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藤井聡太NHK杯 VS. 名誉NHK杯・羽生善治九段 3月10日放映、今期準決勝で対戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月10日。第73回NHK杯将棋トーナメント準決勝、藤井聡太NHK杯選手権者(八冠)-羽生善治九段戦が放映されます。

 本局の勝者は決勝で佐々木勇気八段と対戦します。

現NHK杯 VS. 名誉NHK杯

 藤井現NHK杯は昨年、本棋戦で初優勝をはたしました。

 羽生九段は過去にNHK杯で11回優勝しています。

 羽生九段は10回優勝という、途方もなく厳しい条件をクリアして、将棋界でただ一人「名誉NHK杯選手権者」の資格を得ています。

 今期、藤井NHK杯は1回戦シード。2回戦からは出口若武六段、久保利明九段、伊藤匠七段を破ってベスト4に進出しました。

 羽生九段は1回戦で渡辺和史六段に勝ち。2回戦からは豊島将之九段、永瀬拓矢九段、中村太地八段と指し盛りの現役A級棋士を連破して、堂々のベスト4進出です。

 かくして将棋ファン待望のゴールデンカードがNHK杯で実現しました。

 公式戦での両者の過去の対戦成績は、藤井13勝、羽生3勝です。

藤井NHK杯、年間最高勝率記録更新なるか?

 藤井NHK杯の今年度成績は、44勝7敗1持将棋(勝率0.863)です。

 NHK杯で優勝し、棋王戦五番勝負第4局で勝って3勝0敗1持将棋で防衛を果たすと、史上最高勝率記録を更新します。

王座戦準決勝

 2023年度に入ってから、公式戦で藤井-羽生戦は2回おこなわれています。

 まず6月の王座戦準決勝。藤井七冠(当時)が八冠を目指す過程で、元七冠の羽生九段と当たるという、劇的な舞台設定でした。

 藤井七冠先手で戦型は角換わり。後手の羽生九段は早繰り銀で速攻に出ます。対して藤井七冠は腰掛銀から銀矢倉にスイッチして柔らかく受けたあと、桂を跳ねて反撃。難解な中盤戦が続きました。

 終盤、羽生九段は一足先に藤井玉に迫る形を作ります。羽生九段の攻めを振りほどくのは容易ではないようにも見えるところ、藤井七冠は正確な受けを続け、しのぎ切りました。藤井玉が逃げ切ったところで羽生九段が投了。123手で藤井七冠が勝っています。

 このあと、藤井七冠が王座挑戦権を獲得し、史上初の八冠を達成したのは周知の通りです。

銀河戦ブロック最終戦

 2023年8月には銀河戦の本戦ブロック最終戦で対戦。棋譜はこちらでも公開されています。

 藤井銀河先手で戦型は角換わり腰掛銀。藤井銀河が桂損をいとわず仕掛けたのに対して、羽生九段は手にした桂で反撃。藤井玉の周囲は、あっという間に終盤の形状となりました。

 羽生九段が押し切るか、それとも藤井銀河が中段玉でしのぐか。観ている側も手に汗を握る攻防が続きます。

 94手目。コンピュータ将棋(AI)は藤井銀河の側に▲6八桂という妙手があって指せると示していました。

羽生「えー!? 世の中にそんな手があるんですね」

 そう驚いた羽生九段。早指しで長く考える時間もない中、両者が全力を尽くした結果、それだけ奇跡的な局面が生じていたということでしょう。

 形勢は揺れ動き、評価値の上では羽生九段勝勢だった102手目。羽生九段は金を取りながら金を取ります。その瞬間、形勢は一転。代わりに銀不成であれば藤井玉への退路をふさいで詰めろが続き、羽生九段の勝ち筋でした。

 九死に一生を得た藤井銀河。ラグビーでトライを決めるかのように、羽生陣の左隅、一段目に玉をもぐりこみます。藤井玉が捕まらなくなったのを見て、羽生九段は投了。123手で劇的な幕切れとなりました。

準公式戦でも対戦

 SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2023では、羽生九段は東軍、藤井八冠は西軍でそれぞれ投票1位で選出。期せずして両者は6回戦で対戦しています。

藤井八冠先手で、定跡形をはずれた相居飛車の戦いに。どうなっているのかよくわからない中盤の57手目。30秒の秒読みの中、藤井八冠は自陣に異筋の桂を打ちます。AIが示した通りの最善手でした。

飯島「すごくないですか!? ちょっと。これはたぶん一番すごいと思います、今日」

 解説の飯島栄治八段は、そう驚きの声をあげていました。ダイナミックな攻防手が次々と飛び出すスリリングな終盤を藤井八冠が制して、77手で勝利を挙げています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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