マスメディアが伝えないサンマ漁獲枠の問題点: EUもサンマ漁業に参戦か?
サンマなどの漁獲規制について話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)が日本で開催され、サンマの漁獲枠を55万トンに設定することで合意されました。「資源回復に前進」、「踏み込んだ措置が初めて実現」などと、概ね好意的に報道されているのですが、とても喜べる内容ではありません。
資源減少に繋がる過剰な漁獲枠設定
私には、55万トンという漁獲枠が資源回復に寄与するとは、到底思えません。下の図は、全ての国のサンマの漁獲実績を足したものです。過去に長い歴史をもつサンマ漁業ですが、水揚げ総量が55万トンを超えた年は2年しかありません。過去3年の漁獲量の平均値は35万トンですから、最近の漁獲量の1.5倍にも相当するのです。このような過剰な漁獲枠を設定することで、乱獲を促進しているようなものです。
2017年のサンマ来遊量は81万トンでした。漁獲枠一杯までサンマを獲ると漁獲率はほぼ7割になります。55万トンという過剰な枠を予め決めてしまったので、来遊量が更に減れば、それだけ高い漁獲割合を許容することになります。これでは漁獲にブレーキをかける効果は期待できません。
EUがサンマ漁業に参入する?
過剰な漁獲枠は、他国の新規参入を促すという別の問題も引き起こします。昨年10月に、EUがNPFCへの加入を申請してきました。北太平洋でサンマを漁獲することを検討しているのです。
EUは漁獲規制を年々強化しており、稼働できない漁船が増えています。そういった船を、規制が緩い北太平洋へ送り込もうというのです。EU周辺海域の水産資源を回復させるために、日本周辺海域を草刈場にするつもりです。
新規参入を防ぐには資源管理をすることが重要です。「すでに、資源の生産力ギリギリまで漁獲をしているので、新規参入を許す余裕はない」と言えば、新規参入希望者を門前払いできます。実際に、サンマ資源は減っているのだから、妥当な漁獲枠を設定すれば、新規参入を許す余裕はないはずです。
しかしながら、過剰な漁獲枠を設定したことで、漁獲枠が余るのはほぼ確実です。「漁獲枠が余っているのだから、俺たちにも獲らせろ」とEUが主張するのは目に見ていています。
百害あって一利無しの過剰な漁獲枠
以上、見てきたように55万という過剰な漁獲枠で合意をしたことで、サンマの漁獲削減に逆行するばかりか、EUという強力なプレイヤーの新規参入を招きかねない状況をつくってしまいました。
今回の会議で、日本政府は45万トンという枠を提案していました。去年の漁獲実績よりも少し多い水準を提案して、他国の合意を取り付けつつも、漁獲枠と漁獲量を乖離させたくないという意図が見えます。悪くない提案でしたが、それを通すだけの政治力が足りなかったようです。漁獲枠が45万トンに収まっていれば、まだ何とかなったかもしれませんが、55万トンではどうにもならないでしょう。サンマ漁業の今後の見通しは暗いと言わざるを得ません。
サンマに関する情報は、こちらの動画にまとめてみました。20分と少し長くなっていますが、漁業の背景から、今回の交渉の結果まで一通り整理しましたので、興味がある方はご視聴ください。