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「驚きの結末になるよ」ゴーン氏 日本の司法に不当な扱いを受けたことを映画化か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
逃亡して自由の身となったゴーン氏は、自身の体験を映画化するのか?(写真:ロイター/アフロ)

 ハリウッド映画張りのゴーン氏の海外逃亡。誰もが驚いたことだろう。

 しかし、驚かなかった人物も中にはいるかもしれない。それはゴーン氏のある友人だ。その友人はこう言われていたからだ。

 「驚きの結末になるよ」

 そんなエピソードについて、米ニュースサイト・デイリービーストが報じている。記事の著者は元読売新聞社会部記者でジャーナリストのジェイク・エーデルスタイン氏である。

驚きの結末

 同氏の記事によると、レバノンに逃亡する約1週間前のこと、ゴーン氏は、東京の自宅で、ハリウッドのプロデューサーと自身の人生の映画化について楽しそうに話し合っていたという。

 ゴーン氏のある友人がそれについてこう話している。

「彼は、日本の刑事司法制度に不当に扱われたことを暴露するドキュメンタリーやフィルムを作るアイデアに乗り気だった。『(映画は)どんな終わりになると思う?』ときくと、彼は小さく笑って『驚きの結末になるよ』と言ったんだ」

 まさにその発言通り、海外逃亡という驚きの結末となったわけである。

 ゴーン氏は数週間前から逃亡の画策をしていたというが、「驚きの結末になるよ」と言うことで友人に逃亡計画を示唆したのだろうか? あるいは、映画化前に実演してみせたのか?

不当な扱い

 エーデルスタイン氏の記事には、ゴーン氏が受けた不当な扱いについても記されている。例えば、ゴーン氏は弁護士を同席させることができない中で、検察官に毎日、何時間も尋問されたこと、4月の保釈後、妻と面会したり話したりすることを禁じられたこと、パソコンの使用や面会も厳しく制限され、出国も禁じられたことなどだ。

 また、独立性のない偏った捜査をしたり、ゴーン氏の信用を落とすために記者に胡散臭い情報を流したり、ゴーン氏の潔白を証明しようとする人々とは話そうとしなかったりした検察を批判している。

傷を受けたのは日産

 日産自身がゴーン氏追放により傷を受けたとも指摘。例えば、ゴーン氏の事件で日本の刑事司法制度の問題が世界に露呈されたわけだが、そんな問題があるために有能な外国人が日本企業で仕事をすることに警戒感を抱いていること、日産の日本人ではない優秀なエグゼクティブの多くは会社を去るか辞職に追い込まれたこと、日産は株主価値を何十億ドルも失うことになったことなどだ。

正義ではなく勝つこと重視

 また、ゴーン氏は4月に予定されていた裁判ではフェアーに対処されないと思っていたという。検察側が弁護側に多くのファイルをシェアしなかったからだ。このことは、検察が日産と馴れ合い関係にあることを示しており、日本の検察の本質を表しているという。

 エーデルスタイン氏はその本質についてこう斬る。

「日本の検察官は一般的に正義を気にかけておらず、勝つことを気にかけている。彼らは、お決まりのように、訴訟の約半分を起訴無効にしているが、起訴した場合、99%有罪にする。日本の検察官はみな屈辱的な1%の敗者になりたくないのだ」

レバノン政府と話し合っていたのか

 記事には、ゴーン氏について、日本政府とレバノン政府が事前に話し合っていたのではないかという推論も紹介されている。

 ゴーン氏逃亡の約10日前の12月20日、鈴木馨祐外務副大臣がこの3年では初めてレバノンを訪問したが、今ゴーン氏がレバノンにいることを考えると、そんな偶然はめったにないというのだ。

 実際、昨年12月20日、鈴木馨祐外務副大臣がアウン大統領を訪問した際、レバノン政府がゴーン氏の同国送還を日本側に要請していたと、英紙フィナンシャル・タイムズが1日伝えている。

 また、日本政府内には、オリンピックの前に、ゴーン問題をなきものにしたいと考えている人が多いという。ゴーン問題は日本のツーリズムに悪影響を与えるからだ。ツーリストは、ゴーン氏のように、日本で犯罪者扱いされて23日間も拘束されたくないからである。そのため、エーデルスタイン氏は「ゴーン氏がいなくなったので、日本株式会社のPR問題もなくなった」と皮肉っている。同氏は、ゴーン氏の海外逃亡を、日本のエリートたちも喜んでいるという見方をしているのだ。

カルプレス氏の判決

 エーデルスタイン氏は2019年8月にゴーン氏と密かに会ってもいた。その時、ゴーン氏は、マルク・カルプレス氏について知りたがっていたという。カルプレス氏は日本でビットコイン交換所を運営していたフランス人で、業務上横領などいくつかの容疑で逮捕され、何ヶ月も拘束されていた。しかし、結局、有罪にはならなかった。

 ゴーン氏は、カルプレス氏が有罪にならなかったから、自分も希望を持っていいのか知りたがっていたという。同氏が「奇跡を信じさえすれば。しかし、検察に、カルプレス氏のケースについて話し合ったことを言うと、彼らは怒るよ。彼らは負けたくないんだ、ほんの少しも」と言うと、ゴーン氏はかすかに笑ったという。

 また、同氏は元東京地検特捜部の郷原信郎氏のツイートも引用している。

「弁護人には誠に気の毒だし、裁判所の理解を裏切ったことは残念だ。しかし、重要なのは今後のことだ。ゴーン氏事件の検察捜査はあまりにデタラメだった。レバノン政府に対してゴーン氏の身柄引渡しを求めても、果たして国際社会に通用するだろうか。狭い日本の司法だけの問題ではなくなったといえる」

 逃亡により自由の身となったゴーン氏は、これから、日本の司法制度の不当性を世界に強く訴えていくだろう。映画もその一手段になるかもしれない。

 ゴーン氏は声明で、日本の司法制度が抱える問題を指摘している。

「今レバノンにいる。有罪を前提にし、差別が横行し、基本的人権を否定した不正な日本の司法制度の人質ではなくなる」

 基本的人権の否定。確かに世界は、人権問題的視点から、慰安婦問題やセクハラ問題などに対する日本政府の対応を問題視してきた。そんな世界の見方がすでにある中で起きた、ゴーン氏の海外逃亡。日本政府はゴーン氏の反撃にどう対処するのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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