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「緊迫した状況というのが指していて一番面白い」藤井聡太八冠、内閣総理大臣顕彰式コメント全文(2)

松本博文将棋ライター
(画像作成:筆者)

岸田文雄内閣総理大臣「そして、今日、羽生将棋連盟会長にもお越しいただきました」

羽生善治九段「ありがとうございます」

岸田「会長はもう皆さんもご案内の通り、その当時の最高であった七冠を、手に入れられた。素晴らしい歴史、将棋の歴史を築いてこられた大先輩でいらっしゃるわけですが。その羽生会長から見て、今回の藤井竜王・名人の快挙。八冠。どんなふうに見ておられるのか。どうでしょう」

羽生「はい。将棋の世界はですね。十代の後半ぐらいから台頭する棋士というのは、まあ歴史上、そんなにすごく多いというわけではないんですけれども。まあけっこういるんですね。ただその藤井さんの場合、非常に大きな特長といいますか。非常にこう、欠点が少ないというか。ミスが少ないというか。例えばその十代の後半ですとか、二十代の前半で活躍をしている棋士というのは、ある部分は突出して非常に強いんだけれども、まだまだ粗削りな部分があるとか。未完成の部分があるとか。まあだけど総合的には強いという人がいままで多かったんですけども。藤井さんの場合は、そこの、なんていうんでしょうかね。その欠点の部分ですとか、ミスの部分が非常に小さくて。それがですね、今回の八冠というような結果に結びついたのではないかなというふうに思います。将棋のプロといえどもですね、やっぱりその長時間の対局をしていく中で、完璧に指していくというのはとてもその難しいんですけども。その中でも、やっぱり藤井さんのその正確さというのは、非常に際立っているんじゃないかなと思っております」

岸田「ああ、そうですか。ありがとうございました。それじゃあ羽生会長には、将棋連盟の会長として、これからの将棋界。藤井竜王・名人を中心に、またこれから一層発展していくと思うんですが。これからの将棋界に対する期待とか、思いとか、会長の立場からなにかおありになりますか」

羽生「そうですね。藤井さんがデビューして、今回このような大きな快挙を達成されて。これを機にですね、非常にその将棋に興味を持ってくれる小さい子供たちも、増えるんではないかなということを期待しています。日本の伝統的な歴史であったり、文化である将棋をですね。様々な形で普及していく大きな機会にできればなというふうにも考えていますし。先ほどちょっとAIの話がありましたけれども。そのAIを人間が便利に使うということではなくて、人間の能力を伸ばしていくというような方向性として、将棋界が一つのサンプルになればいいかなということを願っています」

岸田「ありがとうございました」

司会「盛山文科大臣、なにかございますでしょうか?」

盛山正仁文部科学大臣「私はノミの心臓で、すぐ上がりやすい方なんですけれども。その最終局で永瀬(拓矢)九段がですね。打ち間違いかどうかは知りませんが、指されて。それで、そういうときに、藤井竜王・名人はどうお感じになったのか。あるいは一分将棋で、ですね。すごく限られると、やはり平常心を持つってことは大変難しいんじゃないかと思うんですね。いまも羽生会長からお話がありましたけど、そういうときに落ち着いて、ちゃんとこの将棋を冷静に判断して指せるっていうのは、どういうふうなことなんでしょうか?」

藤井聡太八冠「はい。平常心というのは将棋を指す上で本当に、非常に大事なことではあるんですけど。ただやっぱり一方で、それはやっぱり非常に難しいことでもあるので。やっぱり私自身も、読みにない手を指されたときとか、やはり、なかなかそれを保つのが難しいということもあるんですけれど。特に一分将棋のような、やはり時間が限られている状況だと、なかなかその予想していない手に、すぐに対応するということは、難しいので。一分将棋の中で一つの手を深く掘り下げて読んでいく、というよりは、多くの候補手を広く、浅く、読んでいって、なるべく、どんな手を指されても対応できるようにするということを一つ意識して、対局をしています。

盛山「ありがとうございました」

司会「それでは最後に総理から一言お願いいたします」

岸田「ありがとうございます。先ほど、羽生会長からも、藤井人気で、ますます子どもたちの関心が将棋に集まる。こういったことが期待できる。そういったお話もありましたが。藤井竜王・名人としては、子どもたちに『将棋ってのは、こんな面白いもんだ』と。『将棋ってのはこういうもんだ』というふうに伝えるとしたら。将棋っていうのはどういうものだというふうに伝えるでしょうか。もしなんかあったら、お聞かせいただけますか?」

藤井「はい。そうですね。本当に将棋の魅力というのはとてもたくさんあります。とても一言では表せないというところではあるんですけど。私自身が子どもの頃、将棋を始めたときに一番感じた面白さは、やはり終盤のお互いの玉が、詰むか詰まないかと、そういった緊迫した状況というのが非常に指していて一番面白いなということを子ども心に感じていましたので。将棋というのは取った駒を使えるというのが大きな特徴としてあって。それによって、中盤、終盤と局面が展開するにつれてどんどん複雑になって、また緊迫していくというのが、すごく将棋の特徴でもあって、また最大の魅力の一つでもあるのかな、というふうに思っています」

岸田「なるほどねえ。確かに取った駒が使えるとか、やっぱりほかのゲームにはない要素っていうのはいっぱい詰まってるんでしょうね。ありがとうございました」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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