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厄介者の雪を活用して雪中貯蔵品を素早く商品化

小出宗昭中小企業支援家
雪室に商品を貯蔵する雪中貯蔵協会メンバー(ゆざわビズ提供)

 マイナス面ばかりに見えてもビジネス化に欠かせない「売り」が隠れている事がある。

 湯沢市ビジネス支援センターゆざわ-Biz(ゆざわビズ)がある秋田県湯沢市は豪雪地帯だ。農作物は被害を受ける上、一日の大半を除雪に費やす事も多く、住民にとり雪は厄介者だ。

 ここに関東出身の藤田敬太センター長が着任して間もない頃、直売所の人から、冬は野菜が収穫できないから「雪中モノ」しか売れる物が無いと聞いた。雪中モノとは、家庭での消費を目的に雪の中に埋めて長期保存した野菜や果物の事で、雪国では古くからある慣習だという。

 その時、藤田氏が着目したのは、雪中モノは「甘みが増して美味しくなる」という声だ。文献を調べると、雪中貯蔵は湿度を保ちながら凍らない低温で保存するので、貯蔵した食物はみずみずしさを保ち、糖度も増すという事が分かった。

 しかし地元の人は、本来、野菜は新鮮なうちに売るもので雪中モノは売り物ではないと言う。雪が降らない地域の人にとって雪は憧れの対象だったり非日常をもたらしてくれたりする。藤田氏は雪をブランディングの材料に使えるのではと考えた。

 豪雪だった2021年の1月、農業などに携わる若手事業者が「雪を使って何か利益を生み出せる取り組みができないか」とゆざわビズに相談に来た。そこで藤田氏は、「いろいろな事業者を巻き込んで雪中貯蔵品を作ってみては」と提案した。彼の説明を聞いた事業者はすぐに任意団体「秋田・湯沢雪中貯蔵協会」を結成した。メンバーのデザイナーが作成したロゴで活動を可視化させ、翌月には試験的に間借りした雪室に野菜や米などを約1カ月保存した。メンバーのECサイトでテスト販売したところ、商品はすぐに完売する人気で手ごたえを感じた。

都内イタリア料理店が注目

 翌冬には、ゆざわビズの提案で湯沢商工会議所が協力し、観光庁の補助金で本格的な雪室を作る事ができた。報道を通じて1年目の活動が広く認知されていたため、参画事業者も商品も増えた。さらに糖度計を使ったデータ取得を促し、貯蔵品の糖度情報に数値的根拠を加えた。

 かねて販路の必要性を感じていた藤田氏は、秋田銀行の地域商社「詩の国秋田」に声をかけ、首都圏での販路開拓を模索すると、すぐに東京都内の高級イタリア料理店が関心を寄せ、フェアで採用された。さらにJR東日本の荷物輸送サービスを使った販路開拓支援により、今年3月に松坂屋上野店で開催された東北物産展で販売できた。

 雪中貯蔵品にビジネスチャンスがあると気づき始めると、青果卸を営む中心メンバーが自社で雪室を増設したり、参加を希望する事業者も一層増えたりするなど動きが活発になった。ECサイトでの販売が増え、ふるさと納税の返礼品としても採用される等、「厄介者の雪が地域資源の一つと考えられるようになった」と関係者は話すという。

 雪中貯蔵を売りにした取り組みは寒冷地によくみられるが、着手から3年足らずでここまで展開できたのは異例だろう。地域独自の商品づくりは、アイデアを具現化する力はもとより、生産者だけでなく地域の様々な業界の事業者を巻き込んだり、他機関との連携を図ったりする行動力が必要だ。ゆざわビズは潜在的な地域の力をうまく引き出してコーディネートした。

【日経グローカル(日本経済新聞社刊)466号 2023年8月21日号 P39 企業支援の新潮流 連載第5回より】

中小企業支援家

59年生まれ。法政大卒後、静岡銀行に入行。M&A担当等を経て、01年静岡市の創業支援施設へ出向。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005経済産業大臣表彰を受賞した。07年浜松市に開設された中小企業支援施設への出向中に故郷の富士市から新設する中小企業支援施設のセンター長着任を依頼され、08年銀行を退職し会社を立ち上げ施設の運営を受託し12年に渡り運営した。知恵を使って売上を生む小出流の中小企業支援をわが町にもと取り組む自治体が全国20カ所以上に拡がった他、NHK「BS1スペシャル」や「クローズアップ現代等でその活動が特集された。

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