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だから言ったのに…。ハリルの 無計画な選手起用、これでは勝てない

杉山茂樹スポーツライター
国際親善試合 日本対マリ(写真:ロイター/アフロ)

 途中交代で初代表を飾った中島翔哉のロスタイム弾で、日本は仮想セネガルに1-1で引き分けた――といえば、特段、悪いニュースには聞こえない。新星の誕生にはしゃぐことも、そう恥じるべきことではない。しかし、相手は仮想セネガルであって、セネガルではない。セネガルに似たチームかもしれないが、セネガルより弱い、W杯アフリカ予選で敗退したマリだ。

 本大会出場を果たした日本としては、少なくとも試合内容では上回らなくてはならない相手。そこにやっとのことで引き分けた。悲観的にならざるを得ない。内容の悪さが目についた一戦だった。

 さらに言えば、ハリルホジッチの無計画な強化策が露わになった試合だった。このマリ戦を経て、セネガル対策としてどんな収穫を得たのかという前向きな話をする余裕を、いまの日本は悲しいかな、持ち合わせていない。対戦国との戦い方を模索する前に、自らに心配すべきことが山積しているからである。

 自軍が固まっていない。未完成品そのもの。日本は過去5回、W杯本大会出場を決めているが、その中では、2010年南アフリカW杯に臨んだ第2次岡田ジャパンに匹敵する前途多難ぶりだ。

 なにより中心選手が見当たらない。チームにヘソが存在しない。誰がスタメンか、誰が中心選手か判然としない点は、本番まで3カ月を切ったいまとなっては、セールスポイントにはならない。むしろ心配の種。激しさを増す代表選考レースが、混沌状態を煽っているようにしか見えない。生き残りを懸けたサバイバルレースといえば聞こえはいいが、対戦国に目を向ける余裕がないのだ。

 それはハリルホジッチの場当たり的なメンバー選考に起因する。「2018年6月から逆算できていない」と、これまで口が酸っぱくなるほど指摘してきたが、それがいま、白日のもとに晒された状態にある。

 中心選手と言われて即、連想するのは長谷部誠だ。ハリルホジッチから「キャプテンらしい選手」と称される経験豊富なベテランが、後半15分、ピッチを退いたのはどういうわけか。お疲れ様的な意味合いのある交代でないことは確かだ。三竿健斗を試してみたかったこともあるだろうが、それ以上に、肝心のプレーに問題が目立ったからだと思う。

 前半終了間際、長谷部が右サイドに送った横パスは、相手への完璧なプレゼントパスになった。一気に自軍ゴールまで運ばれ、あわやというピンチを招くことになった。こうしたあってはならないレベルの低いミスを、中心選手が犯してしまうところに日本の問題が潜んでいる。

 所属のフランクフルトでそうであるように、相手のプレッシャーを浴びにくい最終ラインでプレーするなら、長谷部はベテランらしさを発揮できるかもしれない。だが、中盤を任せるのは厳しい。長谷部が務める守備的MFは、現代サッカーにおいてはチームのヘソ。まさに司令塔のポジションだ。キャプテンシーだけでは務まらない、高度で難しいポジションになっている。

 ここが決まらなければ、チームは熟成していかない。なにより試合運びに問題が出る。いいリズム、いい流れは期待できない。自分のプレーに汲々(きゅうきゅう)としている34歳のベテランに、この役が難しくなっていることは、すでにわかっていた話だ。後任を誰にするか、もっと早い段階から探っておかなければならなかったのだ。

 しかしハリルホジッチは、目先の安定感欲しさにそれを怠った。長谷部を最終ラインで起用するテストも行なっていない。日本の問題は数あれど、一番は中心選手が中心選手らしいプレーを発揮できそうもない点にある。

 この日、守備的MFとして長谷部とともに先発を飾った大島僚太は、「司令塔」の有力な候補になる。だが、彼が日本代表でプレーした時間はこれまでわずか105分。2試合のみだ。その彼を、ハリルホジッチは試合前、「我々が追跡し始めた頃とは、見違えるほどよくなっている」と、持ち上げた。

 だが、それは真実だろうか。それならばなぜ、ハリルホジッチはW杯アジア最終予選の初戦、UAE戦に、大島を先発メンバーに送り込んだのか。予選の大一番に、初代表の新人をチームのヘソに起用したのである。当時から期待の選手であったことは疑いようがない。

 大島はそのUAE戦でPKを献上する反則を犯し、メディアから戦犯扱いされた。するとハリルホジッチも、その4試合後からは大島を招集さえしなくなった。Jリーグで以前と変わらぬ活躍をしていたにもかかわらず、育てることを放棄したのだ。目先の勝利ほしさのために。

 それをいまさら重宝がっているのだ。実際、マリ戦の大島は、ボールによく絡んだ。積極的に受けにいき、ビルドアップを試みようとした。だが、川崎Fでのプレーとは大きく違っていた。前へ、前へ、急ごうとしていた。メンバーに残りたければ、監督の指示に従うしかないからだ。

 これは大島に限った話ではない。全選手に言えることだ。球離れが早すぎる。リズムを失った原因はここにあるが、それは言い換えれば、仮想セネガルと同じリズムで戦ってしまったことを意味する。これでは勝てない。

 柔よく剛を制す。日本のスポーツが海外のツワモノと戦うときに求められるこの精神を、ハリルジャパンは一切、持ち合わせていない。それとは逆方向のサッカーをひたすら追求する。これまでの代表チームとの決定的な違いでもある。まさに力勝負を挑もうとしているところに、可能性の低さを感じる。

 場当たり的な強化策に話を戻せば、この日、交代出場した本田圭佑も、それを象徴する選手になる。現在の日本人選手の中で、これまで代表に最も貢献してきた選手だ。その本田のプレーに冴えがなくなっても、ハリルホジッチは「特別な選手だ」と言って使い続けた。

 それがあるときに一転。メンバーから外れた。ハリルホジッチは、「コンディションがよくない」としか述べなかった。もし今回、呼んだ理由が「コンディションが回復したから」と言うなら、選考基準はコンディションになる。実際、今回のメンバー発表記者会見でもハリルホジッチは、「そのとき調子がよい選手を呼ぶ」と述べている。

 本田クラスでもそれを基準にするのだとすれば、チームはまとまらない。1度外したら、最後まで外し続けるべきだし、使うなら最後まで使うべきなのだ。調子、云々で判断するべき選手ではない。

 代表チームの本番はW杯本大会だ。そこにベストメンバーを送り込むことが、代表監督に課せられた使命だ。その時々の調子でメンバーを選んでいたら、競争が激化するばかりで、チームとして熟成していかない。

 中島翔哉はこれが初代表だった。この日、PKを献上した宇賀神友弥もしかり。長谷部に代わって中島のゴールをアシストした三竿は代表2試合目。森岡亮太はハリルジャパンでは初先発。宇佐美貴史は1年9カ月ぶりの先発だった。

 W杯に向けてロシアに発つまであと2試合しか残されていない監督が、これは胸を張るべき采配だろうか。心配になるのは、日本人に適しているとは思えないそのサッカーの中身だけではない。ハリルホジッチに対する違和感は募るばかり。不安マックス値の更新は止まらない。

(集英社 webSportiva3月24日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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