フェイスブックCEOの主張一転、「ホロコースト否定」削除の背景に何が
米フェイスブック(FB)は、第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を否定したり、事実をゆがめたりする内容の投稿を削除する方針を明らかにした。
若年層の4分の1「ホロコーストは作り話」
同社のマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は自身の投稿で、「表現の自由を擁護する立場とホロコーストを否定することによる弊害の間で苦しんできた」とし、「反ユダヤ主義による暴力が増えていることを示すデータを見て、考えが変わった」と述べた。
「何が容認できて、何が容認できないかの判断は容易ではないが、今回の方針は適切なバランスを取っていると思う」とも述べた。
同社によると、18~39歳の米国成人を対象に行ったアンケート調査で、回答者の約4分の1が「ホロコーストは作り話」「誇張されている」「確信が持てない」などと答えたという。
世界中で反ユダヤ主義の考えが増えており、とりわけ若年層のホロコーストに関する知識のなさが憂慮すべき水準に達しているという。今回の新方針はヘイトスピーチ(憎悪表現)に対する同社の取り組みの新たな一歩だと説明している。
「無干渉なアプローチ」が大規模ボイコットに発展
米CNBCによると、ザッカーバーグCEOはこれまで「意図せぬ誤りの可能性もある」とし、ホロコーストを否定するコンテンツを容認する姿勢を示していたという。
同氏はかねて「SNS(交流サイト)の運営企業は真偽の裁定者になるべきではない」との考えを表明し、トランプ米大統領の投稿に介入した米ツイッターを批判した。
「政治的な発言は民主主義社会において最も慎重に扱うべきものの1つ。政治家のメッセージは皆が見られるようにすべき」とし、たとえ偽情報が含まれる政治広告であっても容認していた。
しかし、こうした無干渉なアプローチがヘイトスピーチや偽情報の拡散を助長しているとし、人権擁護団体から非難された。これに端を発し、7月には大規模な広告ボイコット運動が起きた。ロイターによるとボイコットに参加した企業は1000社以上に上った。
そのうち、食品・日用品大手の英蘭ユニリーバや飲料大手の米コカ・コーラは今も広告再開の時期を明らかにしていない。蒸留酒メーカーの米ビームサントリーは年内の再開を見合わせ、フェイスブックの問題解決への取り組みを見ながら来年に再検討すると述べている。
ザッカーバーグCEO「偽情報の拡散防ぐ」
ただ、ここ最近のフェイスブックは方針を変えつつある。まず、陰謀論を唱える集団「Qアノン」関連のコンテンツを削除した。約900件のページとグループ、約1500本の広告を削除し、300個以上のハッシュタグを無効にした。
暴力の助長につながる根拠のない説を主張するコンテンツを一掃するとの取り組みの一環で、フェイスブック上の約2000件のグループとインスタグラムのアカウント約1万件にも制限をかけた。
今回の発表によると、同社はこれまでに250以上の白人至上主義団体に対し禁止措置を講じた。Qアノンのほか、武装集団のコンテンツに対する方針も変更。4〜6月に2250万件のヘイトスピーチを削除したとしている。
政治広告に対する方針も変更している。9月と10月には米大統領選投票日前後の2週間程度、政治広告を制限すると発表。先ごろはこの措置を約1カ月延長すると明らかにした。
また、選挙結果を否定する投稿に注意喚起している。選挙関連の不正確な投稿にラベルを表示し、正しい情報を確認するように促している。
ザッカーバーグCEOは一連の投稿で「今回の選挙はいつもと違う。我々には民主主義を守る責任があり、暴力や混乱を防ぐために措置を講じる」「プラットフォームの混乱や悪用を防止することは重要と考えている」などと繰り返している。
- (このコラムは「JBpress」2020年10月14日号に掲載された記事をもとにその後最新情報を加えて再編集したものです)