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フーディーズ注目の美食都市メルボルンで“オーストラリア料理”を味わう夏【オーストラリア】

江藤詩文 shifumy旅するフードライター

今年もこの季節がやってきました。これからシルバーウィークにかけてのバカンスシーズンに いま行くべき美食スポット はどこ? そんな問い合わせが舞い込んでいます。

円安は続いていますが、今年はついに再び海外へ出かける人も多いよう。数年ぶりに旅立つFIT系トラベラー(ツアーではなく個人で旅行する人)におすすめしたいのが、オーストラリアきってのガストロノミー都市 メルボルン です。

▲アイコニックなフリンダースストリート駅はオーストラリア初の駅。街歩きはここからスタート
▲アイコニックなフリンダースストリート駅はオーストラリア初の駅。街歩きはここからスタート

メルボルンをおすすめする理由は3つあります。

  1. カンタス航空 が成田=メルボルン線を再開。日本から直行便で行ける。
  2. トラムのフリーゾーン(無料乗車区間)があるなど公共交通機関の利便性が高い。
  3. 治安がよく 女子旅 でも街歩きしやすい。

それに真夏の日本を抜け出して季節が逆さまの南半球へ向かうのは、地球を感じる特別な体験です。

…とここまでは基礎データ。世界のフーディーズがメルボルンに向かう理由、それは Brae があるからだ!

豪州いちのスターシェフが創造する自然と一体化した“オーストラリア料理”

▲2024年4月、オーストラリアで初めてサステナブル・レストラン協会の認証を受けました
▲2024年4月、オーストラリアで初めてサステナブル・レストラン協会の認証を受けました

世界中から集めたゴージャスな料理を都会で楽しむより、自然に包まれてその土地の恵みを味わいたい。そんなムーブメントが生まれたのは10年ほど前でしょうか。世界的なパンデミックを経て、その気運はよりいっそう高まっています。

▲Braeオーナーシェフ、ダン・ハンターさん。オーストラリアの食文化の発展と発信に貢献しています
▲Braeオーナーシェフ、ダン・ハンターさん。オーストラリアの食文化の発展と発信に貢献しています

そんな未来が見えていたかのように、オーガニックな自家菜園とキッチンの連携を実現したのが、オーストラリアが誇るスターシェフ Dan Hunter(ダン・ハンター)さん。2013年にはファーム・トゥ・テーブルを超越した テーブル・オン・ファーム とでも呼びたいファインダイニング Brae をオープンしました。

▲「アボカドが大きくなってきました」と菜園を案内してくれたマダムのJulianne Bagnato(ジュリアンヌ・バグナート)さん
▲「アボカドが大きくなってきました」と菜園を案内してくれたマダムのJulianne Bagnato(ジュリアンヌ・バグナート)さん

Braeはメルボルンから景勝地 グレートオーシャンロード を目指して1時間ちょっと車を走らせた小高い丘の上にあります。敷地のほとんどを占めるのはオリーブの木や柑橘の樹木、オーストラリア在来種の食用植物、ハーブや野菜の畑、大小ふたつの池、放し飼いにされたニワトリが走るグラウンド、ミツバチの巣箱といったこの土地がもたらす食材たち。そこにこじんまりと寄り添っているのが、自然と調和するようにデザインされた人間のためのレストランと宿泊用のロッジ「ゲスト・スイート」です。

「ゲスト・スイート」は全6室、朝食つき。ここに行ったら宿泊することを強く強くおすすめします!
「ゲスト・スイート」は全6室、朝食つき。ここに行ったら宿泊することを強く強くおすすめします!

日々変化する植物を見つめ続け、摘みたての野菜やハーブを使ってその瞬間にしかつくれない一期一会のひと皿に仕上げる。そんなBraeらしさが凝縮していたのが、トップ画像のガーデンサラダです。

一般的にサラダといえば葉野菜のシャキシャキしたテクスチャが身上の冷たい料理。ところがBraeの 今日の サラダはふんわりホワホワで温かい。生育途上の若い野菜やハーブのやわらかなものだけを摘み、温かくクリーミーなハーブソースを忍ばせていたのです。これはもうサラダの概念を超えている。私は外食経験が多いほうだと思いますが、こんなサラダには人生でたった2回しか出合ったことがありません。それは菜園と厨房が一体化していて、シェフ自身が植物に深くコミットしているからこそ創りあげることができる大地の味わいでした。

▲酸味や甘みなどひとつひとつの持ち味が際立つように味つけされた摘みたてトマトのバリエーション 自家製オリーブオイルとフレッシュハーブ
▲酸味や甘みなどひとつひとつの持ち味が際立つように味つけされた摘みたてトマトのバリエーション 自家製オリーブオイルとフレッシュハーブ

オープンから10年、オリーブの木が大きく育ち厨房では搾りたての上質なオリーブオイルを使うようになりました。自身の料理を”オーストラリア料理”と言うダンさんにその定義を問うと、彼はこう答えました。

「この土地の自然感謝して共存しながら料理に落とし込むこと。それが私の考える”オーストラリア料理”です」

地域の豊かなの恵みに感謝して分かち合うオーストラリアのライフスタイル

世界のフードシーンの最先端で活躍しながらも、オーストラリアの大地に未来を見い出した Brae のダンさん。オーストラリア料理 って何だろう。それがこの旅のテーマになりました。

ひとつの答えを鮮やかに提示してくれたのは、メルボルンの中心部ヤラ川沿いにある Victoria by Farmer’s Dau ghters 。メルボルンを州都とするビクトリア州の産物だけを使った料理とドリンクを楽しめる地産地消を極めたレストランです。

▲Victoria by Farmer’s Daughtersではビクトリア州の名産品をディスプレイして紹介しています
▲Victoria by Farmer’s Daughtersではビクトリア州の名産品をディスプレイして紹介しています

食材の産地などを限定すると、どうしても料理には制約が生まれやすくなります。ところが興味深いのは、こちらではコンセプトを先に打ち出したのではなく、理想の食材を探して生産者と出合ううちに、つくりたい料理に必要な材料はすべて足元に揃っていることを発見したそう。

▲少人数ならプリフィクスの3皿コースがおすすめ。写真はレモンの香るズッキーニ。野菜がたっぷりなのも嬉しい
▲少人数ならプリフィクスの3皿コースがおすすめ。写真はレモンの香るズッキーニ。野菜がたっぷりなのも嬉しい

肉も魚も野菜もワインも最高のものが身近にあって、すばらしい作り手が地域の食を支えている。その気づきはツーリストにビクトリア州の魅力を伝えるのはもちろん、地元の人たちが自分たちの土地に誇りを持つことにも繋がっているとか。

▲きのこのうま味が凝縮した出汁にニジマスを合わせて。ペアリングはあえて地元の赤ワインを選んでいます
▲きのこのうま味が凝縮した出汁にニジマスを合わせて。ペアリングはあえて地元の赤ワインを選んでいます

そんなビクトリア州の恵みを Victoria by Farmer’s Daughters ではシェアスタイルで提供しています。もともと人の交流が多く多様な文化を受け入れてきたビクトリア州の人々は、休日にバーベキューパーティを開くなど、みんなで料理を囲むことが好きなのだとか。

たとえひとりでもだいじょうぶ。細部まで作り込んだ料理ではなく、まるで食卓で取り分けてくれたようなカジュアルなスタイルで1名分の料理が提供されます。

▲テーブル席、大テーブル、カウンター、ヤラ川を望むテラス席があり、どんなゲストも心地よく過ごせる工夫をしています
▲テーブル席、大テーブル、カウンター、ヤラ川を望むテラス席があり、どんなゲストも心地よく過ごせる工夫をしています

地域の食を分かち合いおおいに楽しむこと。それが Victoria by Farmer’s Daughters の“オーストラリア料理”です。

オープンマインドでルールに縛られず新しいものを受け入れる自由な遊び心

▲小さなキッチンから驚くほど細部にまで手数をかけた料理をつくり出す。IDESオーナーシェフ、ピーター・ガンさん
▲小さなキッチンから驚くほど細部にまで手数をかけた料理をつくり出す。IDESオーナーシェフ、ピーター・ガンさん

「オーストラリア料理には“こうあるべき”というしきたりがない。国外からの移民も多くさまざまな文化が入り混じって発展してきました」と言うのは自身もニュージーランドから移住したPeter Gunn(ピーター・ガン)さん。お皿の上だけでなく、到着時からお店を離れるまでスペシャルな体験ができると話題の IDES オーナーシェフです。

▲到着したらまずここでアペリティフを。ディナーはダイニングに移動します
▲到着したらまずここでアペリティフを。ディナーはダイニングに移動します

オーストラリアの食文化には先住民族アボリジニ、オセアニア諸国、太平洋を囲むアジアやアメリカまで影響してきましたが、ピーターさんが心惹かれたのはオーストラリアの食材とアジアの調理法の融合。たとえば昆布や海苔、わさびなど日本人に親しみのあるフレーバーや魚醤などアジアの風味が、イノベーティブな発想のもと新しい表情で提供されます。

▲タスマニアの白身魚を蒸し、四川風の麻辣ソースと紫蘇の実のソースで仕上げたひと皿。枝豆と干貝柱を詰めたズッキーニのフリットを添えて
▲タスマニアの白身魚を蒸し、四川風の麻辣ソースと紫蘇の実のソースで仕上げたひと皿。枝豆と干貝柱を詰めたズッキーニのフリットを添えて

若いシェフがクリエイティビティを自由に発揮できるなど、これから大きく発展するポテンシャルを持っている。それがピーターさんの“オーストラリア料理”です。

ワインにビール、クラフトジンなど蒸留酒も作り手の進化が止まらない

▲ベルガモットやフィンガーライムなどの柑橘とオーストラリア固有種の花の香りをプラスしたオリジナルレシピのギムレットは食中酒にもぴったり
▲ベルガモットやフィンガーライムなどの柑橘とオーストラリア固有種の花の香りをプラスしたオリジナルレシピのギムレットは食中酒にもぴったり

数々の有名店を手がけるスターシェフ Andrew McConnell’s(アンドリュー・マッコーネル)さんがプロデュースする本格的なヨーロッパ料理や薪焼きステーキをメニューに揃えながらも、カフェ利用やカクテル1杯だけでもOKと自由度が高い Gimlet at Cavendish House。オーストラリアの質のよい食材をヨーロッパの伝統的な技術で調理しています。

▲本日のおすすめはタスマニアのフレッシュなオイスター。メニューには1ダースと記載されていましたが1名分でも対応してくれます
▲本日のおすすめはタスマニアのフレッシュなオイスター。メニューには1ダースと記載されていましたが1名分でも対応してくれます

シグネチャーカクテルは店名にちなんだギムレット。世界的に名を馳せるワイン産地をいくつも持ちながら、ワインだけでなくカクテルを料理とペアリングするレストランが多いのは、クオリティの高いスピリッツが地元で造られているからとか。新しい技術や発想を持った若い世代の作り手が、小さなブルワリーやディスティラリーをどんどんオープンしているそうです。

▲ランチとディナー、アペリティフとディナーなど1日2回来店するゲストが多いというのも納得のホスピタリティでした
▲ランチとディナー、アペリティフとディナーなど1日2回来店するゲストが多いというのも納得のホスピタリティでした

オーストラリアの食材とドリンクのペアリングを楽しむ。それが Gimlet at Cavendish House の“オーストラリア料理”。そしてこれはメルボルンでバー文化が発達している背景でもありました。

そんなメルボルンのバー&カフェ文化はまたあらためてレポートします。

special thanks to Visit Victoria Japan

旅するフードライター

世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ各国でのインタビュー多数。訪れた国は80カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。

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