4ゴールを奪ってノルウェーに快勝!アジアのタイトルを経て磨きがかかったなでしこジャパンのスタイル
【プレースタイルを刷新中のノルウェー】
11日に鳥取で行われた、なでしこジャパンとノルウェーの国際親善試合。今年、国内では2度目のホーム開催となったこの試合で、試合前日、対戦相手であるノルウェーのマルティン・ショーグレン監督は言った。
「2011年のドイツW杯で、(優勝した)なでしこジャパンは女子サッカーを全ての点でレベルアップさせたと思います。それによって、その後のW杯とオリンピックも変わりました」
ロングボールを使い、中盤を省略した「キック&ラッシュ(蹴って走る)」スタイルが主流だった中、“パスをつなぎ倒す”なでしこジャパンのサッカーが世界を制したことは、女子サッカー界に革新をもたらした。
以降、アメリカなどの強豪国がパスを繋ぐことに力を入れ、それに伴ってテクニックに長けた選手の育成に力を入れるようになった。従来の強さや速さに加えて、巧さや戦術的な駆け引きが発展し、世界的に女子サッカーのレベルが急上昇。
それは、かつてW杯やオリンピックで王座に輝いた古豪ノルウェーも例外ではなく、ロングボールを多用した伝統の堅守速攻スタイルからの進化の過渡期にある。
そんな中、高倉麻子監督率いるなでしこジャパンはどのようなスタイルで世界に挑むのか。今年、アジアカップとアジア大会の2冠を達成した日本にとって、11日の親善試合は、7ヶ月後にフランスで開幕する女子W杯への再スタートと位置付けられる重要な一戦だった。
結果は、日本が4-1で快勝。
勝敗を分けたのは、技術の差だった。それは「止める」「蹴る」といった足下の巧さだけでなく、予測の速さと正確性、ポジショニング、体の使い方や目線の駆け引き、変化への対応力も含めた「技術」だ。ショーグレン監督は試合後、
「日本はスキルの高さと組織力の良さがあり、個のレベルと技術も高い。私たちはボールを奪おうとしたが、追いかけっぱなしで日本のパスワークに飲み込まれてしまった」
と、ため息交じりに話している。今回来日したノルウェーは、一部の主力を欠く若手中心のチームだったが、昨年の欧州王者でもある強豪オランダを下してW杯出場を決めている。その相手に、日本の武器をしっかりと示して4ゴールを奪ったことは大きな収穫だろう。
「細かいミスもあったし、失点は本当にいらなかった」と、反省の弁を口にしたのはキャプテンのDF熊谷紗希だ。
唯一の失点は、交代直後のセットプレーで起きた一瞬の空白を突かれた形だった。W杯でさらに強い国を相手にすることを考えれば、精度と強度の面で改善の余地はまだまだある。
だが、この日、会場を何度も沸かせたサッカーは紛れもなく、立ち上げから約2年半の間、チャレンジアンドエラーを繰り返しながら築き上げてきた、このチームの揺るぎないスタイルだった。
【決定力を示したFW陣と、攻撃を支えた守備陣】
立ち上がりはミスが目立ち、仕掛けてはカウンターを食らう悪循環に陥りそうな時間帯が続いた。その流れを打破するきっかけとなったのが、FW横山久美の先制ゴールだ。FW岩渕真奈のドリブルの仕掛けによって得たフリーキック。壁とGKの立ち位置を見極めながら、ゴール右隅に狙いすました一発を決めた。
さらに、その11分後には、MF長谷川唯のスルーパスを受けた岩渕が鋭いターンから左足を一閃。際どいコースをついてネットを揺らした。
後半は、ノルウェーがラインを上げざるを得なくなった中で効果的に裏を狙う。55分には、この試合で代表初キャップを刻んだMF長野風花のスルーパスにMF中島依美が抜け出し、最後は再び岩渕。63分には、同じく途中出場のFW籾木結花が左足でゴール左隅に突き刺し4-0。籾木はピッチに立ってわずか7分で結果を出した。
多彩なコンビネーションから創り出したチャンスを、高精度のフィニッシュに収斂させていくーー理想的な流れで勝利を引き寄せた背景には、W杯に向けた競争や、国際舞台での悔しい経験を経て個々が引き出しを増やしてきたこと、また、その個を生かす、組織としての柔軟性が高まってきたことが挙げられる。
バラバラだった個性がハーモニーを奏でるようになり、攻撃のバリエーションが増えてきた。
また、高倉監督はこの試合で6人の交代枠を使いきったが、そのうち5人が攻撃的なポジションだった。先発と控えの力は拮抗しており、控えの選手たちは「自分を使って欲しい」と言わんばかりに、ギラついた雰囲気を漂わせた。
「新しい(途中出場の)選手が入って流れが良くなりました。チームとしての選択肢が増えているので、この先もメンバーを固定しないで、調子のいい選手を使ってチーム力を上げていきたいと思っています」(高倉監督)
指揮官は、そんな風に手応えを口にした。
攻撃が良くなった根底には守備の安定がある。この試合で代表100試合目に到達した熊谷と、同じく102試合目のDF鮫島彩が統率力を示し、DF市瀬菜々、DF清水梨紗の若い2人を加えた4バックで強固な最終ラインを形成。攻撃ではGK山下杏也加を加えた5人で相手のプレッシャーをいなし、攻撃陣がミスを恐れず勝負できる空気を作り出していた。
中でも、ピッチ後方で存在感を放ったのが山下だ。
持ち前の反射神経としなやかなバネを生かしたシュートストップは、練習から際立っていた。至近距離の強烈なシュートでも弾かず、手のひらに吸い付くようなキャッチでピンチを長引かせない。守備の砦であるGKというポジションであっても、山下は常に攻撃から逆算して準備している。
「(自分が)弾いてセカンドボールを拾われるよりは、技術を上げてキャッチした方が攻撃につなげやすいので、その意味でもシュートストップの質を課題にしています」(山下)
同様に、足下でつなぐ力も光った。ボールに関わった全ての場面を総合すれば、おそらく手より足でボールを扱っていた時間の方が長いだろう。元FWの経歴を持つ山下からは「11人目のフィールドプレーヤー」の強い自負が伝わってくる。それは、所属チームの日テレ・ベレーザ(ベレーザ)の高いポゼッションスキルを支える5対2や4対2の通称“鳥かご”練習で日々鍛えられている成果でもあるだろう。
「日本は前線に高さがなく、(ロングボールを)蹴っても跳ね返されるのは見えていたので、それならつないで自分たちのボールを長くしよう、と。監督からもボールを速く動かすようにという指示があったし、自分が相手の選手に対応しながら(引きつけて)パスをつないだら、他の選手がフリーになると考えていました」(山下)
GK池田咲紀子とGK平尾知佳も含め、GKには三者三様の強みがあるが、足下の技術は高倉ジャパンのGKに求められる絶対的な資質だ。そして、現在、正守護神の座を得ている山下が23歳という若さを考えれば、代表のゴールはしばらく安泰だと思える。
また、中盤の底で攻守を司る重要な役割を担ったのがMF三浦成美だ。
代表5試合目とは思えないほど落ち着いていたのは、今シーズン、所属のベレーザでアンカーのポジションで試合に出続け、リーグ優勝を支えたことも自信になっているからだろう。この試合では少ないタッチ数で相手のプレッシャーをかわしながらボールをさばき、危険なスペースを埋め、流動的なポジションを取る攻撃陣をサポート。また、その中で自らシュートまで持ち込む形も作っている。
「ベレーザで前に上がる機会は少ないのですが、(代表は)4-4-2だからこそ前に行けることを知れました。バランスをとりながら攻撃にも参加できるようになれば、もっと怖い選手になれると思います」(三浦)
周りの選手が入れ替わっていく中、三浦は中盤から前のポジションで、最初と最後の笛をピッチ上で聞いた唯一の選手だった。今年2月のなでしこチャレンジ合宿でチャンスを掴み、1年足らずで代表の先発に名を連ねるまでに飛躍を遂げた21歳は、チームの競争力を象徴する存在だ。
競争といえば、この試合で初めて代表キャップを刻んだ長野とMF宮澤ひなたの2人も、たしかな存在感を残した。後半からピッチに立った長野は糸を引くような美しいスルーパスで3点目の起点になり、宮澤は得点にこそ繋がらなかったが、終盤の15分間という限られた時間の中で複数のチャンスに絡み、得意のカットインからシュートまで持ち込む形も作った。
初招集だったDF南萌華とMF遠藤純を含め、4人とも練習中から遜色ない技術をしっかりとアピールしていた。一方、生活面では学ぶことも多かったようだ。
「海外で生活している選手や、長くサッカー人生を過ごしてきた先輩がいて、一人ひとりのケアの時間が長いなと感じますし、自分のコンディションや体のことをよく知っている感じがしました。そういう、サッカー選手としての過ごし方を学べました」(宮澤)
今回の親善試合には総勢28名もの選手が選ばれていたが、不思議と、まとまりがあった。同じ目的を共有する同士の一体感はもちろんあるだろうが、それだけではない。
高倉ジャパンにははっきりとした特徴のある選手が多く、「これだけは誰にも負けない」と、それぞれが言外に自信を滲ませる。そして、その異なる強みを生かし合うことを楽しんでいる感じがある。
だからこそ、ピッチに立てなかった選手の悔しさは想像できる。
翌日にはガイナーレ鳥取U-18とのトレーニングマッチが行われ、ノルウェー戦の控え組がメインで起用された。新戦力の活躍も光ったその試合の様子は後日、別の記事にしたいと思う。