不正まみれの商工中金、「過大ノルマ」が原因と言うが、どこまでが過大か?
「ノルマ」とは何なのか?
商工組合中央金庫(商工中金)が不正を繰り返した問題は、「過大なノルマ」を課したのが原因だと言います。全100営業店のうち97店。――ほぼ全店が関与し、813人もの職員が処分される事態となったわけですが、不正の理由が「過大なノルマ」だと報道されています。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。ですから「ノルマ」と聞くと、私は敏感に反応します。昨今は「ノルマ=悪」のように偏った報道がされることが多いですが、ノルマとは個人に割り当てられた労働基準量のこと。「キツイ」とか、今回のような「過大な」という修飾語がついてはじめて、激しいプレッシャーを覚えるもの。したがって、
「ノルマを課していない。現場の誤解だった」
安達健祐社長はこう釈明しますが、仕事をしている以上(たとえ民間企業でなくとも)、ノルマを課すことは普通です。個人のノルマ(基準となる労働量)がなければ、何を基準に働けばいいかわからなくなりますし、やりがいも覚えられなくなります。
不正の原因は「過大なノルマ」?
それでは「過大なノルマ」とはどういうことか?
重要なことは「過大=不可能」「過大=無理」ではない、ということです。
「1日30時間働け」
「100メートルを5秒で走れ」
と言われたら、不可能であり無理です。こんなノルマを課せられたら、ハラスメント、イジメと言われてもしょうがないでしょう。いっぽうで、「1日20時間働け」と言われたら「厳しい」「キツイ」となります。100メートルを11秒で走る人が「1ヶ月以内に10秒5で走れ」と言われたら、状況によっては「難しい」「無茶」となるかもしれません。
私の専門でもある「営業ノルマ」に関してはどうでしょうか。理論上、「過大なノルマ」など存在しないというのが私の見解です。達成できるかどうかは別にして、どんな「営業ノルマ」であろうが、「無理」とか「不可能」とか「逆立ちしてもできない」とかはあり得ません。ましてや不正をしない限り達成できないような「過大なノルマ」など理論上ないのです。
たとえばお客様になり得る企業が1000社あり、その企業を相手に「1億円」の数字をつくりたいとします。パターンはいくつもあります。
・10万円×1000社
・50万円×200社
・100万円×100社
・500万円×20社
・1000万円×10社
・5000万円×2社
・1億円×1社
……などです。対象が1000社ですから、それ以上にはなりません。1000社から逆算して「1社あたりの平均取引額」を算出します。
このとき、営業が自社の扱っている商品にのみ焦点を合わせていたら(つまりお客様目線を忘れていたら)、ノルマ達成の発想が広がらなくなります。
たとえば100万円の製品・サービスを前述した条件で取引きしたいと考えたら、100社と取引が必要です。しかし、とてもその100万円の製品・サービスを販売できる企業が100社もなさそうで、70社しかないと判断した場合、どうするか。あと取引きする30社を無理やり作ることになります。
今回の商工中金の不正は、このような発想で行われたわけです。相手企業の経営状況を正しく精査せず、形式的な要件を満たすだけで融資したのは、そうしないと達成しないノルマだったからです。
しかし問題は、ノルマにあったのではなく、単純に「お客様視点が欠けていた」点にあることを忘れてはなりません。自社が取り扱っている製品・サービス(金融商品)にしか焦点を合わせていないから、ノルマ達成を実現するための他のオプションを考え付かなかったのです。全店で思考停止状態になっていた、というのが最大の問題です。
企業も少子高齢化の時代
企業も少子高齢化の時代です。
金融機関は、対象となるお客様の数(企業数)がドンドン減り、高齢化しています。事業承継の問題も顕在化し、それぞれの企業が抱える問題は複雑化しています。
多くの金融機関は従来の金融商品のみではノルマ達成ができないため、知恵を絞り、お客様と向き合おうとしています。お客様の立場に立ち、真摯に問題を解決しようとすれば、お客様は喜んでお金を支払ってくれることでしょう。1社からの平均取引額100万円が、150万円、180万円……と増えていくかもしれません。もしくは、これまでとは取引できなかったカテゴリーの企業からも声が掛かるかもしれません。
お客様目線をなくして独りよがりになり、思考停止状態になった組織だから、単なるノルマが「過大なノルマ」に見えてくるのです。経営の基本を忘れた企業は激しくバッシングされて当然でしょう。これは金融業界に限ったことではありません。