勢い止まらぬ藤井聡太二冠(18)初の竜王戦本戦ベスト4進出! 山崎隆之八段(40)との熱戦を制す
7月10日。大阪・関西将棋会館において第34期竜王戦本戦▲山崎隆之八段(1組3位)-△藤井聡太二冠(2組優勝)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。
10時に始まった対局は22時20分に終局。結果は94手で藤井二冠の勝ちとなりました。
藤井二冠はこれで本戦ベスト4に進出。準決勝で久保利明九段(1組2位)-八代弥七段(2組2位)戦の勝者と対戦します。
藤井二冠「竜王戦ベスト4まで進んだのは初めてだと思うので、次、非常に大きな一局になりますけど、しっかり、いい状態で臨めるようにしたいと思います」
藤井二冠の今年度成績は、13勝3敗(勝率0.813)となりました。
力のこもった序中盤
将棋の戦法には、はやりすたりがあります。現在の将棋界では相掛かりが主要戦法となりました。
そんな流行とは関係なく、山崎八段は以前から一貫して相掛かりを採用し続けてきました。先日のA級順位戦1回戦(斎藤慎太郎八段戦)に続き、本局もまた相掛かり。そして同様に角筋を開けない趣向を見せました。
山崎「とりあえず、あまり作戦を練るのが苦手なので・・・。ついこの間やってボロ負けしたので(苦笑)。ソフト的にはあまりこちらがよくない作戦っていうのは(斎藤戦後)帰って気づいてやったんですけど。やりながら考えるという形で」
コンピュータ将棋ソフト(AI)を使っての事前研究が全盛の現在。ソフトにはほとんど頼らず、持ち前の才能で斬新な構想を披露するのが変わらぬ山崎将棋の魅力です。
藤井二冠もいつもと変わらぬ姿勢。相手の得意形を堂々と受けて立ちます。
山崎「どう組んでいいかがちょっと・・・」
序盤から時間を使って考える山崎八段。相手にとっても、また自分にとってもどう指していいのか難しい序盤戦へと誘導しました。
31手目。山崎八段は五段目に飛車を構えます。どのような戦型であっても、一段目に飛車を引く形が好まれるのが現代調。ここもまた山崎八段の個性が出た場面かもしれません。
藤井「序盤から構想が難しい将棋になって」
藤井二冠は相手の動きを警戒しながら、慎重に駒組を進めていきます。
山崎「作戦がちょっと冴えなかったですね。まあ相変わらず・・・無策です」
山崎八段はそう自嘲していましたが、形勢がわるくなったわけではなく、序盤は形勢互角のまま推移しました。
37手目。ここは3筋から歩を突っかけて動くのが自然と思われるところ。感想戦でもその順が検討されました。
山崎「こっちはちょっと怖かったんで」
藤井二冠の側から反撃を見せられると自信がなかったようです。
本譜、山崎八段は5五の地点に歩を進めます。これもまた、いかにも山崎将棋という構想でした。この地点は五段目の飛車の応援があるとはいえ、相手の角筋に入っているところ。また中住居の相手の玉頭でもありますが、同時に自分の玉頭です。
「5五の位は天王山」
はるか昔の戦前。相掛かりが全盛だった頃にはそんな言葉もありました。しかし同じ相掛かりというくくりでも、過去と現在とでは大きく違います。先人が山崎八段の陣形を見たら、びっくりすることでしょう。また現代であっても、山崎側を持ちたいという人はなかなかいないと思われます。
藤井二冠は6筋に続いて、7筋の歩を五段目に進めました。相手が角筋を開いてこないのですから、自然に思われる指し方です。
山崎八段は5筋の玉の上に、銀2枚を縦に並べて位を確保します。めったに見られない珍しい陣形が見られるのもやはり、山崎将棋ならではといえます。
山崎「最初は苦しいと思っていたので。難しいけど、ちょっと苦しいのかなと思ってたので。どこで勝負するか。戦端、仕掛けるというのか、打開して動いていくかっていうのが非常に難しいと思ってて」
45手目。山崎八段は突き越された7筋の歩に向かって自身の歩を突きます。さらには6筋の歩も突き返し、相手の2つの位に向かって反発しました。
いよいよ本格的な戦いが始まったところで18時、夕食休憩に入りました。
夜戦の攻防
18時40分、対局再開。48手目、藤井二冠は5筋中住居の玉を、4筋一段目へと引きました。あらかじめ戦場から玉を遠ざける、深謀遠慮な早逃げです。そして藤井二冠は相手の5筋の位に向かって反発をします。このあたり、藤井二冠も自信があったわけではないようです。
藤井「こちらが△4一玉から△5四歩と、なんか、瞬間堅さをいかして攻めていければと思ったんですけど。ただ、なんかそのあと、先手玉の広さをいかされる展開になってしまって」
山崎「(△5四歩の)その前あたりはあまり自信なかったので、勝負勝負・・・。少し苦しいと思えば精神的に開き直れるので、そういう感じでずっと。押し返したあともちょっと苦しいと思って思い切り・・・。そうですね、精神的にそういうふうに思って積極的に指して、少し盛り返したなという感じはしたんですけど」
藤井「△5四歩に▲6六角から▲5四歩という手順の組み合わせが少し見えていなかったので。やっぱり△4一玉型なので、こっちの攻めていった形が思った以上に当たりが強いというのが少し誤算ではありました」
形勢互角のまま、戦いは中盤から一気に激しい終盤へと推移していきました。
19時からはABEMAトーナメント、チーム渡辺-チーム斎藤戦が始まりました。
藤井二冠はチーム藤井「最年少+1」のリーダーとして、すでに予選通過を決めています。
また山崎八段はチーム糸谷「FREESTYLE」のメンバーとして、こちらも予選通過を決めています。
58手目。藤井二冠は7筋に歩を成ります。持ち時間5時間のうち、残りは山崎32分、藤井38分。片や早見え早指しの山崎八段。片や長考派の藤井二冠ですが、本局ではほぼずっと、山崎八段が時間消費で先行しました。
常にきわどい変化を前提にしての攻防。
山崎「命がけすぎるんですけど(笑)。さすがに死んでるかな。なんか死んでそうね」
感想戦ではそんな順も検討されました。
62手目。藤井二冠は桂取りに歩を打ちます。これで桂を取れることは確定。ただしこの瞬間は山崎八段からの反撃が見えているだけに、怖いところです。
山崎「いやちょっとわかんなかった。間違えたとしたらここらへん」
山崎八段はそう語っていましたが、本譜の順とソフトが示す最善手とは一致していました。
白熱の終盤戦
65手目。山崎八段は12分考え、自陣に角を据えます。これが遠く相手陣の金取り。いかにも筋がよさそうな攻めでした。
金取りをどう受けるのかは難しそう。そう思われたところで、藤井二冠は金を寄ります。消費時間はわずかに1分。
山崎「▲2六角を打ってそれが効くかどうか。効けばいいんじゃないかな、と思って。そこで効くかどうかを考えてて。そこでちょっと時間を使いすぎて。ちょっと金寄り(△7二金)をあまり・・・大丈夫だと思って軽視してて。しまったな、という。ちょっと考えすぎてしまったなと。そのあともう少し時間を早めに・・・角を打つなら打っとくんだったなというところで。そのあたりで決断がちょっと遅かったので、あまり本命ではない変化になってしまって。そのあと間違えたのかな、というふうに・・・。逆転されたな、っていう感じですね」
形勢に自信を持っていた山崎八段。意表を突かれてまた考えます。残り18分のうち11分を割いて、5筋に歩を成りました。藤井玉のすぐ近く攻め、大変な迫力。対して藤井二冠は銀桂交換の駒損に甘んじる一方、しっかりと支えて崩れません。
山崎「(△5二)歩を打たれてちょっとわからなかったですね。うーん。いやあ、どうするんだろう」
藤井「ひどい形なんで」
山崎「いやあ、勝ちかなと思ったんですけど・・・」
山崎八段は5筋、藤井二冠は7筋から攻めていきます。78手目。藤井二冠は相手のと金を銀で払います。ここで自然にその銀を取るか。それとも桂を取るか。残り時間は山崎3分、藤井7分。山崎八段は勝ち筋を見つけられませんでした。
山崎八段は銀を取ります。先に詰めろがかかったのは藤井玉でした。対して藤井二冠はしっかりと歩を打って受けます。
終局直後、両対局者は次のように語りました。
藤井「終盤は自信がない局面が長かった気がします。ちょっとそうですね、わからなかったですけど、△5二歩と受けた局面でそれ以上攻めがなければ難しいのかなあ、と思いました」
山崎「終盤、そうですね。勝ちが・・・。正しく、寄せが鋭い人なら・・・。(自分と相手が)逆ならいいんですけど(苦笑)。うーん。ちゃんとやれば勝ちがあるなと思ったんですけど。私の力ではわからなかった。ちょっとわからなかったですね。時間を使ったんですけど、うーん。最後の持ち時間を使っていったんですけど、あのへん、わからなかったですね。藤井さんが言われた通り、銀を最後手拍子・・・手拍子っていうか一分将棋なんでしょうがないんですけど。(▲5三)同角成と成って△5二歩と打たれて。いや、意外に大変だったんで。ちょっとその変化が気づいてなかったので」
山崎八段は藤井二冠よりも多くを語りました。
山崎「ただ終盤、よくなってからの終盤が勉強不足だった。寄せが見えなかったですかね。最後(▲5三角成と)銀をただで取ってしまったのが、逆にあまりよくなかったかもしれないですね。うーん、ちょっとわからない。あそこはもう負けなのかもしれないですけど。(▲2一歩成と)桂を取った方が意外と難しかったりするのかな。うーん、まあでもちょっとその前に、なんか間違えたな、という気がします。その前になんかもう少し、いい手があっただろうなということは思う。ちょっと▲5四歩、▲5三歩成が思ったより厳しくなかったので。▲2二歩打つなら早めに打った方がもしかしたらよかった可能性がありますかね。ちょっと、そもそも指し方が変かもしれないです。(▲6四)歩突きから(▲2六)角が。もしかしたらもっといい手が、単に角打ったりした方が厳しかったとか。▲2二歩打ったりとか。正しくやれば、という感じにはまあなんとか・・・。勝負形にはなったかなとは思ったんですけど。そうですね。ちょっと、チャンスを活かしきれませんでした」
感想でも詳しく検討されましたが、山崎八段がはっきりよくなる順は見つかりませんでした。
山崎「なんかありましたか? すでに間違えてるんだろうな、という気はしたんですけど」
藤井「ああ・・・。大変ですか・・・」
山崎「わからないですね。・・・こんだけいま考えて見つけられないんじゃ」
藤井二冠が歩を打った盤面を前にして、山崎八段はひとしきり変化を語りました。
山崎「まあ、負けですかね」
山崎「ちょっと寄せが・・・。時間なくて見つけられなかったというわけじゃなくて、
ただ単に(時間が)あっても見つけられなかった」
81手目。残り3分の山崎八段は時間を使い切り、あとは60秒未満に指す一分将棋。そこで銀を打って藤井玉を寄せにいきました。
山崎「(自玉に)詰めろがかからないことに一分将棋でかけるか、みたいな」
藤井玉は危ない形に追い込まれますが、わずかに詰めろではありません。一方、山崎玉に詰めろの連続で迫るのも、そう簡単には見えません。対局中、時折がっくりしたような仕草を見せていた山崎八段。しかし決してあきらめているわけではありません。「死んだふり」に見せかけて、これまでそうした状況から、何度も逆転勝ちを収めてきています。
手番が回った藤井二冠。残り7分で勝ちまで持っていけるかどうか。
90手目。藤井二冠は中段に攻防の角を放ちます。山崎玉を受けなしに追い込む一方で、自玉は詰まない。きれいに勝ちを読み切って、大熱戦を制しました。
藤井二冠と山崎八段の対戦成績は、これで1勝1敗の五分。藤井二冠が負け越している相手は7人から6人になりました。
藤井二冠はほとんど休む間もなく、7月13日・14日、王位戦七番勝負第2局で豊島将之竜王と対戦します。もし藤井二冠が竜王戦で挑戦権を獲得すれば、豊島竜王とは王位戦に続き、叡王戦五番勝負、竜王戦七番勝負でも対戦することになります。