【インタビュー後編】ジョシュ・ホーミがもっと語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのニュー・アルバム『ヴィランズ』についてバンドのギタリスト兼ヴォーカリスト、ジョシュ・ホーミが語るインタビュー。
『フジ・ロック・フェスティバル17』では初日(7月28日)ホワイト・ステージのヘッドライナーとして出演、フェスのハイライトのひとつといえるライヴを披露した彼らだが、前編記事に続く後編では、アルバム収録曲についてより深くジョシュに語ってもらおう。
ロックンロールはワイルドでありロマンチック
●『ヴィランズ』の“新しいサウンド”をどう表現しますか?
クイーンズの初期の作品にはダーティーなスプリング・リヴァーブがかかっていたし、ヴォーカルも輪郭がハッキリしなかった。ドラムスにもゆったりした空気感があったんだ。でもこのアルバムの1曲目、「フィート・ドント・フェイル・ミー」でジョン・セアドアがバシッと叩き始めた瞬間、すべてが新鮮な刺激に包まれる。古いスタイルは吹っ飛んでいくんだ。そして新しいサウンドがリスナーの顔面にへばりつく。仮面のようにね。ドライなドラム・サウンド、クリアーな音像。ゴーグルをつけて水中に潜って、底にあるものがすべてハッキリ見えるようなんだ。
●「フィート・ドント・フェイル・ミー」はダンサブルなロックで、まさにクイーンズとマーク・ロンソンの合体を象徴する曲ですね。
うん、最高のドラム・ビートの曲だよ。オートマチックで身体が動くように仕組まれている曲だ。ただ実際のところ、俺は常に“踊れる”ロックをやってきたと思う。『...ライク・クロックワーク』(2013)は比較的ミッドテンポでフィーリング重視だったけど、『エラ・ヴルガリス』(2007)の「ミスフィット・ラヴ」なんてダンス出来るタイプの曲だろ?案外みんな気がつかないものなんだ。『...ライク・クロックワーク』のときも“新しいエモーショナルな方向性ですね!”なんて言われたけど、『エラ・ヴルガリス』の「メイク・イット・ウィチュー」なんてかなりエモーショナルだったと思うよ?これまであったダンサブルな鍵のダイヤルがピッタリ合って、みんなが気付いてくれたんだ。そのことを決して悪くは思わない。「俺たちがダンサブルだと気付いてくれて有り難う!」と感謝する。
●「ザ・ウェイ・ユー・ユースド・トゥ・ドゥ」はかつてロックンロールが若者、特にティーンエイジャーのものだった時代を思い出させます。当時はチャック・ベリーやビートルズでも、ロックンロールでダンスすることは自然なことでしたが、『ヴィランズ』で“踊れるロック・アルバム”を作ったことは、ロックンロールの原点回帰といえるでしょうか?
かつてロックンロールが若者向けで、最近では必ずしもそうでないことは、俺も認識している。いつも昔のロックンロールを聴いているからね。だから「when I met her she was 17〜♪」というフレーズには懐かしさも感じるんだ。純粋なノスタルジアだよ。
●チャック・ベリーの「スウィート・リトル・シックスティーン」やビートルズの「アイ・ソウ・ハー・スタンディング・ゼア」も歌詞中でティーンの年齢を歌っていますね。
まあ、俺が当時のガールフレンドと出会ったのが、彼女が17歳のときだったんだけどね。あとサム・クックの「オンリー・シックスティーン」も大好きだよ。いつも聴いている。ロックンロールはワイルドな音楽であるのと同時に、ロマンチックでもあるんだ。子供の頃、サンフアン島のローシュ・ハーバーという所に家族旅行で行ったことがある。そこの墓地を見下ろす丘に、霊廟があった。その前にコンクリートのテーブルと8つの椅子があったんだ。すごく美しい場所だった。霊廟の管理人が言うには、この場所にハイスクールの若者たちが集まって。ビールを飲んで、星を見て、いろんな想いにふけったり...そのとき、俺はあのテーブルになりたいと考えた。いろんな世代の若者が通り過ぎていくのをずっと見つめている存在、それがロックンロールなんだ。
●アルバムのタイトルを『ヴィランズ』=“悪党”としたのは何故でしょうか?
俺にとってのロックンロールの“悪党”は、1956年ぐらいのジェリー・リー・ルイスなんだ。彼がTV番組に出演したときの映像を見たんだけど、彼の周囲を若者たちが熱に浮かされたみたいに取り囲んで、トランス状態で彼のことを見つめていた。まったくクレイジーだったよ。もし俺が彼らの父親だったら、ジェリーが本物の“悪党”に見えるだろうな。俺にとって“ヴィラン=悪党”とはそういう意味を持つんだ。たまにインタビューで“悪党”とはドナルド・トランプのことか?”とか訊かれることがあるけど、あんな奴のことを題材にしたりしないよ。誰だってやっているクソみたいなネタだ。俺の親友のジェシー・ヒューズ(イーグルス・オブ・デス・メタル)はロックンロールに人生を捧げているし、俺自身もそうだ。ロックンロールは最高にダーティーで、同時に最高にピュアなものなんだ。ロックンロールはナイーヴで、暴動の引き金にもなる。そういうものだ。俺の仕事は、月曜を土曜みたいに思わせることだ。正午を午前零時みたいに感じさせて、尻の穴から虹をかけることなんだ。ロックンロールには、どこか純粋無垢な要素があるんだよ。
●ロックンロールの元祖“悪党”といえばエルヴィス・プレスリーですが、アルバムの最後を飾る「ヴィランズ・オブ・サーカムスタンス」はエルヴィスの「ブルー・ムーン」からインスピレーションを得たそうですね?
うん、エルヴィス・ヴァージョンの「ブルー・ムーン」、それからディーン・マーティンの「想い出はかくの如く」かな。「ブルー・ムーン」はいろんなアーティストが歌っているけど、エルヴィスのヴァージョンが一番“孤独”が表れているよ。若い頃のエルヴィスのやり場のない孤独が見事に表現されている。「ヴィランズ・オブ・サーカムスタンス」もそんな孤独を描いた曲なんだ。
●一方、「アン=リボーン・アゲイン」のノリもグラム・ロックっぽくて良いですね。
Tレックスのバック・ヴォーカルが好きなんだよ。「チルドレン・オブ・レヴォリューション」とか、ファルセットが入って、ちょっと女性っぽかったりする。あの「ニャ〜〜」というバック・ヴォーカルはクイーンズのキャラのひとつとなったと思う。意識はしていなかったけど、リズムのノリも似たタイプかも知れないね。この曲のリズムは好きだし、一日中だってやっていられるよ。
●同じ「アン=リボーン・アゲイン」でジョージア・サテライツ「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」の歌詞の一節を引用しているのに笑ってしまいました。
あれはほとんどアクシデントみたいなものだった。スタジオでリハーサルして、曲にアレンジを加えているときのことだったんだ。クリスマスツリーの飾り付けをするみたいな感じでね。俺も一杯やっていたし、何の気なしに「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」の一節を口ずさんでみたんだ。そうしたらピッタリハマったんだよ。「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」は曲調が過剰なまでにアメリカンで、ミュージック・ビデオも大好きだった。トラックの荷台でバンドが演奏していてね。おそらく舞台はジョージアかどこかの南部なんだろうけど、俺は常に頭の中でカリフォルニア砂漠をイメージしていたんだ。ジョージア・サテライツのマネージメントに歌詞の一部を使っていいですか?と訊いたら快諾してくれた。ツアーでジョージア州に行ったら、ぜひ彼らに会いたいね。
●「ヘッド・ライク・ア・ホーンテッド・ハウス」は『エラ・ヴルガリス』の時期に書かれた曲だそうですが、ベーシックなパンク・フィーリングがあるのは、それが理由でしょうか?
うーん、どうだろうな。この曲は『エラ・ヴルガリス』のために書いた曲ではないんだ。同時期に、別のアーティストがレコーディングすることを前提に書いた曲だった。でも当時は完成できなくて、もっと何かワイルドな要素が欲しくて、しばらくしまっておいたんだ。歌詞もまだなかった。『ヴィランズ』に入れるために完成させたけど、確かに『エラ・ヴルガリス』は怒りに満ちたアルバムだったし、この曲にもそんな感情が込められているね。走り去って行くリズムを追いかけていくような曲調が好きなんだ。
カイアスが解散した理由は...
●イギー・ポップとの共演アルバム『ポスト・ポップ・ディプレッション』(2016)の1曲目「ブレイク・イントゥ・ユア・ハート」で、イギーの「I'm gonna break into your heart」という歌い出しのメロディが実にクイーンズらしいのですが、このラインは誰が書いたものでしょうか?
あのメロディは俺が書いたものだった。アルバムで最初に書いたのが、あのフレーズだったんだ。「I'm gonna break into your heart, I'm gonna crawl under your skin」という一節は俺とイギーが2人とも似たようなフレーズをイメージしていて、それを突き合わせて共作した。アルバムの1曲目は大事なんだ。1曲目がうまく行けば、アルバム全編がスムーズに進んでいく。うまく行かなければ、さっさと止めた方がマシだ。アルバム全体がイギーと俺、ディーン(ファーティタ/ベース、クイーンズ)、マット(ヘルダース/ドラムス、アークティック・モンキーズ)の素材がぴったりハマったレシピで、誇りにしているよ。イギーとのツアーも、あらゆることを学ぶ学び舎だった。もしかしたら1回こっきりだから美しく終わったのかも知れないけど、タイミングが合えばまたやりたいね。
●クイーンズ以前にあなたがプレイしていたカイアスは伝説のロック・バンドとして神格化されていますが、1996年に何故解散したのでしょうか?
俺が脱退したんだ。他のメンバー達に「お前たちが続けたければ、どうぞご自由に」と言ったけど、彼らはバンドを続けないことにした。それだけだよ。俺が脱退したのは、カイアスが行き止まりの壁に追い込まれていると感じたからだった。バンドの末期、俺はカイアスの音楽について“こうあるべき”という固定されたイメージに囚われていた。週6日、8時間リハーサルしていたし、排他的なルールを自分たちの中で作るようになった。外部の人間とジャムをしちゃいけないとか、あれもこれもダメだとかね。それに加えて、カイアスで俺は怒りを失いつつあった。15歳でバンドを結成したときは、向かう先のない怒りに満ちていた。でも20歳を過ぎて、怒りの矛先を失ったと感じたんだ。とにかく、もっと音楽で冒険をしたかった。カイアスの4枚のアルバムは、自分たちが誇りに出来るものだった。それを永遠のものにするには、終わらせる必要があったんだ。そうすれば永遠に美しいまま人々の記憶に残るからね。あのときの俺には、過去は封印して、新しい道を歩むしかなかったんだ。
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』
label:Matador / Beat Records
国内盤CD: OLE11822 ¥2,000 (+tax)
国内盤CD+T-Shirts: OLE11823- ¥4,500 (+tax)
国内盤特典:
スリーヴケース付き
歌詞対訳・解説書封入
現在発売中
現在発売中の国内盤の解説書には不備がありますので、レコード会社公式サイトで訂正版PDFをダウンロードして下さい。
なお印刷された解説書も無償で入手可能です。
http://www.beatink.com/Labels/Beggars-Group/Matador/QOTSA/OLE11822/