食欲の秋、旅行の秋・・・秋ならではの「食堂車」を楽しもう!
猛暑だった2013年の夏もようやく終わりが見え、朝晩には秋の気配が感じられるようになった。秋と言えば鉄道ファンにとってはイベントシーズン。10月14日の「鉄道の日」に合わせ、多くの鉄道会社が様々なイベントを予定している。毎週末、どのイベントへ行こうかと今から頭を悩ませている方も多いことだろう。
一方、秋と言えば「食欲の秋」でもある。松茸や栗、秋刀魚といった山海の幸が食卓に上るこの季節、これらを列車内で味わうというのもなかなかオツではなかろうか。
というわけで、今回は「鉄道とグルメ」が同時に楽しめる、オススメ列車をご紹介しよう。
○明知鉄道で復活した「和食堂車」
新幹線をはじめ、多くの特急列車に連結されていた「食堂車」。今やJRで連結されている食堂車は、「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「北斗星」といった豪華夜行列車に限定され、かつてのように気軽に利用することはできなくなってしまった。これに対し、第三セクター鉄道や地方私鉄では、車窓を眺めながら地元の美味しい食材を味わってもらおうと、様々な料理列車が運行されている。中でも、岐阜県の明知鉄道はそのパイオニアにして代表選手と言っていいだろう。
明知鉄道で「グルメ列車」が登場したのは、開業間もない昭和62年7月。地元・山岡が生産量日本一を誇る、細寒天を使ったヘルシーな料理を車内で楽しめるとあって好評を博した。現在では地元産の自然薯やアユ、そして恵那が発祥地と言われるハヤシライスなど、様々なグルメ列車が企画されている。
そんな明知鉄道に転機が訪れたのは2011年3月。これまでは臨時の専用列車として運転されていたグルメ列車を、一般乗客も利用できる定期急行列車に昇格(ただし毎週月曜日は運休)同時にグルメ列車の名称を「食堂車」としたのだ。定期列車化に伴って時刻表にも運転時刻が掲載され、食堂車マークもちゃんと表示されている。必見なのはJTB時刻表で、なんと「和食堂車」のマークが。このマーク、戦前の時刻表で使用されていたものを復刻したもので、これが見られるのは明知鉄道のページだけだ。
さて、明知鉄道の食堂車で秋の味覚を味わうとすれば、オススメはやはり「きのこ列車」。キノコの王様・松茸はもちろん、シメジや舞茸、中にはロージ茸などという初めて見るキノコもある。すべて地元で採れるもので、珍しいものが採れたときには「臨時」に登場することもあるとか。調理を担当するお店も数店あるので、何度か乗車して食べ比べるのも楽しい。
○「おれんじ食堂」で不知火海と音楽を楽しむ
所変わってこちらは九州。九州新幹線の開業に伴い、並行在来線の運営会社として設立された肥薩おれんじ鉄道が受け持つ路線は、新八代~川内の116.9km。この風光明媚な路線を約3時間かけて運行するのが、今年3月にデビューした「おれんじ食堂」だ。
「おれんじ食堂」は1日3便を運行。それぞれ地元の新鮮な食材をふんだんに使った昼御膳、黒豚膳、夕御膳が楽しめるほか、地元出身のプロアーティストが乗り込んでの生演奏、さらに途中駅で開かれる産直市場「駅マルシェ」やクルーによる「楽しい鹿児島弁講座」などのサプライズイベントと、食事以外にも充実のひとときが過ごせる。
そして肥薩おれんじ鉄道といえば、なんといっても不知火海を望むオーシャンビュー。絶景ポイントでは速度を落としてくれるサービスも心憎い。移り行く景色を見ながら食事や音楽をゆっくり楽しめるのも、鉄道旅行ならではの魅力だろう。
○調理風景が見られる「ライブキッチンスペース」
これからデビューする料理列車もご紹介しよう。今年10月にデビューとなるのが、JR東日本のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」。東北地方の復興支援や地域活性化を目的に、既存のディーゼルカー3両を改造して、沿線の食材を使った料理を車内で提供する。
この列車のウリは、2号車に設けられる「ライブキッチンスペース」。文字通り、乗客の目の前で調理が行われるというものだ。これまでに紹介した列車はいずれも、予め調理された料理を車内で提供するというスタイルがほとんどで、本格的な調理を車内で行い、その光景をエンターテイメントとして乗客に見せるというのは近年にはなかった試みである。
「TOHOKU EMOTION」は、10月19日から土日を中心に、八戸線で1日1往復(八戸→久慈のランチコースと、久慈→八戸のデザートブッフェコース)が運行されるとのこと。どんな列車となるのか、今から楽しみだ。
○丹後の魚を肴に地酒が味わえる!?
最後にご紹介するのは、京都府の北近畿タンゴ鉄道。今年4月にデビューした観光車両「あかまつ」「あおまつ」に続く第2弾として、新型観光車両1編成を来春導入することが明らかになった。約3000万円を投じてリニューアルされる車両には、地元の魚介類を使った料理を味わえるスペースや、地酒等を提供するカウンター等も設置されるという。
丹後地方は松葉ガニや寒ブリ、カキといった海の味覚がそろっている一方、実は10社以上の酒蔵が集まる酒処としても有名である。車内で地酒を楽しめる列車というのはなかなかないだけに、どんな列車が誕生するのか、今から楽しみだ。筆者としては、丹後地方の酒蔵が一度に楽しめる「利き酒メニュー」などをぜひ作っていただきたい。
明治から昭和の時代、食堂車があくまでも「移動手段のオマケ」だったのに対し、今回紹介した料理列車は、列車に乗って食事をすること自体が旅の目的となっている。地産地消を通じてその地域を知り、目や耳だけではなく、鼻や舌でも「観光」することで、あなたの旅がより楽しく、実りあるものになるとともに、その地域を、その鉄道会社を応援することにもつながるだろう。
皆さんもこの秋、味わったことのない旅へぜひ出かけてみてはいかがだろうか。