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タイトルを失っても…

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Photo 山口裕朗

 第4ラウンド2分6秒、日本バンタム級1位である増田陸の右フックが、同チャンピオン富施郁哉の顎を打ち抜いた。富施はたまらずダウン。

 立ち上がり、試合続行の意思を示したが、不可能と判断したレフェリーが試合をストップした。公式KOタイムは4ラウンド2分21秒。

 2024年7月19日の後楽園ホール。富施は初防衛戦で、日本バンタム級王座を手放した。

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 両者は2023年5月にも対戦し、増田が7回KOで勝者となっている。第1戦時の富施は、初回にダウンを奪われ、ペースを掴めないままストップされた。第76代日本バンタム級王者は「プロ3戦目だった増田に関する情報量が少な過ぎ、底力が分からなかったことが敗因です」と話し、増田のパンチをもらわないことをテーマに調整を続けた。

 実際のところ、第一戦よりも富施の調子は良く、2、3ラウンドはペースを握ったかに見えた。そして、KOされる原因となった右フック一閃の直前も、果敢に攻めていた。

 増田は、そこを狙っていたのか。

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 試合から6日後、富施は話した。

  「1ラウンドに左ストレートをもらって、バランスを崩してしまいました。今回の増田選手は、初戦ほどの大きさは感じなかったんです。前回はジャブ、そして左ストレートをもらったので、警戒していました。

 距離を取って捌く。僕の当たるパンチは何でも出す。ガードを上げ、的を絞らせないように!と体を振りました。体勢も低くしていたんですよ。増田は相手にジャブを打たせ、そこに合わせてくるんです。上手かったですね。前半ポイント失うことは覚悟して、後半勝負と考えていました」

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 しかし、思いのほか富施はリングを支配できた。

 「このままだったらいける!という思いが自分の中でありました。僕がストレートを警戒していると分かっての右フックだったのかな……。僕が彼をロープ際に追い込んだ折、会場が沸いたじゃないですか。だから、僕もイケイケになってしまいました。雑になったのかなと今、振り返って思います。

 あの局面で、もっと頭を動かしながらとか、フェイントをかけて攻撃するとか、やるべきでしたね。こちらは左ストレートを狙っていたんです。そのタイミングで、見えない右フックが飛んできて、効いちゃいましたね」

 前日計量での富施は、リミットより、500グラム超過していた。急に汗が出なくなり、最後の最後で減量に苦しんだ。

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 富施が所属するワタナベジム、渡辺均会長は、前日本バンタム級王者に、以下の文章をメールした。

 お疲れ様!疲れは取れたかな。試合内容は凄く良かった、相手も焦り気味の表情だった、ペースも富施がしっかりフットワークで握っていた。但し相手はパンチが凄い、1Rと4Rの相手の右フックカウンターが全てを決した。特に4Rは相手を少しグラつかせて攻勢に行き過ぎた所にカウンターをもらった、あそこで冷静になれたら違う展開になっていた、まだまだキャリアと相手のパンチあり過ぎ、今後はSバンタムに上げる事を勧める、成長しているから、まずはゆっくり休んで再起を期待する!

 富施はバンタムに拘るか。あるいはスーパーバンタムで再起するか。26歳の彼は、干上がるには早い。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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