Yahoo!ニュース

その水着はエコ?北欧フィンランドで買い物の基準が変化している

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
廃棄プラスチックでできた水着とは Photo:Halla Halla

気候危機や環境問題への関心が高まっている今、買い物の基準を見直す人が増えてきている。

環境負荷が特に高いとされているファッション業界は、商品をサステイナブルなものに切り替えていかないと、これからの時代の変化に取り残されていくだろう。

ファッションの中でも、特に「サステイナブルなものを探すのが難しい」と北欧諸国でよく話題になるのは水着やトレーニングウェア・アウトドアウェアだ。防水かどうかが基準になると、どうしてもプラスチック素材を使用している。

衣服のロゴを見ると、ポリエステル、ナイロン、アクリル……。洗濯をすると大量のマイクロプラスチック繊維が流れていることになる。

普段着はまだしも、水着となるとサステイナブルでプラスチックで作られていないものを探すのは難しい。その難しさとエコな買い物をしたい市民の葛藤は、もう何年もノルウェーなどではニュースになっていた。

バージンプラスチックをまずは避けようという動き

そこでまずは最初の一歩として、バージン(新品・未使用の)プラスチックを使用していない水着が増えてきている。

北欧のサステイナブルな水着ブランドとして2016年に立ち上がったフィンランドの「ハラハラ」(Halla Halla)。全商品がエコフレンドリーで、シンプルから大人っぽい、かわいいまで、多様なデザインの水着を取り扱っている。

肌の露出を避けたデザインも人気 Photo: Halla Halla
肌の露出を避けたデザインも人気 Photo: Halla Halla

海洋で使用された魚取り網、廃棄ゴミからのナイロンを再生して水着を作る。バリ島の工場で、倫理的に正しい労働環境下で水着を製造していることを強調している。

多くがリバーシブルなので裏表で複数のデザインの組み合わせを楽しめる Photo: Halla Halla
多くがリバーシブルなので裏表で複数のデザインの組み合わせを楽しめる Photo: Halla Halla
水着を作っているスタッフの存在も公式HPで伝える Photo: Halla Halla
水着を作っているスタッフの存在も公式HPで伝える Photo: Halla Halla

もともと環境意識や労働者の権利に対する意識が高い北欧でこれから支持されるのは、プチプラ価格でワンシーズンしか着れない服を売る企業ではないだろう。

現地の報道機関もこのテーマには関心が高い。

サステイナブルな素材「エコニール」とは?

ハラハラが水着に使用している素材は、ナイロン廃棄物を再利用した再生ナイロン「エコニール」(ECONYL)素材と、プラスチックボトルを再利用したREPREVE素材。

Photo: Halla Halla
Photo: Halla Halla

プラスチックごみの発生源を断つことと同時に、すでに海に無数に存在しているプラスチックごみについも考えなければいけない。ファッション業界でも、いくつかのブランドが、海洋プラスチックを繊維に変える新技術を採用し始めた。

出典:VOGUE ファッションの力で海を守ろう! 廃棄プラスチック問題に立ち向かうデザイナーたち。

「一般論として言えば、海から回収したプラスチックを利用してアパレル製品向け合成繊維を製造するほうが、一から合成繊維を製造するよりもずっと環境に良い。こうした繊維は、石油から作られているからだ」

出典:JAPAN Forbes 利用が増える「海洋ごみリサイクル繊維」、一部には批判的指摘も 2002/6/21

環境に配慮した再生ナイロン「エコニール」は、これからどんどん浸透する言葉になるだろう。

Photo: Halla Halla
Photo: Halla Halla

とはいっても、プラスチックには変わりはないので、洗濯の際にはマイクロプラスチックを流していることにはなる。もちろん、その矛盾も北欧現地の報道機関は指摘しつつ、でもファッション業界が変わろうとしているのはプラスだ。

郵便で届いた水着。包装の袋がプラスチック製ではないことが強調されている。ロゴにはエコニールのマークも。これからはエコニールのロゴがついている衣類はより支持されるようになるだろう Photo: Asaki Abumi
郵便で届いた水着。包装の袋がプラスチック製ではないことが強調されている。ロゴにはエコニールのマークも。これからはエコニールのロゴがついている衣類はより支持されるようになるだろう Photo: Asaki Abumi

ハラハラに直接聞いてみた

Photo: Halla Halla
Photo: Halla Halla

ハラハラを立ち上げたのはHanna ChalvetさんとSalla Valkonenさん。Chalvetさんにメールで取材をした。

「購入者の多くはフィンランドに住む人々です。再生ナイロンを使用し、倫理的なビジネスをしようとしていることを評価して購入する人が多いですね。水着のデザインや色の組み合わせが好きな人もいます」

北欧と言えば1年の大半が雪で覆われた寒い国々だが、それでも水着は売れる。特にフィンランドではサウナというカルチャーが浸透していることも関係している。

Photo: Halla Halla
Photo: Halla Halla
  • 質問:水着とサウナの関係性は?

「フィンランドでは水着を何着か持っている人が多くて、それにはサウナが関係しています。サウナは私たちのカルチャーの一部ですから!小さい頃から湖で泳ぎ、サウナに入ることで幸せになれます」

  • 質問:フィンランドの人のサステイナブルな意識はどのように変化してきていますか?

「多くの関連情報を得れば得るほど、市民の意識はより高くなる傾向があります。サステイナブルに関して以前よりも気にするようになったし、賢くてグリーンな選択をしようとしていますね」

「これからは『サステイナブルかどうか』が物事を選択する上での基準になるでしょう」

「リサイクルされた水着の開発は簡単なことではありませんでした。ブランドを立ち上げるまでに、大量のリサーチをする必要もありました」

Photo: Halla Halla
Photo: Halla Halla
  • 質問:プラスチックではない素材で水着を作ることは可能なのでしょうか?

「未来では数多くの他のリサイクル素材でできた水着が存在していると、私たちは信じています」

「誰もが自分の肌に合った着心地がいい水着を目指している」と取材で答えるハラハラ。露出度の高いビキニだけではなく、大きいサイズや肌を隠すことのできるデザインもどんどん発表している Photo: Halla Halla
「誰もが自分の肌に合った着心地がいい水着を目指している」と取材で答えるハラハラ。露出度の高いビキニだけではなく、大きいサイズや肌を隠すことのできるデザインもどんどん発表している Photo: Halla Halla

北欧の中でなぜかノルウェーにはサステイナブル水着が少ない?

さて、再生ナイロンを使用した水着ブランドはデンマークやスウェーデンにもいくつかある。

だが私が住んでいるノルウェーでは探しても「Envelope 1979」しか見当たらなかった。

あまりにも少ないので、ノルウェーのファッションブランド統一組織に当たるノルウェージャン・ファッションハブに問い合わせてみた。

「サステイナブルな水着を生産しているブランドがあるか把握はできていません。ノルウェーで環境に優しい水着についてということですが、水着にはどうしても布地が関わってくるので、もっとサステイナブルなテキスタイル産業に向けて、国内でも国際市場でも取り組んでいかなければいけないでしょう。消費者はこれまでよりも商品の生産過程や素材を知りたがるようになりました。水着にも同じことがいえます」。そう答えたのは代表のエーリン・サウネスさんだった。

どうやら、エコな買い物をしたい消費者の期待に応えられるまでには時間がかかりそうだ。

倫理的に正しいファッションとの付き合い方、変わる北欧の美の価値観

サステイナブルにこだわるなら、今あるものをずっと長く使い、消費行動にこれ以上走らないことも大事だ。それでも服を新たに必要とする時はある。

プラスチック素材だとしても、水着を選ぶならヴァージンプラスチックではなく、再利用されたプラスチックを選ぶ。洗濯をする時は、マイクロプラスチックの流出を抑える洗濯ネットを利用する(私はグッピーフレンド・ウォッシング・バッグを使用中)。

買い物には価値観が現れる。私は「北欧の美の価値観」をテーマに取材を続けてもいるが、ヴァージンプラスチックでできた水着はこれからどんどん支持されなくなっていくだろう。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

鐙麻樹の最近の記事