Yahoo!ニュース

明日リングに上がるサラブレッド!

林壮一ノンフィクションライター
撮影:筆者

 日本ウエルター級5位の湯場海樹が、26日に自身16戦目として、同級4位の石脇麻生戦を迎える。目下11勝(7KO)2敗2分だが、タイトルを狙うには絶対に落とせない一戦だ。

 湯場の父親は、御存知の通り、日本王座5階級制覇を成し遂げた忠志である。

 「小学校に入学したくらいから、父の試合を見に行っていました。でも、顎を骨折して、救急車に乗せられて運ばれる時に、僕も一緒だったりして、『ボクシングって怖いな。嫌だな』と思っていたんです」

撮影:筆者
撮影:筆者

 父も愛息にボクシングを勧めたことは無かった。湯場は小学4年から5年あまり、野球に打ち込む。俊足を生かしたリードオフマンとしてセンターを守っていた。硬球を使用するクラブチームで腕を磨いた。

 そんな湯場が中学2年を終えようとする頃のことだ。2012年2月4日、父親がカルロス・リナレスとの日本ミドル級王座決定戦に出場する。一進一退の攻防が続くなか、父は3度のダウンを奪って、日本王座4階級を制した。

 「今でも覚えていますが、会場が揺れたんです。満員のお客さんたちが、物凄く熱くなっていました。その光景を目にして僕もやりたい、って思ったんです」

 父親が通っていた場所とは別のジムに入会し、イロハを習う。

 「サンドバッグ打ちと走り込みだけでした。僕は短距離の方が速かったのですが、毎日8kmくらい走っていましたね。自分がサウスポーなのは、見よう見まねで父の影響を受けてです。野球は右投げ右打ちでしたが。

 野球は自分が頑張っても、周りがサボっていたら負けてしまいますよね。でも、ボクシングはやっただけ結果として自分に返るところが、いいなと。個人競技の方が自分には向いていますよ」

 宮崎県の強豪、日章学園高等学校に進学するも、入学から2カ月後のマスボクシング中に先輩から鼻の骨を折られた。

 「強くもない新入生なのに、日本チャンピオンの息子ということで取材されるんです。嫌でしたね。そういうことが面白くない先輩もいたと思います。

 自分の力で伸びてやる! と心に決め、1年生の終わりに行われた選抜大会のライトウエルター級で全国3位になりました。インターハイは2位でしたね」

 高校卒業を待たずにプロ入りし、当初は父と共に歩んでいたが、宮崎県ではなかなか重いクラスのスパーリングパートナーが見当たらない。3年目にワタナベジムに移籍した。

撮影:筆者
撮影:筆者

 目の上をカットしたことで負傷引き分けとなった2試合を経ながらも、無敗でキャリアを重ねる。2021年7月に日本スーパーライト級のユースタイトルを懸け、佐々木尽と対戦。負け知らず同士のぶつかり合いと注目を集めた。挑戦者の湯場も、ひとつ下の階級で同タイトルを保持していた。

 初回、2回と続けてダウンを奪った湯場だったが、佐々木の左フック1発に沈む。プロ生活初黒星であった。

 「佐々木戦は負けましたが、内容的には悪くなかったと思っています。俺なら出来るという可能性が見えたというか。勝ったと思ったんですよね…」

 7カ月後の再起戦で判定勝ちした湯場は2022年8月に藤田炎村との8回戦で、またしてもKO負けを喫する。

 「1ラウンドで2度倒しながら、スイッチする藤田がサウスポーで出てきたので、テンパっちゃったんです。それで倒そう、倒そうとラッシュをしているうちにガス欠になって。4回KO負けでした。技術的には劣っていなかったので、メンタル面を反省しました。

 焦らずに8回を捌けば、勝てた試合だったと。そういう課題と向き合いながらやってきました。常に強気のアウトボクシングを心掛けています。アマチュアは技術で勝敗が決まりますが、プロは気持ちが肝心ですね。そこで絶対に負けてはならないなと」

撮影:筆者
撮影:筆者

 26日の対戦相手、石脇麻生についてはこう話した。

 「気持ちの強い、頑張る選手だなという印象です。根性比べになる気がします。勝った方が日本タイトルに近付けますし、内容が問われるでしょう。最初から仕掛けて、序盤のKO勝ちを狙います。

 自分のパンチが当たれば、倒す自信はありますし、そういうポジションをとれると確信しています」

 湯場海樹25歳。かつて父が巻いていたベルトを獲るためにも、負けられない。今週末、彼は何を見せるか。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事