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スバル新型インプレッサは、なぜライバルに抜きん出る1台となりえたのか?

河口まなぶ自動車ジャーナリスト

本日発表され、10月25日に発売となるスバル新型インプレッサは、先行予約期間で約6000台の予約を受けている。これは既に多数の専門メディアおよび一般メディアにおいて高い評価を得たことが理由のひとつといえる。

スバルは今回の発表に先立ち、7月にその姿や中身を一足先お披露目する事前説明会を行なった他、9月には伊豆サイクルスポーツセンターにてプロトタイプ試乗会を行なったことで、評価が事前に多くの情報として拡散されるなど、スバル側での話題作りを欠かさずに行なったことが効果しているからだ。

だが、それ以上に強い力となっているのが、実際のプロダクトの仕上がりが素晴らしい上に、自動車としての本質的な部分がライバルと比べても群を抜く内容を実現しているからでもある。

ではなぜ今回、新型インプレッサはそこまで優れたプロダクトとなり、ライバルに抜きん出る存在となったのか?  それはスバルのラインナップの少なさから来る設計や開発への並々ならぬ注力と、現在実現可能な技術群の搭載タイミングが絶妙に融合したからだといえる。

スバルはご存知のように、自社で開発しているモデルが今回のインプレッサをはじめ、レヴォーグ、フォレスター、レガシィアウトバック、エクシーガ、XV、BRZと他車に比べると車種数は少ない。また軽自動車の開発や生産からは撤退しており、OEM車を販売する。また各車のベースプラットフォームも、BRZ以外は基本的に共通のものを、その時々で進化させたり派生させたりする作りであり、これは独自の水平対向エンジンに関してもほぼ同じことがいえる。つまり少ないリソースをうまく活用してバリエーションを増やす戦略でこれまでやってきた。

そうした背景があることに加えて、今回の新型インプレッサでは、ベースプラットフォームを全く新たなものである「スバル・グローバル・プラットフォーム」として今後のスバル車で使っていくことを念頭に開発した。実際に発表会の冒頭で、吉永社長自ら「今回の新型インプレッサは単なるモデルチェンジではなく、スバルのモデルチェンジの第一弾」と表現したほど。そしてこのプラットフォームで今後、フォレスターやレガシィアウトバックやレヴォーグなどを、その登場時期に相応しい技術を入れつつモディファイして使っていく。だからこそ、今回は5年以上先を見据えた走行性能や衝突時の安全性能を盛り込んだほか、当然今後訪れる電動化にも対応できる可能性をも盛り込んで開発している。そう考えると、このクラスとしてはオーバークオリティともいえる内容を手に入れている。

またインテリアなども質感が非常に高いわけだが、これも先を見越して部品の共通化を行なったからこそ。例えばパワーウィンドーのスイッチやエアコンのつまみなども、これまでのようにモデル毎にデザインして作るのでなく、デザインアイデンティティを統一して、なおかつどのモデルでも使うことを決め大量に生産するスケールメリットを活かしているため、高いクオリティを実現できる。こうすることでスバルのラインナップではもっとも小さなモデルとなるインプレッサでも、高いクオリティのインテリアを実現できた。またデザインに関しても、以前から少しづつ取り組んできた「ダイナミック×ソリッド」というテーマを、完全に昇華した形で表現できたことで、これまでよりも垢抜けた感が生まれたといえる。

全てを刷新するタイミングに合わせてメカニズムも徹底して手が加えられ、新開発された2.0/1.6L水平対向エンジンやトランスミッション、サスペンションなどのメカニズムにも隅々まで先を見越して作り上げられてきた。そのため、走りも当然クラストップといえるだけのものを実現できている。

さらに、国産車の中では一足先に採用を決めてほぼ全てのモデルで展開している先進運転支援システムであるアイサイトを、一層進化させて派生機能を与えた上で標準装備化に踏み切ったことも大きい。このクラスでこうしたドライバーアシスタンスを含む安全技術を標準化したことは、ライバルに対して大きなアドバンテージとなっていることも間違いないだろう。さらには国産車初となる歩行者保護エアバッグと、7つのエアバックを全車に標準装備する。こうして世界トップレベルの総合安全性能を実現した。

つまり新型インプレッサは、次世代の全スバル車の始まりに位置するモデルであるがゆえに、リッチな技術要素が全て盛り込まれたからこそ、ライバルの群れから抜け出る一台となれた。

しかし大切なことは、そうした技術要素がタイミング良く揃っただけでなく、それらを企画・設計・開発している人々が、情熱をもって精魂を込めて、クルマを作り上げていることだろう。

先にスバルは車種ラインナップが少ないと書いたが、それがゆえに作り手たちは常に真剣だ。その車種が会社の命運を左右する率も、ラインナップが豊富な会社とは比べようもなく高い。だからこそ常に真剣勝負が展開されるし、より良いものを作ろうとする意識も気概も高い。加えてスバルはもともと、水平対向エンジンという、他にはほぼ競争相手がいないメカニズムをアイデンティティとしてきたため、作り手たちは昔からメジャーなエンジンに性能で置いていかれぬよう、常にプレッシャーを感じながらもより良い性能が発揮できるように取り組んできた背景もある。そしてこれは、やはり独自といえるAWDを基本としていることに関しても同様である。

だからある意味、他とは違うメカニズムを採用するがゆえのデメリット(燃費やコスト)と戦いつつ、それらを自分たちだけが持つ独自性としてアピールできるだけのものにしようと努力し続けてきた。そうした血と汗と涙の結晶ともいえるのが、彼らのプロダクトであり、新型インプレッサである。

さらに言うならば、「安心と愉しさ」とスバルが自ら発信するように、安心できるクルマを、安全なクルマを、走りの気持ち良いクルマを提供しようという強い想いを、他と比べた時にはラインナップ数が少ないからこそ強く、集中して込めて作り上げているともいえる。そうして性能ではライバルに差をつける内容を手に入れつつ、もともとのすばるらしさである真摯な想いが詰まったクルマとなり、強いプロダクトとなったのだ。

スバルは今回、新型インプレッサに「愛でつくるクルマが、ある。」

というコピーを与えているが、それはつまり、ここに記したような細々なことごとを表現する言葉なのだろうと、筆者は感じている。

そんなスバル新型インプレッサは、もっとも安価な1.6LのFFモデル(1.6Lは年末発売予定)192万2400円から、2.0LのAWDの上級モデル259万2000円となっている。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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