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日本一のテーマパークレストランを謳うハウステンボス。ロボットレストランから長崎和牛、名門フレンチまで

東龍グルメジャーナリスト
ロボットが活躍する「変なレストラン」

東京では体験できない料理

東京には「飲食店」に該当する民営事業所が約9万軒(フランスの新聞「ル モンド」の調査では16万軒とも)あり、その規模は1万5000軒とされているパリの6倍程度とも言われています。ミシュランガイドで星を獲得したレストランの数もパリを引き離して世界トップです。

グランメゾンの重厚なフレンチからカウンターだけの寿司、さらには町場のラーメンやお好み焼きまで様々な料理を食べることができ、さらには、相席居酒屋や裸レストランといった趣向の変わったものまであります。

しかし、その東京にあっても体験できない料理、レストランがあります。

それは、ロボットが料理を作り、ロボットが提供するレストランです。

ロボットレストラン

ロボットが料理を作ったり、提供したりしてくれるのが、2016年7月16日にオープンした長崎県にあるハウステンボスの「変なレストラン」です。

「変なレストラン」は200年後をテーマにしたブッフェレストランで、店長の「ジェイムスン」は店内のロボットスタッフを紹介し、案内係「コラッサント」は客に声を掛けて案内し、ホール係「サウザー」は皿を片付けます。

料理長「アンドリュー」は関西弁で楽しいお喋りをしながら巧みなコテ捌きでお好み焼きを、調理係「アール」はチャーハンや数種類の炒め物を、調理係「エル」はドーナツを、ソフトクリーム係「やすかわ君」はソフトクームを作るのです。食べ物だけではありません。バーテンダー「ダニール」に至っては約20種類ものカクテルを作ったり、ソフトドリンクを提供したりします。

どうして、ハウステンボスはこのような世にも珍しいロボットが活躍する「変なレストラン」をオープンしたのでしょうか。

ロボットへの想い

実はハウステンボスはもとからロボットへの熱い想いがあったのです。

「変なレストラン」がオープンする前の2015年7月17日に「変なホテル」がオープンしました。

この名前から想像できるように、このホテルはロボットがメインスタッフとして働く世界で初めてのホテルで、ギネスにも認定されたのです。

英語や中国語など4カ国語を操るロボットがチェックインやチェックアウトの手続きを行ったり、ロボットアームがクロークで荷物を預かったり、ポーターのロボットが客室まで案内したりするのです。

また、2016年7月16日には「花」「光」「音楽とショー」「ゲーム」「健康と美」という既存の5つの王国に加えて、「ロボットの王国」が新しく加わりました。

ハウステンボスは引き続きこのロボットたちによるおもてなしを追求し、2017年3月には千葉県・舞浜でオープンする予定であり、愛知県への進出も計画しています。

注目するべき食

佐世保バーガー(ダム)
佐世保バーガー(ダム)

話を少し戻しましょう。

「変なレストラン」でロボットに作ってもらえるお好み焼き、カクテル、ソフトクリームだけでも驚くべきことですが、実はハウステンボスには他にも注目するべき食がたくさんあります。

美食企画

うちわ海老ちゃんぽんと自家製ローストビーフちゃんぽん(悟空)
うちわ海老ちゃんぽんと自家製ローストビーフちゃんぽん(悟空)

2016年10月22日からトレンドや地産地消をコンセプトにした「美食企画」の第一弾として長崎ちゃんぽん専門店「悟空」から新作のちゃんぽんん2種類が販売されています。

「ハイブリッド」をコンセプトにして、以下のようなユニークなメニューを提供しているのです。

  • 自家製ローストビーフちゃんぽん

トレンド x ちゃんぽん

ブーム到来のローストビーフを贅沢にも一面に敷き詰めた一品

  • うちわ海老ちゃんぽん

長崎名物 x ちゃんぽん

五島近海のうちわえびをまるごと一匹使用した一品

五島うどんと讃岐うどん(ソレイユ)
五島うどんと讃岐うどん(ソレイユ)
野菜栽培(AURA)
野菜栽培(AURA)

こういった企画物以外でも、定番として目を引く食べ物や店がたくさんあります。長崎から発信して東京でも大ブームを巻き起こし、グルメバーガーの嚆矢となった佐世保バーガーの店舗が4店舗もあったり、五島うどん「ソレイユ」では三大うどんである地元の五島うどんと讃岐うどんを食べ比べられたり、長崎県の地産地消を謳う「健康レストラン AURA(オーラ)」では店内で無農薬野菜を栽培していたりと、実にバラエティ豊かです。

初代総料理長の上柿元勝氏

ロボットが料理を作ったり、意外なハイブリッドメニューを提供したりと、ハウステンボスは食で面白いことを行っています。

しかし実は、味を追求した正統派の食にも定評があるのです。

優れた技術者を表彰する2016年度の「現代の名工」が2016年11月20日に発表され、21日に表彰式が行われました。

現代の名工は技術者の地位や技能向上を図る目的で1967年に創設され、今年で50回目。優れた技術を持ち、ほかの技術者の模範となることなどを基準に都道府県や業界団体が推薦した人を審査する。賞金は10万円。

近年は毎年約150人を表彰しているが、今回は50周年を記念し表彰者の枠を広げたことなどから160人が選ばれた。

出典:日本経済新聞

この160人の「現代の名工」の中に、佐世保市のフランス料理人である上柿元勝氏も選出されました。

上柿元氏は20世紀のフランス料理界の中でも特に巨匠とされるアラン・シャペル氏のもとで修行し、日本の食材を高度なテクニックで繊細に融合させて独創的なフランス料理を作り上げた料理人であり、昭和天皇や来日した国賓の料理を作ったりもしました。

長崎産金時鯛のロティとフランス産キノコのフリカッセ(デ アドミラル)
長崎産金時鯛のロティとフランス産キノコのフリカッセ(デ アドミラル)

卓越した技術を評価されながも、テレビ長崎のインタビューでは「1回も満足したことない。きょうよりあした、今よりまだすばらしい料理があるのではないか、すばらしい食材との出会いがあるのではないかと毎日楽しく仕事している」と話すほどの職人です。

「現代の名工」に選ばれたことに対して「46年間、コツコツとフランス料理一本でやってきて、日本の食材を用いながら、神戸・ハウステンボスとやってきたことが認められた。よかったと思う」と話していますが、インタビュー中でも述べているように、上柿元氏は実はハウステンボスのオープン時に総料理長に就任し、腕を奮ってきたのです。

本格的なレストラン

トリュフ香るきのこのクリームスープ カプチーノ仕立て(デ アドミラル)
トリュフ香るきのこのクリームスープ カプチーノ仕立て(デ アドミラル)

この上柿元氏の流れを受け継ぐのがホテルヨーロッパにあるフランス料理「デ アドミラル」です。長崎の食材の質の高さを評価して全国へPRしてきたように、「デ アドミラル」では長崎野菜をふんだんに使いながら、根セロリ、ジロール茸やトランペット茸といったフランスの食材と上手に合わせた料理を提供しています。

テリーヌフォアグラ フランボワーズとビーツを赤のバリエーションで(デ アドミラル)
テリーヌフォアグラ フランボワーズとビーツを赤のバリエーションで(デ アドミラル)

最も上位のコースでは前菜3品にスープ、魚料理、肉料理、フロマージュ、アヴァンデセール、デセール、ミニャルディーズにコーヒーと完全なフルコースを提供しています。

フォアグラ、トリュフといったフランス料理には欠かせない食材もふんだんに使い、美しいフォアグラのテリーヌや安永和生料理長のスペシャリテである「トリュフ香るきのこのクリームスープ」といったガストロノミーを作り上げています。

フロマージュはワゴンで運ばれますが、テーマパークに付随するホテルのフランス料理店で、フロマージュをワゴンで提供する本格的なフランス料理店はそうそうありません。

長崎和牛のサーロインステーキとフィレステーキ(戎座)
長崎和牛のサーロインステーキとフィレステーキ(戎座)

フランス料理だけではなく、日本料理「吉翠亭」や鉄板焼の「戎座」もあります。「戎座」では第10回「全国和牛能力共進会」で「内閣総理大臣賞」を受賞し、日本一に輝いたこともある長崎和牛が使われており、とてもおいしい鉄板焼を食べられます。カラスミを自家製で作っていたり、ガーリックライスに卵を加えて炒飯のように仕上げたりと、独自のこだわりもあります。

フードプレゼンテーション(ローラ・アシュレイ フロア クラブラウンジ)
フードプレゼンテーション(ローラ・アシュレイ フロア クラブラウンジ)

他にも、ホテルアムステルダムに2014年4月1日にオープンした「ローラ・アシュレイ フロア クラブラウンジ」では1日5回のフードプレゼンテーションを行っていますが、東京の高級ホテルでも1日5回もフードプレゼンテーションを行うところは少ないです。

日本一のテーマパークレストラン

このようにハウステンボスは「変なレストラン」のようにロボットが活躍する変わり種から、ハイブリッドの長崎ちゃんぽんのようなトレンドもの、五島うどんや佐世保バーガーといったローカルフード、さらには「現代の名工」を受賞した上柿元氏の流れを受け継ぐ本格的なフランス料理や日本一の長崎和牛を堪能できる鉄板焼まで、非常に幅広く食が充実しており、約60もの食の施設を有していることからも食に力を入れていることが分かります。

ハウステンボスは熊本地震の影響を受け、エイチ・アイ・エスの会長兼社長である沢田秀雄氏が支援を開始してから初めての減収減益を発表しましたが、赤字から奇跡のように甦ったことは紛れもない事実であり、ロボットに続いて2017年春からVRやARを体験できる施設を作るなど積極的に新しい試みを行っていますが、この復活の理由の一つには、日本一のテーマパークレストラン」を謳い、「テーマパークの食はおいしくない」という概念を打ち破ったことも大きいのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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