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災害救助トレーニング制度の創設を…日本を守るために、私たちもスキルを身に付ける機会が必要だ

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
能登半島地震でも、自衛隊が災害救助で重要な役割を果たしている(写真:ロイター/アフロ)

 最近は、ロシアによるウクライナ侵攻などの関係から、中国共産党の軍隊である人民解放軍が台湾に侵攻することである「台湾有事」などが現実味を帯びてきており、平和ボケとまでいわれてきた日本でも、国家防衛への関心が高まってきている(注1)。

 その流れのなかにおいて、岸田文雄首相は、2023年度から5年間の防衛費を総額約43兆円とするよう指示した。これは、現行の中期防衛力整備計画(19-23年度)の27兆4,700億円程度から大幅に増加させるもので、国内でも賛否の議論があれば、過去最高となるものである。

 また軍事や避難のためのシェルターの整備も進められている。たとえば、3月30日付けの朝日新聞の記事「沖縄・先島諸島にシェルター整備」は、「政府は29日、中国が台湾に侵攻する台湾有事を念頭に、沖縄県・先島諸島の5市町村に、ミサイル攻撃などから住民らが一時避難するシェルターを整備する方針を発表した」ことを伝えている。今ごろ始めるのという感もあるが、前向きに進めてほしいところだ。

核シェルターの様子
核シェルターの様子写真:ロイター/アフロ

 だがしかし、これらのことに関して、気になることがある。

 それはまず、防衛費やシェルターなどの整備が、日本の一般的な公共事業同様に、ハード中心に進んでいることだ。これまで十分に整備されていなかったことを考えれば、ハードの整備も重要だが、それだけでは十分ではない。なぜなら、ハードが整備されても、それが有効に活用・維持されるかどうかは、人材にかかっているからだ。その中心になるのは、当然自衛隊の方々だが、災害も含めて対応する案件が急増してきている状況において、果たしてそれだけで十分なのかは大いに疑問だ。他方で、現在の自衛隊の人員を大幅に増やすことは、世論や予算からも限界があろう。

 また日本国内で地震や台風などによる災害が近年増加してきており、自衛隊が災害救助で大活躍している。そのため、自衛隊の役割として、防衛活動や国際平和協力活動ばかりでなく、緊急救助活動も加えられているが、有事と災害事案等が同時に起きた場合、限られた人員体制や資源の中で、優先順位の問題もある。

 そして、能登半島地震の被害拡大の一因となっている社会インフラの老朽化の問題は、現在およびこれからの日本社会全体でも顕在化しつつある大きな課題なのである。今後その問題の対策は早急になすべきであるが、予算の制約もあり、長期にわたる対応となることが予想されるのである。そのことは、今後災害等が起きた場合、その被害が非常に甚大化しやすくなっていく状況にあるということである。

 そのように考えていくと、短期的にはハードの整備や自衛隊で対応するにしても、中長期的に日本を守り維持していくには、それだけでは不十分だといえるだろう。

 その観点から考えた場合に、やはり必要なのは国民・住民の役割や活動だろう。その意味において、国民・住民も、災害や緊急事態のときに、活躍できるようになっているためには、自分たちで社会や地域そして自分たち自身を災害から守る術・スキルや知見を獲得しておく必要がある。

災害時にはさまざまなスキルや知見が必要だ
災害時にはさまざまなスキルや知見が必要だ提供:イメージマート

 そこで、全国民(必要なら住民も含めて)が、6か月ぐらいの期間の災害救助などのトレーニングを受けるように機会をもてるようにすることを提案したい。つまり、「災害等における救助訓練制度」を設けるのである。できれば、若いうちにこのトレーニングを受けられるようにすべきだろう。

 これは、軍事のための徴兵制ではない。日本で、徴兵制は、世論や予算などの理由からも得ない選択だ(注2)。

 そのような訓練を受けた人材が、全国各地にいれば、災害や有事が起きても、影響が抑制され被害が抑えられ、生き延びられる人命の数は各段に向上し、被災地や日本社会がより短期間で復旧されることが可能になるだろう。

(注1)最近のコロナ禍なども、危機的状況や緊急事態がいつでもどこにでもあることを、日本人・日本社会に知らしめた。コロナ禍なども有事に近い状態であった。

(注2)「日本で今後、徴兵制はあるのか?」(鈴木崇弘、Yahoo!ニュース、2015年8月2日)参照のこと。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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