なぜ日本代表は前半13分以降、マリに押し込まれたのか? @0014catorceマリ戦レビュー(1)
中西哲生 それでは日本代表ベルギー遠征のレビューを進めたいと思います。まずマリ戦からですけど、試合前の状況として戸田さん、メンバーを見るとGKは川島(永嗣)ではなかったですね。
戸田和幸 そうですね。
中西 ここはやはり、テストという意味合いが?
戸田 そうでしょうね。2試合をどうやって使うのかと思ったのですが、基本的にGKは1試合ずつになったので。どちらが先ということも含めて。パフォーマンスのレベルは(二人共に)高いですから。(中村航輔を)使ってみたかったということで、こちら(中村)になったのでしょう。
中西 DFラインですが、右サイドに怪我人、酒井宏樹が怪我ということで。
戸田 あとは遠藤(航)。
■「クリエイティビティを発揮する方法で試合を作りたいのかな」と思わせる中盤のメンバー構成
中西 遠藤も合流はしましたけど。宇賀神(友弥)は元々左サイドバックの選手ですが、今回は右サイドバックと。そして、ミッドフィルダーですが、長谷部(誠)の相棒に選んだのは大島(遼太)でした。そして、その前に森岡(亮太)、右に久保(裕也)、左に宇佐美(貴史)、(FWに)大迫(勇也)という組み合わせ、並びでした。この中で気になったところはありますか?
戸田 (サイドの選手は)タッチラインが逆に来るだけで、元々見ている視野が逆になるわけですから。
中西 景色が変わりますよね?
戸田 そういう意味では(宇賀神にとっては)難しかったんだろうなとは思いました。
中西 本人にとって非常に。
戸田 難しくなるだろうな、難しかったんだな、というのはAマッチが初めてということも含めて、ちょっと彼(宇賀神)にとっては残念でした。
中西 坪井さんは気になるところ、キャスティングのところで気になるところありますか?
坪井健太郎 トップ下の森岡ですね。若手で食い込んで来たタイプの選手です。
中西 ここのところ、(所属チームで)結果を出し続けている選手。
坪井 このレベルの試合でどれだけのパフォーマンスを出すか、ということを監督も見たかったのではないかと思います。
戸田 長谷部中心に、大島と森岡で。この中盤の組み合わせを見た時に、クリエイティビティを発揮する方法で試合を作りたいのかなと。特に大島がここに来ましたから。
中西 要するに、守備重視でガチっといくのではなくて、ボールをある程度保持して、コントロールしながら。それはマリが相手だったからということがあるのでしょうか?
坪井 おそらく、アフリカ勢のチームで多少、組織的に脆いところも見えた。あと、若手中心ですからそう言った部分でゲームを支配できるという読みもあったのかもしれません。
戸田 (W杯)最終予選(のマリ)はグループリーグの一番下でした。ただ各選手見てみると、能力はそこそこあって、というところはあります。どれだけプレッシングに来るのか、ということも含めて情報がない。情報がない中でチームを組む時に、使って見たい選手を優先したのかな、というようには単純に感じました。
■オーガナイザーとしての能力の高さを披露した大島
中西 実際に試合が始まって、どうご覧になりました?
戸田 ここ最近の代表の試合を見ていると、例えばプレッシングから入る、長いシンプルなボールから入る、というところで言うと、少し(マリの)最終ラインが高いけれどガタガタだったので。シンプルに昌子(源)からのボールなどでゴールに近づく場面はあったのかなと。そこは意図した感じで長いボールは使って、大迫がそこで競ったところのこぼれで、久保が出ていくとか。形でいうと(大迫が中盤に)降りたところに(サイドハーフが)斜めに出ていく感じになるのでしょうが、その辺は少し見えました。
中西 序盤目立ったのは、やはり大島がだいぶボールをデリバリーできていたこと。しかも、早いタイミングで前を向いて、前にボールをつける回数、パススピードも早かったですし。そう言った意味では、目立っていたと思いますが?
坪井 彼のプレーを見ていると、常に周りの状況を察知して、どこがフリーなのか、どこにスペースがあるから自分がどのように入って行って、その後どこに出すのか、というのを見ている回数が非常に多い。オーガナイザーとしての能力が高いというのは見ていて感じました。彼中心にボールを配給していく、隣に長谷部がディフェンス面でしっかりハードワークできる、というこの組み合わせに関してのボランチのバランスはいい組み合わせでした。
戸田 あとは動作のスピードが速くて、しっかり状況が把握できているので。スムースに縦のボールを入れる場面が確かに他の選手と比べても、自信を持ってできているなというところと、そこで攻撃がぐっと前に入っていく感じはありました。
中西 その流れの中で、大島が相手のボールを奪って、早い攻撃で宇佐美につけて。
戸田 宇佐美がこの辺でしたけど。(相手の)最終ラインが少し高かったので。ここからこうやって出ました。
中西 そうです。ここから久保がループ気味にいって。ここでもし決まっていたら、確実に試合の流れとしては違ったものになっていたのでしょうが、決まらずに、それが前半10分くらいでした。
戸田 その前後に、一回日本にピンチがありました。宇賀神からのボールがずれまして。
中西 ボールを奪われて、相手の選手が斜めというか、縦にボールを入れて長友(佑都)と槙野(智章)の間にボールが入って。
戸田 グッと来て、抜け出されて。
中西 最後は、中村がいいタイミングで飛び出して来て、ジャストストップみたいな感じでした。
戸田 あの辺は確かに、(ボール)ロストのし方が良くはないので。敵陣に入る手前で横パスをカットされて、一本つながって、7番から出たんですけど。長友も攻撃に入るタイミングからフルスプリントで戻って。ただ、ここに相手がいたかというと、実はいなかったので。そうすると少しカバーリングのところが、もう少し上手くできたのではないかと思いました。槙野のところですね。
中西 最後のこのパスのところを、ちょっとこういう動きで重心を。
戸田 パスのレンジも長かったですし。矢印でいうとこういう形のボールなので。こうではなかった。ちょっと外目から内目に入ってくるボールだったので。だから長友は間に合わなかったんですけど、もう少し距離を詰めておいて、準備が良ければ前か、もしくは横でカットができたかなと。
中西 そこを何とか中村航輔の好守で凌ぎました。その後に大島のボールを奪ったところから、宇佐美から久保、という形になりました。そこまでで、日本としてはある程度、ピンチは一つありましたけれど、ボールは握っていて。
戸田 割とシンプルにこっちに持って来て、その後相手のゴールキックを10分くらいですかね。長谷部が跳ね返して、大迫がコントロールした時に久保がまた出て行きました。斜めに。シンプルに中盤を経由するというよりは、こっちを目指して、シンプルに背後を取りに行くというのは目指していたので。10分くらいまでは、決定機も作られたのですが、前に、前にという感じで、それなりに効果はあったのかなと。確かにそこで1点取れていれば、という見方はできるんですかね。
坪井 相手のセンターバック間の連携もそれほど良くなかったですから。
戸田 だいぶガタついていました。
中西 ここの(センターバックの)2人が。特に、この23番の選手のところがかなり。
坪井 前にはすごく強かったんですけど、背後の対応というところはすごく不安定でした。
戸田 準備ができていなかったです。
■マリのオーガナイズ変更によって流れが変わる
中西 ただ流れが変わる出来事が。(アンカーの)7番が。
戸田 そうですね。多分、守備をする時に日本がこういうように入っていたので、ちょっとボールがもらえないな、というところで窮屈だったので簡単に言えば(2CB間に)落ちましたよね。
中西 要するに、このセンターバック2枚に対して、(日本は2トップ気味に)バチっと行っていたんですけど、(マリは)後ろを3枚にした。
戸田 オーガナイズを変えました。
坪井 変えましたね。(後方)3人でのビルドアップですね。
戸田 12分くらいですね。
中西 これによって、日本はどういう状況に追い込まれたのでしょう?
坪井 まずは2トップが3人に対してプレッシングをかけなければいけないので、スライドしながら対応すると。
中西 こういう動きですね。
坪井 そうですね。2人でスライドしながら対応すると。あともう1つは、サイドバックもかなり高い位置を取っていました。そこに、日本代表の守備はワイドの選手はサイドバックについて行く、というのが決め事としてあるので。そのような形になります。
中西 こうなると重心が下がる?
坪井 下がります。
戸田 例えば、この3バックに対しての守備として、他の効果的な守り方というのは何がありますか?
坪井 相手のサイドバック、例えば6番が深い位置に行った場合は、普通は相手チームの19番が中に入ってきますので、彼をボランチに任せて、宇賀神が6番をつかまえる。久保はそこに残る。この時に23番の横パスに対して久保が出て行く。もしくは4番が(SBが空けたスペースに)降りてくるケースもあります。そこに対してゾーンで留まるというような守備の仕方をしておけば、ズルズル下がらずに済みます。
戸田 自分たちのオーガナイズは崩れないということですよね?
坪井 そうですね。
戸田 これは相手に引っ張られて、サイドが下がってしまったから、ボールがここにあるんですけど、日本の選手がこっちに来てしまって、距離も開いて、という意味では相手はより楽にボールを運べるような形に変わってしまったということですね?
坪井 そうですね。
中西 日本としては当然7番が下がっているので、相手が変形したという意識はあるでしょうね?
坪井 FWが気づくでしょう。
戸田 でも基本的に2(トップ)でずっと追いかけている感じが続いたと思います。
中西 そうなった理由は、先程話した通り、サイドバックの選手に対して日本代表は、おそらくこれは今回の一つのキーワードだと思いますけど、ほぼマンツーマンで人をつかまえに行く。要するに、2人を同時に見るというよりは、人について行くという。
戸田 担当も決めて、受け渡しもそれほどせず、しっかりとついて行こうと。
坪井 それはわかりやすいですから。
■人についていくマンツーマン守備のメリット、デメリット
中西 そういう意味では、代表チームにおいて戦術をオーガナイズをする時、1つの方法論としてありですよね?
坪井 1つの方法論としてはありですね。ただ全てをまかなえるわけではないので。
中西 そこで日本代表として1つ対応しなければいけなかったところを、対応しなかったのか、できなかったのか、あえてしなかったのか。
戸田 こういう守備戦術がないわけではないです。ある程度担当を決めて、重心を下げてでも、そこで奪ってシンプルにというのでパッと思い浮かぶのは、マンチェスター・ユナイテッドですから。モウリーニョの。ただ、かのチームにどういう選手がいるかというと、身体的には確実に相手を上回っていて。大きくて、速くて、技術がある選手が揃っている。一番前にはルカクがいる。真ん中にはマティッチがいる。センターバックにエリック・バエリーがいる。そういう猛者たちが自分の担当を決めて、「お前には自由にさせないぞ」というのがマンチェスター・ユナイテッドのやり方なので。
中西 人に対して付く時の優位性を保てる。
戸田 ここだったら負けないよ、という。
坪井 特にフィジカル面ですね。フィジカル面で優位に立つ場合は、機能しやすい。
戸田 それが日本の場合はどうしても、フィジカル的に優位性は保てないのが前提なので。中で人、人となっていくと、自分たちの距離が崩れると思います。プレスバック、カバーリングはしづらくなるし、というところで後手を踏むというか、局面の争いになると勝てない、というのが出た試合だったようには見えました。
中西 一つ目のターニングポイントは相手の7番が(2CB間に)落ちた。そこから前がミスマッチになって、日本が全体的に下がってしまった、ということだと思います。
戸田 そのオーガナイズ変更の他に何かマリが効果的なことができたか、というとそうでもないと思います。
坪井 この配置上、4番、11番、14番、19番の4人が中でプレーするという構造になっています。一応、ビルドアップの方法としては中盤を経由したいという構造です。日本の守備の構造としては、大迫と森岡がこの3人に行きますので、どうしても4番と11番、それから14番、19番に対して(中盤で)「2対4」ができてしまっています。長谷部、大島のタスクとしては、相手のスタートとしてのインテリオール(インサイドハーフ)にあたる11番と4番に行け、という指示が与えられているのですが、自分の背後も怖いと。そこで(各自)1対2ができているというのが非常に困った部分じゃないですかね。
中西 要するに、日本の守備のラインの前のところで、ミスマッチができている。あとは、スペースも少しあった、ということが試合を少し難しくしたと?
戸田 あと攻撃でいうと、後ろからビルドアップする時に、基本相手はワントップで始まって、途中(後半)から(もう)1枚出て来るんですけど、センターバックの運ぶドリブルが。日本の課題だと思いますけど、育成からの。数的優位をいかに効果的に、敵陣まで持って行くかという意味では。2対1の状況から効果的に運んで、次の人にボールを渡していくという作業はほとんどできなかったですね。