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ゴーン夫人出国に関するテレ朝番組での私のコメントについて

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
第71回カンヌ国際映画祭(2018)の際のゴーン夫妻(写真:ロイター/アフロ)

 「オマーン・ルート」の特別背任でのゴーン氏「4回目の逮捕」について、犯罪の成立には重大な疑問があることを指摘したが(【ゴーン氏「オマーン・ルート」特別背任に“重大な疑問”】)、その後も、検察の「無理筋」の主張をサポートする方向での不正確な「印象操作」的報道が続いている。

 同記事でも指摘したように、この特別背任事件での立件に対して検察幹部が「慎重姿勢」だったのは、オマーンの販売代理店のSBAに対する販売奨励金の支払の「有用性」「対価の相当性」を否定することは困難で、しかも、SBA側が捜査に協力していないのであれば、その支払が当初から「還流スキーム」の一環として行われたことの立証も困難だということだ。それを立証する証拠がなければ、そもそも「日産資金の流用・還流」などとは言えないはずだ。

 そのような立証の困難性をクリアするような事実は全く出てきていないにもかかわらず、マスコミでは、日産の資金の「流用・還流」を当然のこととして扱い、その「流用・還流」された資金の使途について「15億円クルーザー」のことや、それに関するメールを特捜部が入手したなどと、その内容・趣旨が不明のまま報じられており、正常な事件報道とは到底言えない状況が続いている。

 4月4日早朝のゴーン氏逮捕直後の自宅の捜索で、ゴーン氏の妻であるキャロル夫人のパスポートや携帯電話が押収された。キャロル夫人は、女性の係官に、シャワールームにまで同行されて監視されたり、日本語がわからない夫人に対して、日本語で書かれている押収品目録への署名を求めるなど、常軌を逸した特捜部のやり方が人権侵害として問題視されている。

 そうした中、昨夜(4月7日)寝ようとしていたところ、午後11時過ぎにテレ朝「グッドモーニング」から電話があり、ゴーン氏夫人が検察の聴取要請を拒否して出国した件についてコメントを依頼してきた。

 眠いのを我慢して30分にわたって私の見方を話したが、今日(4月8日)の同番組での私のコメントは、一部だけが切り取られ、全く趣旨の異なる内容になっていた。

 パスポート押収については、

「検察がゴーン氏夫人を出国をさせないようにする目的でパスポートを押収したということであれば、その目的からすると、一部の旅券しか押収しなかったのは、不徹底でなまぬるいということになる。しかし、もともと、そのような目的の押収が『やり過ぎ』なので、担当した捜査官を責めることはできない。」

とコメントした。

 また、夫人が聴取を拒否して出国したことについては

「検察の聴取要請が、事件への関与についての十分な根拠に基づくものであれば、拒否して出国したことは、今後の保釈等に関してゴーン氏側に不利に働く。しかし、夫人は、金の流れの中で出てくる法人の代表者になっているだけで、事件に関わっていると疑う十分な根拠がないのであれば、聴取要請が不当であって、夫人への聴取をすることでゴーン氏にプレッシャーをかけ、ゴーン氏の自白を強要することが目的ではないかとの疑いが生じる。ゴーン氏の弁護人も、それを強く主張するであろう。その場合、検察が根拠を十分に示せなければ、ゴーン氏保釈に不利には働くことはなく、かえって検察捜査への批判につながる。」

という趣旨のコメントをした。

 「いずれにしても、夫人が、単に金が流れた会社の代表というだけでなく、事件に関わっていたと疑う根拠があるかどうかが問題だ。」ということを強調して説明した。

 ところが、オンエアされた番組での私のコメントは、「捜索が不徹底で生ぬるい」と言って検察を批判し、「検察が十分な根拠を持って聴取要請した場合は、夫人の出国はゴーン氏に不利に働く」という部分だけが切り取られており、私のコメントの趣旨とは全く異なる内容になっていた。これでは、私が、昨日までブログやツイートで言っていたことを突然翻して、「検察はゴーン氏や夫人に対する捜査を徹底してやるべきだ。ゴーン氏側の防御姿勢が不当で、そのために保釈も認められなくなるだろう」というような見解を述べたように見える。あたかも私が検察の捜査方針を全面的に肯定しているかのようにも思われかねない。

 オンエアを見て、番組に、「コメントが全く異なった趣旨でオンエアされている」として対応を求めたところ、その後、テレ朝の番組責任者から、「趣旨が十分に伝えられなかったので、明日の朝の同じ番組で、改めて取り上げ、正確に趣旨を伝えるようにする。」との返答があった。

 ゴーン氏夫人の聴取拒否・出国と、パスポートが一部押収されていなかったことを報じる報道や、それに関するツイート等を見ていると、今回のゴーン氏夫人の出国で、検察のパスポート押収の正当性が根拠づけられたかのように誤解しているように思える。私のコメントの切り取り方も、そのような誤解が背景にあるのだろう。

 しかし、そもそも、「捜索差押」は、「事件に関連する証拠を収集する」ための手段であり、「出国防止の目的」でパスポートを取り上げるためのものではない。もし、ゴーン氏夫人からのパスポート押収がそのような目的で行われたとすれば、捜索差押の違法性は明白だ。一見「不徹底で手ぬるい」ように見えるパスポートの押収漏れも、違法な捜索押収をさせられているからこそ、現場の捜査官がそのようなやり方にとどまったとすれば、それは、むしろ、捜査官としての正常な感覚によるものと言うべきなのである。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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