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「気候変動で洪水、土砂災害が心配」85.6%。国会で審議される「流域治水関連法案」

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
土砂災害の現場。宮城県丸森町にて著者が撮影

気候変動の影響で水問題がさらに深刻化

 2月5日、「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)の結果が発表された。

 この調査の目的は、「水循環に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする」ことで、18歳以上の日本国籍を有する3000人を対象に行われた(有効回収数1865人)。

 調査項目のなかに、「気候変動の影響による水問題」を聞いたものがある。

 「地球温暖化に伴う気候変動の影響により、水問題がさらに深刻化することが懸念されています。あなたは、どのようなことが心配だと思いますか」という問いに対し、上位3項目は、

 1)気候の不安定化による洪水や土砂災害の頻発

 2)降水量の変化や水温の上昇による自然環境や生態系への影響及び河川・湖沼の水質汚濁による上水道の品質悪化

 3)海面上昇による標高の低い沿岸地域の氾濫

であり、「気候の不安定化による洪水や土砂災害の頻発」と回答した人は85.6%にのぼる。

「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成
「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成

 2008年に行われた前回調査ではどうだったか。

「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成
「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成

 調査方法が、前回は「個別面接聴取法」、今回は「郵送法」と異なるため、単純な比較はできないが上位3項目は以下のとおり。

 1)気候の不安定化による洪水や土砂災害の頻発

 2)渇水の増大による水不足及び海外での食料生産の不安定化

 3)降水量の変化や水温の上昇による自然環境や生態系への影響及び河川・湖沼の水質汚濁による上水道の品質悪化

 1位は「洪水や土砂災害の頻発」で変わらないが、前回の68.2%から今回の85.6%へと、17.4ポイント上昇した。

 「洪水や土砂災害の頻発」を心配する人を世代別に見ると、10代、20代で77.9%だが、そのほかの世代は8割を上回っている。

「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成
「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成

毎年発生する洪水や土砂災害

 洪水や土砂災害は、ここ数年、毎年のように発生しており、急ぎ対策しなくてはならない。

 令和2年7月豪雨の発災から7か月が経過した。一連の豪雨は、九州、中部、東北地方をはじめ、広範な地域において、多くの人命や家屋への被害のほか、ライフライン、地域の産業等にも甚大な被害をもたらした。数多くの人が元の生活に戻れていない。

 近年発生した主な豪雨災害を以下にまとめた。

平成26年8月豪雨……同年7月30日から8月26日にかけて、台風12号、11号および前線と暖湿流によって広範囲で災害が発生。京都府福知山市では大規模な洪水被害が、兵庫県丹波市や広島県広島市では大規模な土砂災害が発生。

平成27年9月関東・東北豪雨……同年9月9日から11日にかけて関東・東北地方で記録的な大雨。鬼怒川、渋井川などで堤防が決壊し、周辺の住宅地が冠水。

平成28年8月北海道豪雨……同年8月7日から8月30日にかけ、4つの台風が北海道に上陸、接近、刺激された前線によって集中豪雨が発生し、農産物に大きな被害。

平成29年7月九州北部豪雨……同年7月5日、6日に九州北部にバックビルディング型の線状降水帯が形成され、福岡県や大分県を中心に記録的な大雨が降った。朝倉(福岡県)と日田(大分県)の日降水量は、観測史上1位を記録。

平成30年7月豪雨……同年6月28日から7月8日にかけ、西日本を中心に北海道や中部地方を含む広い範囲で発生。特に7月3日から8日にかけては、台風7号の接近や梅雨前線が停滞したことによって長時間豪雨が降り、河川の氾濫や浸水害、土砂災害が多発し、死者数が200人を超えた。

令和元年東日本台風(台風第19号)……関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、甚大な被害をもたらした。

 そうしたことから多くの人が、行政に対し、洪水や土砂災害の対策を求めている。

「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成
「水循環に関する世論調査」(令和2年10月調査/内閣府政府広報室)資料より著者が作成

今国会で審議される「流域治水」関連法案

 2月2日、政府は「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律案」(流域治水関連法案)を閣議決定し、国会に提出した。

 堤防やダムによって洪水を防ぐという、これまでの発想は限界に来ている。

 流域治水は災害多発時代に向き合う新たな考えだ。流域全体でハード対策、ソフト対策を行っていくというものだ。行政任せでなく、住民も「自分の住んでいる土地」について防災の視点で再考するなどの意識改革が求められる。

Yahoo!ニュース「防災の日」に考える堤防とダムの限界。あふれさせる治水と土地利用の変更が急務

 水防法や都市計画法、建築基準法などの改正を束ねており、施策は多岐にわたる。改正案の概要は以下のとおり(出所:国土交通省WEBサイト)。

改正案の概要

(1) 流域治水の計画・体制の強化

  ・流域治水の計画を活用する河川を拡大

  ・流域水害対策に係る協議会の創設と計画の充実

(2) 氾濫をできるだけ防ぐための対策 

  ・利水ダムの事前放流の拡大を図る協議会の創設

  ・下水道で浸水被害を防ぐべき目標降雨を計画に位置付け、整備を加速

  ・下水道の樋門等の操作ルールの策定を義務付け

  ・沿川の保水・遊水機能を有する土地を確保する制度の創設

  ・雨水の貯留浸透機能を有する都市部の緑地の保全

  ・認定制度や補助等による自治体・民間の雨水貯留浸透施設の整備支援 等

(3) 被害対象を減少させるための対策

  ・住宅や要配慮者施設等の浸水被害に対する安全性を事前確認する制度の創設

  ・防災集団移転促進事業のエリア要件の拡充

  ・災害時の避難先となる拠点の整備推進

  ・地区単位の浸水対策の推進 等

(4) 被害の軽減、早期復旧、復興のための対策

  ・洪水対応ハザードマップの作成を中小河川に拡大  

  ・要配慮者利用施設の避難計画に対する市町村の助言・勧告制度の創設  

  ・国土交通大臣による災害時の権限代行の対象拡大 等

 こうした施策を見ると、「流域全体」と言いながら、河川、下水道、雨水貯留浸透施設の整備など国土交通省が所管する事業に止まっている印象が強い。

 一方で、土砂災害が発生した土地を歩くと、皆伐地、大規模な間伐施業地、幅広の作業道などがある。皆伐された場所に太陽光パネルが設置されるケースも多い。

 流域治水の観点から森林はどうあるべきか。

 大切なのは流域の水循環を健全にすることだ。流域全体を見ながら、ハードを整備したり、土地利用を変えたりする必要があるだろう。

 法改正が防災、減災につながるかが重要で、国会審議に注目する必要がある。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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