ベトナムに快勝し、上々のスタートを切ったなでしこジャパン。次は中2日で迎える韓国との大一番
【大事な初戦で快勝】
ヨルダンで行われているAFC女子アジアカップの初戦で、なでしこジャパンはベトナムと対戦し、4-0で快勝。2019FIFA女子ワールドカップフランス大会の出場権獲得に向け、上々の滑り出しを見せた。
25℃を超える気温に、ジリジリと肌を焼く強烈な西日。そして、日本とは異なる、粘りのある芝。ヨルダン特有のピッチコンディションの中、こまめな水分補給と声かけを徹底し、総力戦で乗り切った。
開始早々の3分に、FW岩渕真奈が敵陣の深い位置から落としたボールを、MF増矢理花がワンタッチで流し、最後はFW横山久美がゴール左隅に決め先制。
日本はこのゴールでペースをつかんだ。
17分には岩渕が相手陣内、右サイドの深い位置で相手をかわしてゴール前に入れると、タイミング良く走り込んだMF中島依美が合わせて2-0。その後しばらく試合は停滞したが、57分には、左コーナーキックのクリアボールを逆サイドからMF猶本光が折り返し、岩渕が合わせて3-0。そして、66分にはDF鮫島彩のシュートを相手GKが弾いたこぼれ球を、途中出場のFW田中美南が詰めて4-0とした。
一矢報いたいベトナムは、テンポよくパスをつないで日本のプレッシャーをかわす場面もあったが、日本は守備も安定していた。
ベトナムの縦パスに対しては、DF熊谷紗希とDF市瀬菜々を中心に、厳しく寄せることを徹底。GK山下杏也加も含め、守備陣が集中力を切らさず、最後まで攻めの姿勢を貫いた。
【ベトナムの守備に苦しめられた攻撃陣】
攻めては4得点、守っては無失点の内容で、重要な初戦を勝ちきるというノルマを達成し、ピッチ上でタッチを交わす選手たちにも安堵の表情が見られた。
だが、試合直後、公式会見の壇上に姿を現した高倉麻子監督に、笑顔はなかった。
「今日は勝てたことがすべてです。(中略)(攻撃を)作る部分もそうですし、決め切る部分も含めて、すべてが次のゲームへの課題です」(高倉監督)
試合後の取材エリアでは、選手たちも同じように、課題を口にした。
日本はこの試合、ベトナムの守備に手を焼いた。ベトナムは粘り強いマンツーマンディフェンスで、自陣ではファウルも辞さない密着マークを見せた。それは、日本にとって、1対1で勝てば大きなチャンスが生まれやすい状況でもある。
だからこそ、岩渕のドリブルは効果てき面だった。前半11分の日本の攻撃で、ベトナムは十分な人数をゴール前に揃えながら、岩渕のドリブルに対応できていない。
だが、ベトナムも当然、その後は2トップの岩渕と横山へのマークを徹底。その中で、日本は前線にタイミング良くボールを入れられず、サポートも遅れた。
ドリブルとパスを使い分けて全4ゴールに絡む活躍を見せた岩渕は、「もっと、点を取れるチャンスはあったと思います。フォワード2人でワンツーとか、連動したコンビネーションが少なかった」(岩渕)と、振り返る。
バーやポストに嫌われる不運もあったが、日本が作ったチャンスの数を考えれば、やはり4点という数字は物足りない。セットプレーのチャンスも数多くあったが、生かしきれなかった。
中2日で迎える韓国戦は、相手の守り方に応じてどう攻めるか、試合中の「修正力」がカギになる。
【光った若手の活躍】
高倉監督は大会前に、23人のメンバー起用について、「(グループステージの)3試合トータルでメンバーを決めていく」ことを明らかにしている。つまり、先発は固定されず、おそらく、3試合でほとんどの選手がピッチに立つと予想される。
これまで先発メンバーを固定してこなかったのは、全員に主力としての意識を持たせることが一つの目的だった。
その視点で見ると、この初戦でピッチに立った11人の中で、経験のある選手だけでなく、若手や中堅がそれぞれに良さを見せたことは、収穫と言える。
まず、最終ラインでは、鮫島、熊谷、DF有吉佐織という経験のある選手たちと並んで、20歳の市瀬が遜色ない安定感を見せた。持ち前の予測力を生かしたインターセプトに加え、くさびのボールに対しては力強いコンタクトで奪い、スライディングの技術も光った。
また、慣れない芝でコントロールが乱れがちな中、立ち上がりから確かなテクニックを見せたのが増矢だ。横山の1点目をアシストしたワンタッチパスは柔らかく、判断の良さも光った。
また、50分に左サイドでパスを受けた瞬間、ダブルタッチで相手を置き去りにしたプレーは、遊び心と実用性を兼ね備えていた。「ライン際のプレーで、ミスをしてもマイボールになると思ってチャレンジしました」(増矢)と、リスクも織り込み済み。
この後、日本が対戦する韓国やオーストラリア相手に、その緩急とテクニックを通用させられれば、日本にとって強力な武器になることは間違いない。
また、中盤で存在感を放ったのがボランチの猶本だ。的確なカバーリングでピンチの芽を摘み、自身の持ち味である中盤からの飛び出しでチャンスに絡んだ。
猶本はこれまで、代表では周囲とのバランスや、少ないタッチ数でボールを配ることに気を遣いすぎているようで、どこか窮屈そうに見えることがあった。
だが、この試合で見せたプレーは意志的で、どこか吹っ切れたような力強さがあった。その変化は、猶本らしい地道な積み重ねに加え、ある選手の言葉が背中を押していた。
「みんながパスを出してくれるタイミングが分かってきて、頭が整理できてきました。それから、映像を見ながら(ボールを受ける際の)体の向きや角度を知ることで、ボールを受けることに怖さがなくなりました。アルガルベカップで同じ部屋だったサメ(鮫島)さんが、私の良いプレーについて『前に前に行くプレーじゃない?』と言ってくれたんです。それで、ちょっと吹っ切れました。(攻撃を)作りつつ、チャンスがあれば前に出て行こう、と」(猶本)
自分の良さを出すことのほかに、このチームのボランチとしてもう一つ求められるものは、阪口とのバランスの良さだ。独特のセンスで周囲の良さを引き出し、ゲームを作ることに長けた阪口は、マニュアルどおりのプレーやポジショニングを選択しない。だからこそ、相方は、遠慮や迷いをなくし、コミュニケーションや試合を重ねる中で最適なバランスを探っていく必要がある。
激選区とも言える中盤で定位置獲得を目指す、猶本のさらなる成長に期待したい。
【中2日で迎える韓国戦】
日本は中2日で韓国との戦いを迎える。韓国は初戦で優勝候補のオーストラリアに0-0で引き分けたが、攻守において韓国の質は高かった。
昨年末のE-1選手権では日本が韓国を3-2で下したが、今回はそのチームに、元INAC神戸レオネッサで、現在はチェルシーLFC(イングランド)でプレーするエースのMFチ・ソヨンが加わり、かなり完成度の高いチームになっている印象だ。
日本にとって厳しい戦いになることは間違いないが、勝てばワールドカップ出場権を得る2位以内が確定する。
日本は攻撃でミスを減らし、主導権を取れるかどうかがカギになるだろう。高倉監督はこれまで、攻撃は自由なイマジネーションを発揮できるように、あえて特定の型を取り入れていなかったが、アルガルベカップ前後から、特定のゾーンを狙ったメニューを取り入れた。型にはめるのではなく、イメージを共有するための練習だという。
「反復練習をすることで、困った時にはそこに走ればボールが出てきそう、という共通意識を持てるようになりました」
そう話すのは阪口だ。狙いどころを作り、状況に応じて臨機応変に判断を変えていけるようになれば、それは一つの武器になる。
ワールドカップ出場権がかかる日韓戦は、何としても意地を見せてほしいところだ。
韓国戦は、日本時間10日(火)の22時40分より、テレビ朝日系列(地上波)にて生中継される。