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結婚について知っておきたい法知識 その11~新婚の相続リスク「家を買ったら遺言を残す!」

竹内豊行政書士
新婚は、実は「相続リスク」が高い時期です。(写真:アフロ)

結婚をすると、子どもをもうけるまで相続関係は不安定になります。

子どもが生まれていないときにパートナー(配偶者)が亡くなると「意外な人」が相続人に入ってくるからです。

たとえば、子どもがいない夫婦の夫が死亡した場合

・亡夫の親が生存しているときは、妻と亡夫の親が相続人になります。そして相続分は妻が3分の2、親が3分の1になります。

・亡夫の親が二人とも死亡している場合

亡夫に兄弟姉妹がいれば、兄弟姉妹が相続人になります。そして、相続分は妻が4分の3、兄弟姉妹が4分の1になります。

兄弟姉妹のうち既に亡くなっている人がいると話はさらにややこしくなります。その人に子どもがいると、その人の子ども(つまり亡夫の甥・姪)が相続人に入ってきます。この甥・姪のことを「代襲相続人」といいます。

いかがでしょうか、「わけがわからない」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。

そうなんです、子のない夫婦の相続は「意外な相続人」が登場するため「わけがわからない」状況になることがよくあるのです。

特に、「新婚の時期」は子どもがいない夫婦が多いので、「新婚時期は相続リスクが高い」と言わざるを得ません。

たとえば、新婚の時期にマイホームを購入するご夫婦も大勢いると思います。実は、子のない夫婦の相続では、「マイホームをめぐる悲劇」が起きる場合がよくあるのです。

「団体信用生命保険(団信)に加入すれば家を守れるは」過信

ほとんどの方は、家を購入すると、団体信用生命保険(通称「団信」)に加入します。団体信用生命保険とは、住宅ローン専用の生命保険のことです。通称「団信(だんしん)」と呼ばれています。

団信に加入していれば、住宅ローンの債務者が死亡したときや高度障害状態になったときでも、住宅ローンの残金の分の保険金が金融機関に支払われ、住宅ローンを清算することができます。そのため、住宅ローンを組む時は、団信の加入が条件とされていることがほとんどです。

そのためか、「団信に加入していれば、万一所有者のパートナーが死亡しても、家は自分のものになる」と思っている方がいます。

その考えは誤りです。

ローンを完済しても「家」は遺産のまま

確かに、住宅ローンは完済されます。しかし、亡くなったパートナーが家の所有者だった場合、その家は「遺産」になります。したがって、遺産分けの対象になります。そのため、相続人全員で遺産分けの話し合い(「遺産分割協議」)を行って「家」をだれが相続するのかを決めなければなりません。

すんなりと、残された配偶者が家を所有できる内容の遺産分割協議が成立すればよいのですが、そうならないと家を売却して、売却で得たお金を相続人間で分け合うことになるケースもあります。

このように、遺産を現金化して相続人間で分け合う相続の方法を「換価分割」といいます。一方、たとえば亡夫が残した家を妻が受け継ぐことを「現物分割」といいます。

とかく、子のない夫婦の相続は「意外な相続人」が登場するので複雑になりがちです。そして、「争族」になると残されたパートナーが、「夫婦が過ごした家」に住めなくなることも起き得ます。

「『ローン完済』と『相続』は別物」と覚えていてください。

住まいは生きる上で重要な財産です。マイホームを購入したら、万一の場合は、残されたパートナーに家を相続させることができるように遺言を残しておきましょう。

★「子のない夫婦」の相続について、詳しくは「結婚について知っておきたい法知識 その8~遺言は『子のない夫婦のパートナーを守る盾』になります」をご覧ください。

★遺言については知っておきたい親の相続 その1もご参照ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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