨子(案)に対してはとくに教員の負担軽減が不十分であるとの指摘が多くみられた。詳細はそちらにゆずるとして、この記事では議論がまだ少ない、生徒の負荷や不利益に特化して、骨子(案)の内容を検討したい。
骨子(案)が発表された1月の会合において、冒頭に鈴木大地・スポーツ庁長官は、とても重要な見地を述べた。すなわち、「生徒さんが安心に安全にどのように部活動をしていけるのかというのがこの全般にわたって非常に重要な論点」であり、その際には「教師の負担軽減の話はもう前提、当たり前」である。要約すれば、生徒の負荷・不利益と教員のそれとの両方を軽減していくことが、ガイドライン作成の重要な前提である。
ところが、骨子(案)の最初に記されている「前文」(本記事の下部に転載)には、鈴木長官が示した見地はほとんど反映されていない。その一方で、部活動がどれほど意義深いものかが強調されている。
■ガイドラインの現状認識とは?
今日の部活動改革が叫ばれているのは、まさに鈴木長官が指摘したように、生徒や教員が受ける負荷や不利益が顕在化してきたからである。
日本部活動学会の会長である長沼豊氏(学習院大学・教授)は、「とにかく前文に書くべき『現状認識』が、相当外れています」と述べ、「部活動が教師の過重負担の最大の要因になっていること」と「生徒の自主的・自発的なものであるはずの部活動が、強制されている学校がある」ことを追記すべきと、骨子(案)の方向性を厳しく問うている(上記togetter「部活動ガイドライン、募る危機感」に収録)。
そして、私がとくに生徒の負荷・不利益の面から危機感をおぼえるのも、一つに、全員加入の問題点が触れられていないことにある。また、もう一つとして、高校の部活動がガイドラインの直接的な対象には含まれていないことも、重大な問題であると考える。以下、この2点について、過去のガイドラインを参照しつつ、その問題点と改善点に言及したい。
■過去のガイドラインには「強制入部の撤廃」
これまで、国による運動部活動の包括的な調査研究(ガイドライン)としてしばしば参照されてきたものに、「運動部の在り方に関する調査研究報告書」(1997年刊行)がある。これはガイドライン作成検討会議のなかでもたびたび言及されるほどに、重要な資料である。
そこでは、部活動を生徒全員に強制することの教育的意義(体力増進)などが強調されつつも、「しかしながら」と次のような提言が示されている。
部活動は自主的なものであり、それを強制してはならない。
現行の学習指導要領においても、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ことが明記されている。部活動は昨今を問わず、けっして生徒に強制されるべきものではない。
■いまも3割の中学校で強制入部
スポーツ庁による最新の全国調査(2017年7月実施)によると、中学校では約3割(32.5%)が強制入部をとっているという(拙稿「部活の強制入部 やめるべき」)。スポーツ庁はこの実態を明らかにしたにもかかわらず、過去のガイドラインに記載されていた「部活動への参加が強制にわたることのないようにすべき」旨を、今回の骨子(案)には記載していない。
議事録を読んでも、強制入部について意見を交換した様子は見当たらない。
「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書」のもととなった1996年の全国調査(「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査」)では、強制入部の中学校が全体の約6割(61.2%)を占めていたことを踏まえると、この20年の間に強制入部はそれなりに解消されてきたと言える。それゆえ今回の骨子(案)では関心事になりえなかった、と考えればよいのだろうか。
仮にそうだとしても、「自主的な活動」という設定のもとで3割の中学校がいまもなお入部を強制している点は重大な問題であり、最終的なガイドラインの策定までには必ずや検討すべき課題であると言える。
■過去のガイドラインは高校も対象
今回の骨子(案)の最大の問題点だと私が考えるのは、骨子(案)は「中学校段階の運動部活動を主な対象」としていて、高校はそれを「準用」するにとどまっていることである。
先述した20年前の運動部活動に関する包括的な調査研究(ガイドライン)では、「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査」を経て、中学校と高校別々のあるいは共通の課題や方針が示されている。
たとえば一週間の休養日については、「中学校の運動部では、学期中は週当たり2日以上の休養日を設定」、「高等学校の運動部では、学期中は週当たり1日以上の休養日を設定」することが例示されている。
また、大阪市立桜宮高校で2012年12月に発生した事案(顧問教員からの暴力によってバスケットボール主将が自死)を受けて、翌年5月にとくに体罰禁止を目的に急遽発表された「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書:一人一人の生徒が輝く運動部活動を目指して」では、「今後の各中学校、高等学校での運動部活動での指導において必要である又は考慮、が望まれる基本的な事項、留意点」が記されている。
いずれも、これまでの運動部活動に関するガイドラインは、中学校と高校の両者を同等に取り扱ってきた。だが、今回高校は、ガイドラインの直接的な対象とはならず、「準用」というゆるい位置づけを許されたのである。
■より多く練習させたい
骨子(案)が高校には「準用」とされたのは、議事要旨を読む限りでは、昨年11月の第4回会合において、中学校と高校では「先生方の考え方、要するに部活動に関する指導観といった部分についても若干の違いが見てとれます」という委員の発言を、座長が「中学校を基本としつつ、高校も準用できる部分は準用してやっていく。ただし、高校は高校なりの独自の問題もある」と引き取ったことで道筋が出来上がったと言える。
骨子(案)の具体的文言をめぐって意見が交わされた第6回会合の議事要旨においても、高校は中学校に比べて「(学校間の)均一性という点では随分差がある」「うまくなりたいという、そういう思いのある子が、人よりもたくさん練習したい」といった旨の発言が相次いだ。
骨子(案)が発表されるとすぐにその内容についてマスコミ各社が一斉に、「休養日 2日以上」といった見出しを打ったように、休養日の設定はガイドラインの目玉である。それは言い換えると、部活動をもっとやりたい生徒やその思いをくんだ学校に対して、活動の制約を要請するものである。
高校に関しては、もっと活動したいという層に制約をかけるべきではないというのが、骨子(案)において高校が「準用」扱いになった理由と言える。「『準用』という言葉で濁すのは疑問」(第6回会合)と、骨子(案)の直接的対象から高校がはずれることを厳しく問うた委員もいたが、議事要旨を読む限りでは、「準用」を求める空気が支配的であった。
■生徒と教員の負荷を土台にしたガイドラインへ
上述のとおり従来のガイドラインは、中学校と高校の両者を対象としており、また休養日等については両者を分けて活動量の目安を示していた。そのような表記が可能であるにもかかわらず、高校が丸ごとガイドラインの対象からはずれるという形式は、従来よりも改革の意欲が大幅に後退したようにも見える。また、強制入部についても、かつてガイドラインはそれに厳しい批判を投げかけていたにもかかわらず、今回の骨子(案)はまるでその視点を失っている。
さらに、本記事では言及しなかった教員の負荷についても、むしろそれを是認するのではないかと読み取れる記載がある。部活動改革にたずさわってきた教員らが一斉にクレームを申し立てるのももっともである。
これから年度末に向けて、「ガイドライン骨子(案)」が「ガイドライン骨子」となり、最終的な「ガイドライン」が策定されるものと思われる。平昌の冬季オリンピックが盛り上がり、また東京オリンピックも近づくなかで、運動部活動の指導にはいっそうの熱が入ることが予想される。
だが、改めて考えてほしい。部活動は生徒にとっても教員にとっても本務ではない。いまそれが過熱していることが問題視されている。部活動の意義をしっかりと確保しながらも、それが過熱しないかたちで生徒や教員に提供される。そうしたあり方を実現してくれる国のガイドラインであってほしいと願う。
- 注:保健体育審議会答申「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」(1997年)において、「部活動が本来、自発的・自主的活動として展開されることにより、その効果が発揮されることに留意し、部活動への参加が強制にわたることのないよう運営すべきである」と指摘された。