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ボクシングのリングに上がったUFCスターの法廷闘争

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Esther Lin/Fanmio

 7月6日の夜、カリフォルニア州アナハイムのホンダセンターで元UFCのスター、ネイト・ディアスとホルヘ・マスヴィダルが、ボクシングルールで戦った。公式戦として認められ、ディアスが98-92、97-93、95-95のスコアで判定勝ちした。

 両者はUFCの舞台で2019年11月2日に対戦し、マスヴィダルが3回でTKO勝ちを収めている。この白星でマスヴィダルは、UFCの初代BMF王者となった。5年後の再戦だった。

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 なぜ、UFCファイターがボクシングで対決するのかーーー。そんな疑問を払拭出来ぬまま彼らは戦い、予想通りの塩試合となった。

 そして、今、リング以上に熱い戦いが繰り広げられている。ディアスは、マスヴィダル戦で保証された筈の1000万ドルのうち900万ドルを受け取っていないとして、プロモーターのソロモン・エンゲルを提訴したのだ。

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 ディアスは7月15日、詐欺と契約違反でフロリダ州南部地区連邦地方裁判所に訴訟を起こした。 7月6日にマスヴィダルとのボクシングの前払い金として100万ドルを得たが、残り900万ドルは支払われていないと主張している。

 プロモーターを務めたエンゲルは、「ディアスにその金額を払ったら、まったくの赤字で計り知れない経済的損失となる。自分は破産を余儀なくされてしまう。既にディアスには7桁の金額を払った。この訴訟は軽率だ。適切なプロセスで法廷闘争を解決する。正義は勝つと確信する。楽しみだ」と述べた。

 とはいえ、未払いと指摘された900万ドルについては触れられていない。

Esther Lin/Fanmio
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 筆者が驚くのは、いかにUFCのスターだったとはいえ、ボクシングの素人に1000万ドルものファイトマネーを約束したプロモーターの胸の内だ。写真を見れば分かるように、39歳の両者は腹の肉がダブついており、アスリートとして下り坂である。話題になり、PPVが売れればビジネスとして成功と踏んだ興行であり、真のボクシングファンのニーズは度外視した“イベント”に過ぎなかった。

Esther Lin/Fanmio
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 ボクシングを取材すれば、嫌でもプロモーターに食い物にされるファイターを目にすることになる。その数は一人や二人ではない。

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 ディアスは「1000万ドル」が保証されたからこそ、自分が打ち込んできたものと違う競技に挑戦した。その金を得られないのなら、戦いの場を法廷とするのは当然だ。しかし、それだけの金額を稼げるボクサーとはとても呼べないのも、事実である。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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