MotoGP日本グランプリプレビュー/王者マルケス包囲網の主役は誰か?
今年も2輪ロードレースの最高峰「MotoGP」が日本にやってくる。10月18日(金)〜20日(日)にツインリンクもてぎ(栃木県)で開催される「MOTUL日本グランプリ」はチケット売れ行きが好調と聞く。最高峰MotoGPクラスのチャンピオンは既にマルク・マルケス(ホンダ)で決定したが、近年のMotoGP人気の復活を象徴するレースが期待される。
マルケスを脅かすのは誰か?
前戦・タイGPで早くも2019年のワールドチャンピオンの座を決めたマルク・マルケス(ホンダ)。自身通算8度目(MotoGPクラスは6度目)のタイトルを獲得したマルケスはビリヤードになぞらえた「8ボール」のパフォーマンスと共にその喜びを表した。
シーズン15戦を終えて9勝を飾る強さのマルケス。彼は残り4戦のレースを早くも消化試合にしてしまった。もはや「マルケスvsその他大勢」などと揶揄されるほど、今季のマルケスの王者らしい走りは際立っている。MotoGPクラスだけで通算60勝を既に達成済みの絶対王者はその勝利数をさらに伸ばして行くことになるのだろうか?
マルケスファンはそれを望むだろうが、それでは面白くないのが日本グランプリだ。今季の決勝レースで度々見られる息もつかせぬビッグバトルがツインリンクもてぎで展開されてこそ、ファンはこの上ない幸せを得られるのだ。
そんな中、今季はマルケスを除くウイナーはアンドレア・ドビチオーゾ(ドゥカティ)、アレックス・リンス(スズキ)が2勝をマークし、ダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ)とマーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)がそれぞれ1勝しただけ。そのうち、リンスとペトルッチは今季初優勝を飾ったライダーである。タイトルが決まった今、冷静にデータを見返してみると、ちょっと予想外のシーズンではないだろうか。
多くのチームやメーカーでライダーラインナップ変更があったのが今季の特徴でもあるが、経験豊富なベテランたちや伸び盛りの若手たちが苦戦を強いられているシーズンになっているのだ。ドゥカティからホンダに移籍し、テストから大苦戦だったホルヘ・ロレンソ(ホンダ)は怪我の影響もあり、絶不調でランキングは19位。昨年2度のポールポジションを獲得して3度の表彰台を得たヨハン・ザルコはKTMに移籍したものの、シングルフィニッシュすらできない状況に嫌気がさしてシーズン途中で離脱となった。
2019年のMotoGP
【ポールポジション】
マルク・マルケス(ホンダ):9回
ファビオ・クアッタハッホ(ヤマハ):4回
マーベリック・ビニャーレス(ヤマハ):2回
【優勝】
マルク・マルケス(ホンダ):9勝
アンドレア・ドビチオーゾ(ドゥカティ):2勝
アレックス・リンス(スズキ):2勝
ダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ):1勝
マーベリック・ビニャーレス(ヤマハ):1勝
クアッタハッホの走りは要注目
一方でヨハン・ザルコに代わってヤマハのサテライトチーム入りを果たしたのが、同じフランス人のファビオ・クアッタハッホ(ヤマハ)である。Moto2で僅か1勝しかしていないもののMotoGP昇格のチャンスを掴んだ彼は新規参戦チーム「ペトロナスヤマハSRT」からの参戦であるにも関わらず、ヤマハワークスを食う走りを見せている。ルーキーにしてポールポジションを4回も獲得し、最前列スタートの常連となっている。
そんなクアッタハッホは今季、予選も決まったレースに関してはマルク・マルケス(ホンダ)とのビッグバトルを決勝で展開。優勝はまだ無いものの2位表彰台を3回も獲得する熱い走りは前年までのザルコを超えるインパクトがある。アクシデントによるリタイアも多くランキングは7位に留まっているが、元王者のバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)に2点差に迫っており、日本GPでの活躍が注目される。
クアッタハッホの日本GP(ツインリンクもてぎ)での決勝走行経験は3回。昨年はMoto2クラスで走りトップでチェッカーを受けるもレース後の再車検でタイヤの空気圧違反が発覚して失格に。結果としては残らなかったものの、クアッタハッホが並みのライダーではないことが印象づいたのが日本GPだった。前戦・タイGPで4度目のポールを獲得し、マルケスに次ぐポール獲得回数となっているクアッタハッホの走りは今年の日本GP最大の見所だろう。
なお、彗星のごとく最高峰クラスの主役級ライダーになったファビオ・クアッタハッホだが、日本人にとって名前が発音しづらい選手でもある。スペルは「Quartararo」でクアルタラロと英語発音で表記するメディアも多い(ヤマハ公式はクアルタラロと表記)。ただ、フランス語の「r」発音はいわゆる摩擦音であり、文字で表記するとラではなく「ハ」に近い。2つの名前表記が混在し、名前が馴染みづらいが、日本GPで初優勝となれば日本国内での存在感と人気は確実なものになるだろう。その可能性は充分にある。
スズキの地元優勝にも期待
今季、クアッタハッホと並んでMotoGPクラスを湧かせているのがアレックス・リンス(スズキ)だ。リンスは2017年にスズキからMotoGPにデビューし、1年目はマシンのポテンシャル不足もあり苦戦したものの、昨年は合計5回の表彰台獲得となり、3年目にしてスズキのエースへと上り詰めた。Moto3時代にはポールポジションを13回も取った生粋のスプリンターであるアレックス・リンスは今季はさらに安定感を増し、表彰台争いの常連に。そして第3戦のアメリカGP、第12戦のイギリスGPとシーズン2勝をマーク。現在はランキング3位につけている。
ホンダ、ヤマハ、ドゥカティといったMotoGPクラスを席巻してきたバイクメーカーに比べると、ワークスながらも小規模体制で戦っているスズキ。その奮闘に感情移入するファンは多い。今季のスズキの優勝は3年ぶりであり、長く続いた低迷のトンネルに眩い光をもたらしたのはマルケスに挑める実力の持ち主となったリンスだった。日本GPは最大の目標であるホンダのホームコースであるが、スズキにとっても母国GP。リーマンショックの時代に活動を休止し、そこから復活したスズキにとって是が非でも勝ちたいのが今年の日本GPであろう。
かつて日本GPといえばスズキはケビン・シュワンツが鈴鹿開催時代に幾度も勝利した黄金時代がある。しかし、4ストロークのMotoGPになってから母国での勝利はなく、もし勝てば2000年にケニー・ロバーツJr.が当時の500ccクラスで優勝(ツインリンクもてぎのパシフィックGP)して以来19年ぶりとなる。今年のイギリスGPでリンスが見せた大接戦のクロースフィニッシュの再現を期待したいものだ。
中上は2020年もMotoGPが決定
そして日本人唯一のMotoGPライダーとして期待を一身に背負う中上貴晶(なかがみ・たかあき/ホンダ)は待ちに待った母国GPを迎える。今季の中上はシーズン開幕前からチームメイトのカル・クラッチロー(ホンダ)が苛立つほどの好パフォーマンスを披露しているだけに、日本GPでの活躍に期待がかかる。
今季は6月のイタリアGPで自身のMotoGP最上位となる5位でフィニッシュを果たし、表彰台も視野に入り始めてきた。ただ、オランダGPでは接触からの大きなクラッシュを経験し、右肩を負傷。それ以降はシングルフィニッシュが僅か1回になってしまっている。そんな中上は肩の手術を行うために、日本GPが終了後の残り3戦を欠場することになった。代役はKTMを離脱したヨハン・ザルコが務めることになっている。
怪我の影響、ザルコのホンダ加入発表でファンも気になっていた来季以降の去就だが、2020年も「LCRホンダ・イデミツ」からの参戦が先日発表になり、ファンとしては一安心なところ。中上にとっては手術による欠場前の今季ラストレースになるので、日本GPでは今季ベストの5位を超える走りを期待したい。
マルク・マルケスがタイトルを決めたシーズンだが、近い将来マルケスと王者争いをするであろうライジングスターが台頭してきているMotoGP。ライダーの移籍が少ない来季を占う上でも目が離せない残り4戦。その最初のラウンドとなる日本グランプリで王者マルケスに真っ向勝負を挑んで来るのはいったい誰だろうか。MotoGPの2019年のストーリーはまだ終わってはいないのだ。