学生が「ぞくぞくした!」驚きのオンライン授業とは -案外おもしろい!試行錯誤のオンライン授業-
大学も新型コロナウイルスの影響を大きく受け、なんとか乗り越えた前期(春学期)。後期(秋学期)も引き続きオンライン中心の大学も多いのではないでしょうか。
私の所属する明治大学でも春学期はオンライン授業を行っていました。
どんなオンライン授業が行われていたのか、楽しそうなものをいくつかご紹介しましょう。みなさんもきっと授業を受けてみたくなりますよ!
ちなみに、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科(http://www.fms-meiji.jp/)は、学生さんそれぞれに「こんなものがこれから世の中には必要ではないか」「こんな仕組みや体験を創れたらおもしろいのではないか」という想いからスタートし、そのために必要となる「発想力」と「技術力」を数理科学の考え方をベースにしながら多彩なカリキュラムを通じて磨いていく。そんな学科です。
学生にウケた「2台のドローンで撮影」
学生さんに聞いたところ、宮下芳明先生の「総合数理概論」が特に人気が高かったです。「宮下先生の総合数理概論はぞくぞくした!」「おもしろかった!」という感想が寄せられました。
この講義、大学キャンパスのホールでドローンを使って空撮した動画なのです。自動追尾機能がついてるので、ホール内を歩き回る先生を追いかけて映像を撮ってくれます(記事冒頭の写真)。
宮下先生によると、「そのドローンに撮影されながら、もう一台ドローンをジェスチャーで飛ばし、ドローンが映り込んだドローン自撮りを撮影した」そうです。学生さんがこのホールで授業を受けている通常の状態では、ここまでホール全域にドローンを飛ばすなんていうことはできないわけで、誰もいないホールを逆手にとった画期的な動画です。当日の学生さんたちの盛り上がりはこちらのTogetterで見られます(https://togetter.com/li/1512018)。
さらに、楽しそうに撮影の練習をする宮下先生の動画はTwitterで見られます(https://twitter.com/HomeiMiyashita/status/1261294397083152385)。
1週間後には作品発表会!(動画あり)
同じ宮下先生の、「エンタテインメントプログラミング演習」の動画(https://www.youtube.com/watch?v=HEI-8JxoCPs)もぜひ見てください! この授業では、その場でプログラムのソースコードを書いて、その場で実行結果が確認できる「ライブコーディング」を見せています。ブラウザ上でライブコーディングができるLivecodelab(https://livecodelab.net/)を使っています。音声付きの2分ちょっとの動画です。音声も内容に関係するので、できれば音声が聞ける環境でどうぞ。ソースコードを書き換えると、その瞬間に再生される音が変わるのがわかりますか?
学生さんはこれを見て、1週間後に自分で作品を作って提出します。
提出された作品の発表会(https://www.youtube.com/watch?v=FDAu2p-DXIk)もすごくおもしろいですよ。あなたはどの学生にプログラミングやアートのセンスを感じましたか?
発表会は「YouTubeプレミア公開」を使ったそうです。「同時にチャットをしながらの発表会は、すごい一体感がありました」と宮下先生はおっしゃっていました。
学科長である宮下先生は、現在学生が入構できないキャンパスの中を自撮りしながら歩き回り、各研究室の研究内容を紹介していくといった内容もアップしていました。
今年度の新入生はまだキャンパスに入ったことがない状態で新学期を迎えました。少しでも学内のことを知ってもらおうという工夫です。
リアルタイム型はコメントの受付に工夫が
ご紹介した宮下先生の授業は、収録した動画を学生さんが好きなときに見る「オンデマンド型」(収録動画配信型)授業です。
オンデマンド型であっても、実際の講義開始時間にあわせて視聴することを促している授業もあります。学科内教員のオムニバス講義「先端メディアサイエンス概論」では、これまで、Twitterでつぶやきながら講義を受けることを推奨していました。今年も3限の始まる13:30に動画視聴を始めてもらい、Twitterでハッシュタグをつけてつぶやきながら受講してもらうように促しています。そのほかの授業ではSlack内でチャンネルを作っていることもあります。いずれも「みんなで視聴している」という一体感を感じるための仕組みです。
そのほかに、リアルタイム配信型(同時双方向型)も多くの先生方がやっています。Zoomを使っている先生方が大多数です。Zoomは使い方がシンプルでわかりやすいことに加えて、通信量を受信者がコントロールできることが学生さんにとって魅力のようです。最小表示にすると、通信量はおよそ10分の1になります。
私の五十嵐研究室のゼミでもZoomを活用しながら、画面共有ツールで共有してもらったスライドやプログラムの上に、「コメント付け」機能で絵を描いたりしながら議論を進めています。
オンライン授業でのキモになるのは、「コメントの付け方」の工夫です。イマドキの学生さんの気質を知ることが、授業に魅力を感じてもらえるかどうかの重要なポイントなのです。
Zoomに付いているチャット機能を使ってもそれほど盛り上がらず、あまり使われていません。というのも「匿名かどうか」が大事なようなのです。Zoomのコメント機能では、誰が投稿したかというのがわかってしまうほかに、画面共有したスライドのうちのどれに対するコメントかがわかりづらいという課題もあります。
一方、Google DocumentやScrapboxを併用し、匿名でコメントを記入できるようなスペースを用意すると議論が活発になる傾向があります。
ニコ動風のコメントが流せるアプリがおもしろい
先生にも学生にも好評なのがオンライン会議アプリ「Comment Screen(コメントスクリーン)」です。Zoomの画面にニコニコ動画のようなコメント(字幕)を流すことができるサービスです。
投稿者(学生さん)は、専用ページにハッシュタグを付けて書き込むと、Zoom画面にそれが字幕として流れます。匿名で書き込めるので、気軽に発言できるようです。教員側はリアルタイムで聞き手の反応を得ることができ、教員と学生さんが一体となった双方向型のコミュニティを簡単に形成することができます。
橋本直先生の授業では、「最近あなたが面白いと思っているものは何ですか?」というレポート課題に対して、「面白さを解説するためにネタバレは考慮しなくていいですか?」との質問が流れ、橋本先生が即座にそれに答えていました。
次の画像は、中村聡史先生の授業で、BADUI(バッドユーアイ:ダメなユーザインタフェース)の解説をしているところです。
「押して開ける扉でしょうか? 引いて開ける扉でしょうか?」という質問に対して、「押す」が大半で、それ以外に「押す(引くんだろうな)」「引く」などと学生さんからの答えがあります。実際は「引く」扉で、学生さんからの反応を見ても、引くことに気づくことが難しいBADUIの好例であることがはっきりわかります。「スマホからの投稿も可能なのでハードルが低いというのもいいですね。これを使うとフィードバックをもらいやすいので、他の講義でもいろいろと活用してみる予定です」。
ここまで派手な仕掛けを使わなくても、それぞれの先生はオンライン授業ならではの細かい工夫をしています。
学生さんからとても評判だったのが、「微積分」担当の阿原一志先生の授業です。
阿原先生はオンライン授業が決まった直後から着々と準備を進めていました。大学の授業は1コマ100分ですが、これを10分程度の動画に分割したのです。「動画が短いので視聴する意欲が湧く」「1本の動画時間がYouTubeを見るのと感覚が近い」「わからなくなったときなどに巻き戻したり止めたりがしやすい」という学生さんの声がありました。確かに、動画が長いと進行状況を示すバーの細かい操作がしづらくなりますよね。
「かなり先の授業日の分まで配信されていることから、空いた時間にどんどん自分のペースで進めることができる」「来週忙しいから今週2回分やってしまおうといったことができる」という点も、学生さんからは好評のようです。
工夫している点として「スライドはすべて手書きで、矢印などを多用してカラフルな画面にしていること」「3本に1本は少しテンションを緩めた雑談的なビデオにしていること」と、阿原先生が教えてくださいました。
記名式のレポート提出のほかに、無記名でのアンケートを受け付けている先生も多く、これも学生さんからは評判がいいです。匿名で質問ができるので質問しやすい、というのが案外オンライン授業の大きな利点かもしれないですね。
オンラインでのプログラミング演習は試行錯誤
「講義を聞く」という座学の授業に比べ、実験系授業やプログラミング演習などをオンラインで行う方法については、どの先生も苦労して試行錯誤されています。
例えば、中村聡史先生らが担当しているプログラミング演習(必修授業、受講生100人以上)では、小テストなどを実施できないため、どうやって予習をしてもらうかについて頭を悩ませていたそうです。
その結果、中村研究室の又吉康綱くんの協力で、予習のための写経タイピングサービス「typing.run」が開発されました。「写経」とは、画面に表示された通りの文字をなぞるようにキー入力していく、ということです。どのような動作をするかはこちら(https://www.youtube.com/watch?v=HlW9g1zlyfI)で動画が見られます(音声なし)。
さらにティーチングアシスタント(TA)の大学院生たちの協力でScrapboxに事前に想定される質問応答集をため込んでおきました。なるべく自分で解決を図りつつ演習を進められるようにする仕組みです。
こういった用意をしたうえで、実際の授業では、オンライン会議サービスRemo Conference(https://remo.co/)を使っています。このサービスでは、ユーザーが部屋に自身のアイコンをもっていくだけで、その部屋で閉じた状態でやり取りを行うことができます。
学生さんたちを部屋ごとに4人ずつ割り振り、学生同士で問題解決を図りますが、必要に応じてTAさんにも質問できる、という流れで授業を行っています。
担当の中村聡史先生によると、「初回は思ったように進まず、また課題の提出状況も例年に比べてかなり悪い感じでした」とのことです。「これまでならできていなさそうな学生をなんとなくピックアップできていたのに、それができなかったこと。フォルダ名間違いの自動チェックができなくなったこと。他人の進捗状況がわからないので、学生さんに焦りがうまれずムダに時間が経過してしまっていること。自宅のため集中できていないことなどが原因ではないかと思います」。
初回の経験を踏まえて、以降の授業では他人の進捗状況を可視化できるような仕組みを加えて運用しているそうです。中村聡史先生による授業運用の試行錯誤の様子はnoteで見ることができます(「プログラミングの大学初年次教育をどのように遠隔で成り立たせるか?の記録」)。
中村先生は、Spatial Chatという音声会話ツールも試しています。これは、各ユーザーが空間(画面内)を気軽に移動できて、画面上で近くの人の声はよく聞こえ、遠くの人の声は聞こえづらいといった仕組みになっています。中村先生らによると、「音声ベースのグループワークなどを行うのにはとても良い感じ」とのことです。
先生方は、授業やゼミでどのツールを選ぶか、どのツールと併用するか、授業の特性を考慮し、その都度考えて模索している段階です。
このように、大学ではいろいろな方法でオンライン授業を魅力的なものにするよう、チャレンジしています。楽しんでいただけましたか?
もしかしたらみなさんのビジネスや趣味に応用できるヒントがあったかもしれません。そういうときは、せっかくなので試してみてはいかがでしょうか。
※本記事は、日本ビジネスプレスコラム(2020.07.01)からの転載(一部改訂)です。
(記事内に使用した画像は、各担当教員からいただいた画像を使用した。)