部活の強制入部 やめるべき 「自主的な活動」に全員参加の矛盾
■生徒への部活動強制
冬休みもいよいよ終わろうとしている。
だが、部活動はもう始まっているという学校も多いことだろう。ツイッターには「元旦から部活」というつぶやきまである。
2017年は、「ブラック部活動」の問題が一気に顕在化し、文部科学省や自治体がその対策を急いだ一年であった。だが、「ブラック部活動」という表現で問題視されたのは、主に教員の負担であり、生徒の負担への関心は弱かった。
スポーツ庁が昨年11月に発表した最新の調査結果は、生徒への部活動強制に関する全国の実態を浮き彫りにした。しかもデータを詳細に見てみると、学校側の強制入部の判断は、個々の教員の思いからはズレているようである。最新のデータをとおして、生徒における「ブラック部活動」の現実に迫りたい。
■部活動の大原則「生徒の自主的な活動」
昨年11月17日、スポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」において、「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』集計状況」の資料が配付された。ここ数年、教育関連の各種調査によって部活動の活動実態が断片的には明らかになりつつあるものの、部活動に特化した全国調査は、2001年度の調査以来、16年ぶりとなる[注1]。
その最新の調査結果には、「ブラック部活動」の根源と言ってよい、生徒の強制入部に関するデータが掲載されている。
部活動は、国の学習指導要領に「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と規定されていながらも、現実には各地で入部が強制されるという事態があった(拙稿「部活動『自主的』なのに『全員加入』」)。根本的な矛盾であるものの、近年の全国データがないために、その実態がなかなか見えない状況がつづいてきた。
■公立中約3分の1が強制入部
上記のスポーツ庁調査は、強制入部の全国的実態を、ついに明らかにしてくれた[注2]。
まず公立中学校では、全体の32.5%において、生徒全員の入部制をとっている。全国の約3分の1の中学校は、自主的な活動であるはずの部活動への参加を強制している。
さらにこれを、人口集中地区と非人口集中地区[注3]にわけてみると、その差は大きく、前者が18.3%にとどまっているのに対して、後者は半数近くの44.8%に達する。都市部では部活動入部の自由度は高いが、非都市部では強制入部の文化が根強いと言える。
一般に、部活動だけでなく学習面を含めて、非都市部の学校は生徒の生活を丸ごと抱え込むという傾向がある。それが具体的な数値となってあらわれたと考えられる。だが、仮にそうした傾向を非都市部の学校がもっているとしても、自主的であるはずの活動を生徒に強制してよいことにはならない。
■教員の思いとは裏腹の強制入部
同調査は、強制入部の実態のみならず、教員の思いとのズレをも示している。
強制入部の有無は、校長がその中学校の状況を回答したものである。同調査ではさらに、個々の運動部顧問(教員)に対して、強制入部の賛否を質問している。すなわち、全員入部制にすべきか希望制にすべきかについて、顧問個人の考えをたずねているのだ。
すると、全員入部制にすべきと考える顧問は15.4%にとどまっており、先述の各校の現状(32.5%)に比べると割合はかなり小さい。つまり、顧問個人としては強制入部への賛同者は少ないものの、現状では学校という組織として、校長が全員入部制をとっているということである。
部活動は、長年にわたって「学校」の教育に根づいてきた。それゆえ教員個人は強制入部にさほどこだわりがなくても、学校を運営する立場の校長は、学校の教育活動として部活動を生徒に義務化させたいと考えているようである。
なお人口集中地区と非人口集中地区別では、各校の現状と各顧問の考えとのズレはよりはっきり見えてくる。前者では、全員入部制の公立中は18.3%、全員入部制に賛同する顧問は11.9%であるのに対して、後者では全員入部制の公立中は44.8%、全員入部制に賛同する顧問は18.9%である。非都市部では、顧問の思いとは裏腹に、学校という組織の判断として全員入部制を積極的に採用している。
■20年前にも「強制やめるべき」
生徒の強制入部については、1996年の時点ですでに、中央教育審議会が答申で次のように警鐘を鳴らしている。
当時の全国調査(「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査」)によると、全員入部制としている中学校は全体の61.2%を占めていた。その頃からすれば、状況はいくらかマシになったと評価できる。
そうは言っても、そもそも部活動は自主的な活動であることを鑑みるならば、強制入部自体が解消されなければならない。20年前の警鐘に、教育行政や各校はいま改めて耳を傾けるべきである。
■「希望制」のなかにも「半強制」?
本記事を終えるにあたって最後に、入部方法は「希望制」であるとしても、そこに「半強制」が隠れていることを指摘しなければならない。というのも強制されていなくても、現実にはほとんどすべての中学生が部活動に所属しているからである。
スポーツ庁が2016年度に全国体力テストに合わせて実施した調査によると、中学2年生において男子は運動部に78.2%、文化部に8.2%、女子は運動部に57.7%、文化部に32.5%が所属している。男女ともに加入率は約9割に達する。
中学校(さらには高校)で部活動への加入圧力が高い理由は、入試との関わりを含めいくつかの要因が考えられる(拙稿「部活動をやめると『内申』に影響するのか」)が、いずれにしても学校側が義務づけていなくても、加入せざるをえないという空気が多くの生徒を覆っていることは確かである[注4]。強制の実態とは別に、半強制の空気を薄めていくことも重要な課題である。
生徒には、部活動に参加する/しないの選択権を与えること。入部後においては、退部の自由も保障すること。「ブラック部活動」は、指導をおこなう教員の苦しみの問題であると同時に、指導を受ける生徒の苦しみの問題でもある。この両者の現状を踏まえた改革が必要である。
- 注1:文部科学省は2001年度に、「運動部活動の実態に関する調査」を実施している。なお、さらに5年前の1996年度にも文部省(当時)が「中学生・高校生のスポーツ活動に関する調査」を実施している。いずれも全国調査である。
- 注2:調査期間は、2017年7月。スポーツ庁が算出した各都道府県に割り当てた調査対象校数にもとづいて、各都道府県が無作為に抽出。中学校は456校、高等学校は389が回答対象となり、中学校からは448校(公立校416校、私立校32校、回収率98.2%)、高等学校からは376校(公立校279校、私立校97校、回収率96.7%)の回答があった。詳細は「平成29年度『運動部活動等に関する実態調査』集計状況」を参照。
- 注3:同調査によると、「人口集中地区」とは「総務省統計局が定める人口集中地区(市区町村内で人口密度が4,000人/km2以上の国勢調査基本単位区が互いに隣接して人口が5,000人以上となる地区)」を指し、「非人口集中地区」とは「人口集中地区及び総務省統計局が定める準人口集中地区以外の地区」を指す。なお、図示したデータにおける人口集中地区の公立中学校数は180校、非人口集中地区の公立中学校数は223校である。
- 注4:部活動への加入圧力については、高校と大学のちがいを考えるとわかりやすい。高校(1・2年生)でも部活動には約7割が加入しているとの調査結果(ベネッセ「第2回 放課後の生活時間調査 報告書(2013)」)がある一方で、大学に進学すると部活動に入る学生は大幅に減る。九州大学における2015年6月の調査では、体育の授業に参加した1年生のなかで、高校時代に運動部に所属していた535名のうち、大学でも運動部に所属しているのは209名(39.1%)である。大学に入った時点で、約6割は運動部から離脱している(須崎康臣・入部祐郁・杉山佳生・斉藤篤司、2016「大学における運動部の実態調査」『健康科学』第38巻:33-41頁)。同様に、関東圏の4大学(千葉大学、帝京大学、青山学院大学、東京工芸大学)で2002年7月に1年生を対象に実施された調査(有効回答数604)でも、高校時代に運動部に所属していた者のうち30.9%が、大学に入ってからも運動部に加入したという。ここでは約7割の離脱が認められる(浪越一喜・藤井和彦・谷藤千香・井崎美代、2003「運動部活動経験が大学生のスポーツ生活に与える影響」『千葉大学教育学部研究紀要』第51巻:129-136頁)。