「パンが焦げている」で一時期販売中止に 閉店間際の客にもパンを残し安売りしない百貨店と売り切る百貨店
2019年4月17日から21日にかけて、東京都内の百貨店で開催された催事で、出店したバゲット(フランスパン)が「焦げている」との客の意見を受け、一時、販売中止になった。
サイトの写真を見たが、「焦げている」とは思えない。
真っ先に思い出したのが、広島の捨てないパン屋、ブーランジェリー・ドリアンが取材で話してくれた内容だった。
しっかり焼き込むことで香り高いパンになる
ブーランジェリー・ドリアンは、広島市内にある個人のパン屋。三代目の田村陽至(ようじ)さんは、借金を抱えたパン屋を再建し、年商2500万円にした。一時期は8名で働いていたが、現在は、奥様の芙美(ふみ)さんと二人だけで経営している。店頭での販売は、週3日、午後だけ。休みは増やしながら年商は保ち、2015年の秋からパンを1個も捨てていない。2018年11月には『捨てないパン屋』(清流出版)を上梓した。
取材で伺ったが、著書にも、「(通信販売で)送られてきたパンが焦げているんですけど」というメールがまれに来る話が書かれている。
田村さんが「すぐ送り返してください。返金しますので」と言い、パンを受け取ると、ほとんどの場合、田村さんにとってはベストな焼き色だったと言う。
食べ物が香り高く美味しくなる茶色くなる現象は「カラメル化」や「メイラード反応」
パンに焼き色がつくような、食べ物に茶色く焦げ目がついて、香りが出て美味しくなる現象は、日常生活でよく目にする。
ごはんのお焦げや、お餅を焼き網で焼いたときの焦げ目、カステラの茶色い部分、プリンのカラメルソース、赤身の肉をジュージューと焼いた時の焼け目、玉ねぎを炒めた時の茶色、コーヒー、ビール、味噌、醤油など・・・。
糖類を加熱すると、茶色(褐色)のcaramel(カラメル)ができる。これを「カラメル化」と呼ぶ。プリンのカラメルソースや、味噌・醤油の一部の色は「カラメル化」によるものだ。
糖類だけでなく、アミノ酸も存在する場合、melanoidin(メラノイジン)という物質ができる。発見者Maillard(メイラード)氏の名前をとって、「メイラード反応」、あるいは「アミノ・カルボニル反応」とも呼ばれる。パンの焦げ目やごはんのお焦げ、肉の焼き目などがこれに当たる。
パンを焼く時にも「カラメル化」は起こっている。「カラメル化」と「メイラード反応」は、単独でなく、同時に起こっている場合もある。
焦げ目は美味しさのもとであることは消費者も百貨店も理解して欲しい
田村さんは、著書で、どのへんで窯から出すか、悩ましい思いのうちを語っている。
田村さんのお店では、店頭売りと並行して通信販売も行なっているので、パンそのものを見ないで注文するお客もいる。だが、今回のような百貨店の催事であれば、現物を確認してから購入できるから、好みに合わなければ買わなければいい話ではないだろうか。焦げ目を好まないなら白いパンを買えばいい。
171本が販売を止められたという記事があるが、4月19日から販売を再開し、廃棄ではなく、百貨店の勉強会で使ったことを確認した人もいた。食品ロスになっていないことを祈る。
個人の推察に過ぎないが、昨今、流行りの「高級食パン」は、おおむね焼き色が薄いものが多い。それがパンの基本の色み、という認識になっているのだろうか。店によって違うが、中には食パンの耳まで白く柔らかいものもある。高級食パンでなくても、日本のパンは、ヨーロッパのパンと比べると、茶色みは薄い傾向にある。
フランス人から見ても、日本のパンは白っぽく、焦げが足りないようだ。
百貨店側も、消費者も、焦げ目は美味しさのもとでもあることを理解して、寛容になって欲しいと願う。
「百貨店はパン屋が決死の覚悟で入っていく場所」
田村さんは、取材で「百貨店はパン屋が決死の覚悟で入っていく場所」とも語っていた。
田村さんがパンづくりの修行をしてきたヨーロッパでは、見た目ではなく、「実」を重視していたとのことだった。
本当は、パンの多少の焦げ目がどうこうより、味で判断されるべきだろう。
閉店間際のデパ地下パン屋が売り切っているかどうかをチェック!
筆者は、百貨店の催事担当の方の話を伺ったことがある。一番気を使うのは、命に関わるアレルギーの情報。特に新規出店者がいる場合、原材料のうち、主原料だけでなく、副原料までも細かく気を使う。
一方、百貨店の催事に出店する企業の話を伺ったこともある。欠品は絶対に許されないし、出店料は高いし・・・という悩みを教えてくれた。
百貨店と出店者、どちらにとっても、違った意味での大変さがあるだろう。
消費者にできることは、パンの美味しさのもとである焦げには寛容になること。寛容になれないなら、白いパンを選んで買うこと。
百貨店のパン屋にもいろいろあるので、閉店間際にパンを売り切ろうとしているか、そうでないかをチェックして欲しい。これは普通のパン屋さんも同じだ。
筆者が定期的にバゲットを購入するデパ地下パン屋は、必要最小限しか焼かず、すぐ売り切れてしまうので、毎回、店頭か電話で予約をして取りに行っている。
フードバンクの広報責任者を務めている時、百貨店の地下に出店しているパン屋さんから相談を受けたことがあった。
百貨店から「閉店間際のお客様にもたくさんの種類が選べるよう、全て残しておくように。そして百貨店のブランドイメージが落ちるから安売りは決してしないように」と指示された。その結果、毎晩、焼きたてパンが大量に売れ残り、泣く泣く捨てている、社員だけでも食べきれない、どうにかしたい・・・という相談だった。
パン屋の閉店間際の棚から、その店の「食品ロス」に対する姿勢が読み取れる。
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