アイスランドに2-1で今大会初勝利したなでしこジャパン。第3戦で迎えるは強敵・デンマーク
【オランダ戦の教訓を生かした立ち上がり】
ポルトガルで行われているアルガルベカップに参加中のなでしこジャパンは、グループステージ第2戦でアイスランド女子代表と対戦し、2-1で、今大会初勝利を飾った。
初戦でオランダに2-6と大敗したチームが立ち直るためには、試合内容はともかく、勝利という結果が必要だった。
試合後、ピッチ上の選手たちの表情には、安堵の色が浮かんでいた。
日本のスターティングメンバーは、GK山下杏也加、ディフェンスラインは右からDF清水梨紗、DF熊谷紗希、DF高木ひかり、DF宇津木瑠美。MF猶本光とMF隅田凜がボランチを組み、右サイドにMF増矢理花、左サイドにFW横山久美。2トップにFW菅澤優衣香とFW岩渕真奈が並ぶ4-4-2のフォーメーションでスタートした。
日本はオランダ戦で、序盤の8分間で2失点を喫しており、この試合は特に立ち上がりの守備が鍵だった。
3-4-3で、両サイドが流動的な位置を取るアイスランドに対し、日本は相手陣内の高い位置から連動したディフェンスでプレッシャーをかけた。
そして、状況に応じて相手の攻撃を意図的に中や外へ誘導し、数的優位を作ってボールを奪うことを徹底。限定するパスコースをはっきりさせ、奪うポイントを明確にすることで、ボールホルダーに対するアプローチの強度がオランダ戦より高まっていた。
そこには、キャプテンの熊谷を中心に、選手全員が自主的に映像を観ながら話し合ったというミーティングの成果が見てとれた。
「今日は、前半からいい意味で割り切って、前から(守備に)行けていたと思います。今日、出ていたメンバーの中で、(ミーティングで)話し合ったことをやろうという意識が見えました。勝って終われたことはチームとして本当に大きいですね」(熊谷)
日本は90分間を通じて、アイスランドのシュートを、前半に与えたフリーキックと失点シーンの2本に抑えた。
守備の良い流れは必然的に、攻撃にも良い効果をもたらした。2トップと両サイドの4人がポジションを流動的に替えながらボールを動かし、最終ラインでは、熊谷と宇津木が積極的に相手ディフェンスラインの裏を狙ってチーム全体を押し上げた。
前半15分に、相手陣内の右サイド中央から清水がゴール前にクロスを上げ、菅澤が絶妙のタイミングで飛び出して合わせ、幸先良く先制。
しかしーー。その後も試合の主導権を握りながら、最後の局面でもうひと工夫が足りず、2点目が奪えない。
すると、73分には相手コーナーキックのこぼれ球をクリアしきれず、同点に。これまでにも同じような展開でリードを生かせず、悔し涙を飲んできた日本。この時間帯の失点は、その苦い後味を思い起こさせたが、選手たちの切り替えは早かった。
同じ過ちを繰り返さないためには、点を取るしかないーー。後半途中からピッチに立った長谷川が左サイドから積極的に仕掛け、岩渕と横山も果敢にゴールを狙った。
そんな中、85分に鋭い出足で相手のバックパスを奪ったのは、途中交代で入ったFW田中美南だ。
「後ろにいたぶっちー(岩渕)さんにヒールで落とす選択肢もあったんですが、時間帯も考えて強引に(打ちに)いきました」(田中)
試合後にそう振り返った田中の仕掛けによって得たコーナーキックから、日本の決勝ゴールは生まれた。
ショートコーナーから中島がゴール前に入れたクロスを、宇津木が相手DFと交錯しながら身体で押し込んだ。
それは、体格差のある相手にフィジカルと気迫で劣ることを感じさせない、泥臭さ満点のゴールだった。
値千金の決勝点を決めた宇津木は、試合後の取材エリアで「あのゴールは自分らしかった?」と聞かれて「そうですね」と穏やかに笑い、こう続けた。
「今のチームには、何を持っているかが明確に分かる(特徴がはっきりした)選手たちが選ばれているので、自分が試合に出る時に何が一番必要なプレーかを示していかないと『誰が出ても一緒』になってしまいますから。(熊谷)紗希がキャプテンでいることの意味とか、こういう、絶対に勝たなければいけない試合に自分が出ることの意味も考えて、自分ができることを全力でやりました」(宇津木)
【チームの変化】
オランダ戦から中1日で迎えたこの試合で、スターティングメンバー10人を入れ替えるターンオーバーを実行した高倉麻子監督は、初戦から修正した点について、試合後に次のように話している。
「オランダ戦に向けて前線からのプレスとスライドを強調しながらトレーニングしてきたのですが、(オランダ戦は)良いポジション取りをすることを強調しすぎて、ボールに対して思い切ったディフェンスができていませんでした。今日はとにかく、ボールに対する守備の強度を上げていこう、と伝えました」(高倉監督)
チームが取り組んできた「前線からボールを奪いに行く」ことと、オランダ戦前に高倉監督が伝えた「良いポジション取りをする」という指示の両方を、選手たちがそれぞれの解釈で忠実にやろうとしたことも、オランダ戦の日本の守備に迷いが生じていた要因だったと考えられる。
高倉ジャパンには、高い技術や予測力、アジリティーやスタミナなど、日本人選手の特性を備えた能力の選手が多い一方で、特に若い選手の中には、言われたことを堅実にやろうとする選手が少なくない。
多くの場合、その日本人らしい「真面目さ」は組織的なサッカーの中でプラスに働くが、変化し続ける試合の中で常に判断を変えていかなければならないサッカーの競技特性上、当然、裏目に出ることもある。
その点、経験豊富なベテラン選手たちは柔軟だ。
だからこそ、オランダ戦の夜に、全員で自主的にミーティングを行ったことの意義はとても大きかった。
唯一、2試合連続で先発した22歳の隅田は、年代別の代表とA代表の違いに触れ、実感をこんな風に話した。
「U-20の時は、チームとしての戦い方がはっきり(一貫)していましたが、A代表では相手のスピードやパワー、連係もレベルが上がっていて、引いて守らなければいけないこともあるし、自分たちがポゼッションする戦い方だけでは勝てないな、と感じます。みんなで(戦い方を変化させながら)合わせていくのは難しいのですが、試合をやるのは自分たち選手ですし、外から見るのと(ピッチの)中で感じることは違う部分もあるので、もっと選手同士で話し合って判断していくことが必要だと思います」(隅田/アイスランド戦翌日)
オランダ戦後の夜のミーティングでは、若い選手たちも積極的に発言していたという。
そして、高倉監督もその流れを好意的に受け止めている。
「選手同士で、映像を観て話し合ったと聞きましたが、そういうことが出てきたことは非常に嬉しく思います。私自身はゲームの中で大切なことや勝つために必要だと思うことを伝えてきましたが、選手自身がそれを噛み砕いて、変化させて、進化させてグラウンドで表現していかない限りは、チームは良くなっていかないと思っています。チームらしくなってきたな、と感じています」(高倉監督)
選手同士のミーティングは、オランダ戦の後だけではなく、アイスランド戦の後も続いている。オランダ戦の大敗、そしてアイスランド戦の勝利を経て、なでしこジャパンはチームとして着実に一つ、階段を上った。
【中2日で迎えるデンマーク戦】
日本は中2日で、日本時間の3月5日(月)の夜にグループステージ最終戦のデンマーク戦を迎える。デンマークは、昨年の女子ユーロの準々決勝で世界ランキング2位のドイツを下し、決勝戦でオランダと対戦した。結果は2-4で敗れ準優勝だったものの、シュート本数ではデンマークがオランダを上回った。
今大会のデンマークはここまで1分1敗で、現在グループ3位。日本戦にはベストメンバーで臨んでくることは間違いない。
日本はこれまでの2試合で、フィールドプレーヤー全員(21人)がピッチに立った。高倉監督は「レギュラーが決まっているわけではない」と話しており、デンマーク戦で誰がプレーするのか、現時点で知ることはできない。
アイスランド戦では、A代表初先発となった右サイドバックの清水が、90分間、安定したプレーを披露した。持ち前のスピードとスタミナを生かして常に高い位置にポジションを取り、菅澤の先制ゴールをアシスト。また、後半21分には相手DF4人の間を縫うスルーパスで岩渕の決定機をお膳立てした。
「高い位置にポジションを取った時に、(増矢)理花さんやぶっちー(岩渕)さんが空いたので、積極的に高い位置を取るようにして、自分が主導権を持って前の選手を動かそうと思っていました」(清水)
清水がデンマーク戦で出場機会を得られれば、そのオーバーラップは日本の強力な武器になる。
なでしこジャパンとデンマーク女子代表との一戦は、日本時間3月5日(月)24時40分(現地時間5日15時40分)にキックオフ。フジテレビ系列で、同日24時25分より生中継される。