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GKとCBでパス4往復、日本代表のビルドアップ問題 @0014catorce マリ戦レビュー(2)

小澤一郎サッカージャーナリスト
マリ戦で代表初出場・初ゴールの中島翔哉(写真:ロイター/アフロ)

中西哲生  (マリは)前でこの3人、プラスアルファ。ここは守備の時も引いてますから、言うならばある程度こういう状態の中(ドリブル)で運べるスペースはありました。

坪井健太郎  ありましたね。最初は2対1なので。

戸田和幸  僕が思ったのは、立ち上がりに止めたところから蹴って、上手く行ったじゃないですか。

坪井  ありましたね。23番のところですね。

戸田  だからちょっと味をしめたじゃないですけど、運ぶことよりも、ここ(前線のスペース)に蹴るということが大きくなったのかな、という見方もしたんですけど。状況で言えば変わっているのですが、蹴って誰もいないというのもありましたし。確実にフリーなので。最初のコントロールが全部足元に入るんですよ。その時点でグッと前に出ていかないと、逆にファーストラインをパス(突破)できないと思うので。結局マークをついている人に預けて、戻ってきてプレスをかけられて下げて蹴るというのがだいぶ増えました、前半は。(ボールを)持っているんだけど持たされる感じになって、こういうところ(=敵陣)に入って行けなくなりました。

今回の@0014catorce論客、左から中西哲生、戸田和幸、坪井健太郎 (写真提供:@0014catorce)
今回の@0014catorce論客、左から中西哲生、戸田和幸、坪井健太郎 (写真提供:@0014catorce)

中西  そこの問題に対しては、スペインでずっとコーチをされてらっしゃる坪井さんは大きく理解されていると思います。「運ぶドリブル」ということに関して、ビルドアップの部分でのクオリティということに関しては、どういう解決方法がありますか?

■「運ぶドリブル」を使ったビルドアップのやり方

坪井  まずは後ろで2対1、槙野、昌子対ワントップ(10番)がありますので、そこではがすという時にドリブルをする必要があります。そうすると4番か19番が出てきます。

戸田  おびき出したいんですよね。

坪井  はい。4番が出てくれば、長谷部に出せばOKです。

戸田  多分(久保が)こうなるはずなんですよ。で、多分(宇賀神は)こうなる。

坪井  19番が出てきたら、サイドバックにパス。もしくは。

中西  こう来たらこっちにパス。

坪井  もありますし、中に入った久保に預けて、3人目という形もあるので。

戸田  実際、いわゆるハーフスペース、外側から2つ目のレーンのところを取るのが上手だったんですよ。(久保は)いいところを取っていたので。

坪井  あれは指示なんですかね?

戸田  あれは彼の感覚じゃないですか。逆はそんな形があまりなかったので。

坪井  4-1-4-1のワンボランチの脇というのはまず狙い所ですから。崩すにあたって。

中西  ここと、ここをある意味ハーフスペースだったところに上手く、タイミング良く何回か入ってきましたね。

戸田  ボールが入ってこない時も多くて。

■時間のない代表チームでプレーモデルをどう浸透させるのか

坪井  いるんですけど出し手が「出していいのかな?」とか見えてないことがありました。そこが多分、急造の代表チームの難しいところで、プレーモデルを浸透させるまでのトレーニングの時間もない。でもその中で、きちっと落とし込む作業がスタッフには求められることになると思うので。その部分は、(代表チームの)中で何が起こっているかわからないですけど、もう少し明確なプレーモデルがあってもいいんじゃないかなと思います。個人的には。

戸田  じゃないと効果的に、意図的に敵陣に入っていくというのは、なかなか難しくなって。立ち上がりみたいに若干アバウト気味なボールで、こぼれ球狙いというのが増えてしまうと思うし。実際、かなり(アバウトなボールに)終止しちゃったなというところがあったので。その動き出しの良さというのが共有できているはずだから。あったんですけど、ないわけじゃなくて。彼(久保)から宇賀神に入ってワンタッチのクロスというのもありましたから。基本的に1枚で出たタイミングでちょっと遅れてこっち(右)側は何回か取れていたので。

中西  この辺りで前向きにボールを持てて、崩せそうなイメージになっていることもありました。

坪井  あと周りに絡んでくる人のオーガナイズもすごく大事で、僕らもすごく気をつけるのはここのスペースを取るという時にはセンターバックをもっと奥に押し込みたいので、大迫、森岡のトップを斜めに走らせて、深さを作る。

中西  彼らが斜めに走ることによって、深さを作ったところでこういうことですね。

坪井  あとはボランチのオーガナイズも、どちらか1人が残り、もう一人が3人目で前向きで久保からパスが受けられるように。

中西  こう入ったボールをこういうところ。

坪井  そういうような周りのオーガナイズも入ってくると、より効果的に流動的に。

戸田  スペースが作れて、使えるという感じなんですかね。

坪井  そうですね。

中西  そういう問題を抱えつつも、これは今後解消できそうなものなのですか?

戸田  さっき坪井くんが言ったプレーモデルの話になりますけど、基本的にビルドアップというところは、代表チームは積極的には取り組んできていないじゃないですか。やはり、プレッシングからショートカウンターがメインだとして。

中西  相手がボールを持ってくれれば。今回はある程度握れた、握らされたという中で、ビルドアップの部分で上手くこういう約束事ができてくれば、まだ十分ワールドカップに間に合う可能性はあるということですかね?

坪井  僕はシャドートレーニングでのイメージトレーニングを、(自分が指導する)ユース年代でやっています。続けていくことでイメージは何となく形にできてくるので。

中西  5月中旬から5月30日のガーナ戦に向けて、ある程度時間があります。そこでオーガナイズしていくことは可能ということですか?

戸田  相手の陣形に対して、優位性が取れる場所はわかるじゃないですか。その前提で、シャドー的なこと(=練習)をやっていけば共有はできるよね。どこのスペースというのは。

坪井  例えば僕らのチームの場合、毎週、毎週プレーモデルが変わるんですよ。攻撃のポイントも変わるし、そこに対して週に1回のシャドートレーニングである程度イメージを落とし込むことは不可能ではありません。だからこのレベルになれば、もっとそれは可能だと思います。レベルは高いですから。

■GK(中村)とCB(槙野)のパス4往復から推測できること

中西  選手たちは頭を使ってプレーできるわけですから。そして、試合は後半に移り、後半は戸田さん。

戸田  後半は相手が(守備の)オーガナイズを変えました。(前半アンカーだった)7番を今度トップ下に持って行った。(前半の)彼ら(=マリ)は(日本に)ボールを持たせていたのでしょうが、より積極的にボールを奪いにいくということで、中盤で見させたところからビュンと早めに行くようになったら、なお日本の方がアップアップしてしまって、という感じになりましたし。僕が特徴的に覚えているのが、後半の何分かな、槙野と中村(航輔)のところでパス交換が4往復あったんです。

中西  ありましたね。ここでボールを持っているところで、ここでこういうパス交換が。

戸田  66分ですね。1、2、3、4と。結局、ここからボールを蹴って、というだけになってしまいましたけど。相手はツートップというのがわかっていて、その時は三竿(健斗)が出ていたんですけど。ツートップの背後気味にポジションを取っていましたが、そこにボールが入るわけでもなかったですし。センターバックのポジションが変わるわけでもなかったですし。ベースカメラがすごく近かったので全体が見辛くて、もっとベースカメラを引いて撮って、というのは僕の仕事(=解説業)からいうと言いたいですけど(笑)。どこが制作したのかわからないですけど、ヨーロッパ(の制作会社)だったらあのアングル、ベースはないな、というくらい近かったのでわからないですけど。1、2、3、4往復あって、蹴って終わってしまったというのがあって。もう66分ですから。相手のやろうとすることは見えてきた中で、効果的なボールの運びでもなかったので。そこはすごく気になりました。

中西  その辺は戸田さんにあえて聞きますけど、W杯前の、最終選考の前で、自分があまりアグレッシブにいけない部分があるのですか?

戸田  チャレンジし難いということですか? その結果ミスをしてしまうと……。

中西  選ばれたいとか、自分がこのゲームでリスクを冒す、というのも当然大事だとは思いますけれど、選ばれたいということで監督に求められていることを実践する、もしくは自分としてもリスクを冒せないというのは。

戸田  実際に長いボールを、という指示が出ていたのは見聞きしました。

坪井  あの状況は、ツートップで縦の侵入、パスを切られていた状態でした。蹴りたくても蹴れない時ってあるじゃないですか。その時のソリューションをどこまで選手として持っているか。また、周りの選手がパスコースを作れているかというのは、ちょっと確かに勇気がなかったかもしれないですよね。三竿も若いので。

戸田  (そこに)いるんだけれど、「出せよ」という振る舞いには見えなくて。

坪井  その辺がもう少し代表の場でアピールをするという部分が、あるのかないのかによっても、選手にとっては入るか入らないか。

戸田  ピッチに出る時に要求される役割があったとして、それは違うことだと思うので。GKから引き出して運べとかは、言われてはないと思います。明らかに。そこに対して積極的に行くよりは、出たボールに対してサポートに行こうとか、その迷いを感じながらポジションを取っているようにも少し見えました。いずれにしても、あの形で前にボールを蹴っても難しいと思います。サポートがそこにヒュッと入ったわけでもなかったですから。そういうのは相手がオーガナイズを変えて、より守備を、という時に持っておかないといけない部分だと思いますし。

中西  バリエーションとして。

戸田  もう66分なので。(後半開始から)20分経ってますから。

■中島翔哉に見えた自信と長友との連携面での課題

中西  その後、入ってきた中島翔哉ですが、彼は一定の、今言ったことで言うと自分がボールを失う、というよりも「自分が仕掛けよう」という。

坪井  自信を感じましたよね。

戸田  中島が取っていたのはまたここ(ハーフスペース)なんですけど。そういうポジショニングも含めてですけど、小回りも利きますし、近くに相手がきてもリラックスできていて、明らかに自信は感じましたね。

中西  要するに回転半径の小さいターンをしながら、身体の大きい選手をはがしながら、シュートに行ったシーンもありました。最終的には自分でゴールを陥れるということにもなりました。

戸田  あとはドリブルができて右利きだからカットインという選手が出た時に、どういうサポートをすればよりゴールに近づけるかというと、64分にうまく展開してボールが入った時に、長友が内側にドーンとかけ上がってきたんですよ。結局(中島が)カットインしようと思ったらぶつかる形になってしまって、というのがあって。その辺がそれぞれのイメージとか、チームとしてどこを取って行くかというのが、ちょっと共有しきれていないランニングの1つかなと思ってしまって。中島が出ました。ここですからボールを受けたの。基本的に右足なのでカットインするとして、内側にオーバーラップは必要ないと思いますから。こっち(右)からボールがきたので。基本的にはこっち(左サイド)に取ったほうがいいですけど。その辺がかみ合っていないな、というのが64分だったので。

中西  それは(中島が)今回初代表だったということも多少あると思いますし。その辺りの改善というのもなされて行くと思います。

戸田  あとは2試合で、ここ(サイドの深い位置)を取りに行くとか。クロスがなかなか入らない。中の動きが止まってから、インスイングで入れる(アーリー気味の)クロスは結構あるんですけど。流れの中で上手く深い位置まで入って行って、というのはなかなか作れていない。

中西  ニアゾーンと呼ばれる地域にアプローチするようなクロスだったり。

戸田  先ほどの(中島のカットインと長友のインナーラップの)ガチャというのがあった後に、もう一回長友が外からかけ上がって中島からボールが出て、ラインを割ってしまったんですけど。そういうのは後に出てくるんですけど、日本としてなかなか相手をひっくり返すとか、ずらして間をとって行くとか、意図的なものはこの試合も含めてなかなか出てきていないな、というようには感じました。同点になったシーンも実は相手のカウンタースタートなので。こぼれ球を大迫と三竿のところでごちゃごちゃとなって奪われて、たまたまパスが引っかかったんですよ。そこから裏返しのカウンターになったという意味で、そんなに良い形でつながったという感じではないですね。

中西  意図的ではないですよね。実際に試合は1−1の引き分けだったんですけど、アフリカの選手に対してどうする、自分たちがボールを握れなかった時にどうする、という課題は見えていたと思います。(逆に)収穫としてはいかがでしたか?

戸田  フレッシュな新しい選手が自信を持ってプレーができたというのは1つポジティブなことだと思います。アフリカというものをアフリカ人で形成されているチームと対戦する経験というのはなかなかありません。ヨーロッパでプレーしていても。

中西  PKのシーンも最後ギリギリでぱっと足が出てきて、相手の足を蹴ってしまったというシーンがありましたけど、ああいうところも自分の経験値としてこの後自分のものにできる部分だったのかなと。

戸田  ただ、難しいというか、厳しい試合だったのは間違いないと思いますけど。

中西  修正ポイントというのは先ほどから言っている、相手の変形に対してのこちらの対応。

戸田  ボールを持った時に、特にゾーン1から2に入ってきたところ。縦を3つに切ったとしたら、自陣の1から2に入っていくところがなかなか。

坪井  オーガナイズが。同じスペースに2人入って来てしまったり。そう言った部分もあるので、もう少し整理したほうがいいと思います。

中西  要するに、もう少し配置のところで整理すればもうちょっと簡単にボールを握れて、上手く回せた可能性があるのに、それは勿体無いないということですね。

戸田  大迫を見ていて思ったのは、基本的に少しボールから遠い側の、簡単に背負わないというか、背負わなければいけない時には身体を預けるのは上手いですけど。センターバックに対して、同一視野を取らせないところからヒュッと入ってきたりとか、彼は上手だなと思います。

中西  ここからこうやって入ってくる。

戸田  高さがあるわけではないですけど、ヘンディングのポイントも持っているので。それなりのボールが来れば、手前で触ることもできますし。という意味では、すごく起点になれる選手だなと思いました。あとは森岡をここ(=トップ下)で使った時に、監督が何をさせたくて置いたのかな、というのが。

中西  ボールが(頭の)上を通り抜けることが多くて、彼は基本的に下でボールを受けたい選手なので。

戸田  というのもありますし。トップに近い役割を与えていたように感じるので。セカンドトップ的な。(それでは)なかなか彼の特徴が出しにくい。

坪井  ライン間に入って受けた時には、さばいてもう一回動き出したりとかはしていましたけど。

戸田  前半はここ(DFラインの背後を)取りに行った時がありましたけど、チームとして見えていないので。

中西  要するに個人の価値観でそこに行っていると。

戸田  そうですね。彼も自分の感覚でここ行けるということで。

中西  不安定な23番の背後ですから。

戸田  なかなか努力しているものが形としてポジティブなところまで持ち込めなかったところは、結構悔しかったのではないかと思います。

(写真提供:@0014catorce)
(写真提供:@0014catorce)

代表初出場・初ゴール 中島翔哉の評価 | 「日本×マリ」レビュー(2) | THE REVIEW #1

なぜ日本代表は前半13分以降、マリに押し込まれたのか? @0014catorceマリ戦レビュー(1)

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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