ティーネイジャーの女性にも産婦人科の知識や受診が大切な21の理由(前編)
産婦人科は「妊娠した人」だけが行く場所ではありません
産婦人科というと、なんとなく恥ずかしい、診察されるのに抵抗を感じる、妊娠もしていないのに受診する必要はない、というイメージを持っている女性も少なくないかもしれません。
特に10代(ティーネイジャー)の女性にとっては、さらに心理的抵抗が大きい存在ものと思います。
ところが、実は10代の女性にとっても産婦人科の受診や相談はとてもメリットが大きいのです。
米国産婦人科学会の推奨をベースとして、その理由を21個に分けて説明します。(文献1)
今回は前編として、前半の12個を解説します。
健康維持や向上のため(No.1〜4)
まずは、健康的なライフスタイルや日々の生活をより良いものにするための4つです。
No.1 健康的なライフスタイルや、自分自身を肯定的にとらえる方法について学ぶ
No.2 骨を健康な状態にするための良い習慣を知る
No.3 尿路感染症の症状や治療について知る
No.4 腟のかゆみやおりものの異常に対する治療を受ける
No.1 健康的なライフスタイルや、自分自身を肯定的にとらえる方法について学ぶ
10代のうちに健康的なライフスタイルについて知ることは、食生活や運動、体重などが体調や月経や将来の妊娠に及ぼす影響について学ぶことに繋がります。
例えば、過度な減量(ダイエット)では無月経を引き起こし、ホルモンバランスを大きく崩してしまう可能性がありますし、肥満が継続すると妊娠しにくいなどの影響にも繋がります。
また、自分自身を肯定的にとらえる考え方や工夫を早めに知っておくことも重要です。自己肯定感や自尊心は人生をポジティブに過ごすだけでなく、自分自身の身を守るためにも役立ちます。もちろん、他の人もそれぞれ自分自身を大切にしていることを知れば、他人を傷つけるような言動を取るべきではないことも理解できるでしょう。
No.2 骨を健康な状態にするための良い習慣を知る
若いうちに骨?と思うかもしれませんが、女性にとって骨の健康は若いうちからとても重要なのです。
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは思春期に分泌が増加してきて、初潮(初めての月経)を起こす以外にも、骨の代謝に作用することで女性の健康維持に役立っています。
特に思春期には骨密度が急速に上昇し、骨が成熟します。10代から20歳前後までにかけて十分な骨密度を得ることは、将来の骨の健康のためにも重要なのです。
ところが、激しいスポーツやダイエット(減量)の影響により無月経の状態が長期間続いてしまうと、低エストロゲン状態のために十分な骨密度が得られず、骨が脆くなってしまうリスクがあります。加えて、将来の骨粗鬆症の発生リスクを高めてしまう恐れがあるのです。
スポーツやダイエットに注力したい気持ちは尊重されるべきですが、一生ものの健康を若いうちに損なうことはできるだけ避けましょう。
No.3 尿路感染症の症状や治療について知る
女性は身体の構造上、膀胱炎などの尿路感染症にかかりやすいです。
また、月経が開始すると経血によって外陰部周辺の清潔を保ちにくい、性行為によって細菌が尿道に侵入しやすいなどの状況も重なると、より発症リスクが高まります。
よくある症状(頻尿や排尿時痛、残尿感など)を知っておくことで早めの受診ができますし、予防法や治療法も早めに知っておくと尿路感染症に悩まされることを減らせます。性行為の前後に清潔を保つこと(手や身体を洗う、コンドームをつける、行為後に早めにシャワーを浴びるなど)も予防のために大切です。
No.4 腟のかゆみやおりものの異常に対する治療を受ける
思春期には月経が開始し、一部の女性では性行為を経験するようになります。そうすると、外陰部や腟のかゆみを感じることも出てきますし、おりものの量やにおいが気になることも増えてくるでしょう。
かゆみは時として大きなストレスになりますし、外陰部や腟に細菌などの感染を起こしていることもあります。その場合には、適切な治療を受けないとなかなか自然には治りません。
また、月経周期によっておりものの量や性状に変化が起こる可能性を知っておくことも慌てないために重要ですし、異常なサイン(黄色や黄緑がかる、においがキツくなる、少量の血が混じるなど)を知っておかなければ何らかの疾患を見逃してしまうことに繋がります。
こういった疾患や症状は10代から悩まされる可能性があるため、全てのティーネイジャーの女性が早めに知っておく必要があります。
「そういった話はまだ早い」という考え方は、彼女たち自身の健康を危険に晒してしまう恐れがあります。
月経について学ぶため(No.5〜9)
次に、思春期に訪れる月経(生理)について学ぶためというのも重要なポイントです。
No.5 自分の月経が正常かどうかを知る
No.6 生理痛がある場合、痛みを軽減させる
No.7 月経が重い原因を調べる
No.8 月経周期や不正性器出血が起こる原因について考える
No.9 月経前症候群への対処法を学ぶ
No.5 自分の月経が正常かどうかを知る
月経についてしっかりと教わる機会はなかなかないかもしれません。
学校で保健や性教育を学ぶ時間がきちんと設けられていればいいのですが、自分の親からの情報だけになってしまうことも多く、それはあくまでも個人的な経験則でしかないため、どうしても客観的かつ医学的に正しい情報を得られる機会は限られます。
月経周期は25〜38日の間が正常範囲です(ただし、10代は卵巣機能が未熟であるため月経周期が乱れやすく、初経から約3年間での月経周期の正常範囲はおおよそ22〜45日とされています)。
また、月経の持続日数は3〜7日(平均4〜5日)が正常範囲です。
月経量については、夜用ナプキンを1〜2時間に1回以上取り替えていたり、レバーのような塊が出る場合は、多すぎる可能性があります。貧血や転倒にも繋がるので、早めの受診が必要です。
こうした月経の正常、異常を知っておくことで、適切な対処をとりやすくなるでしょう。
No.6 生理痛がある場合、痛みを軽減させる
No.7 月経が重い原因を調べる
月経期間中に何らかの辛い症状(月経随伴症状)を抱える女性は7〜8割に及ぶと考えられており、その中で最も代表的な症状は月経痛です。
月経痛が強く、自分自身が辛いと感じ、日常生活や学業、仕事に支障をきたしている状態は「月経困難症」と呼ばれ、これ自体が明らかな「疾患(病気)」と言えます。
中には、子宮内膜症や子宮腺筋症といった他の疾患も隠れている場合があります。
この痛みを我慢してもいいことは何もありませんので、辛いのであれば適切な対処が必要です。鎮痛剤の正しい服用方法を知ることが大事です。また、10代であっても低用量ピルが使用できます。隠れた疾患がないかをチェックすることも重要です。
「痛み止めをずっと飲んでると身体が慣れて効き目が弱まる」「みんな痛いんだから我慢して当然」などという考えや意見は医学的にも全く妥当ではないので、こうした誤解を与えないためにも、産婦人科での早めの相談をお勧めします。
No.8 月経周期や不正性器出血が起こる原因について考える
正常な月経周期について先述しましたが、これを知った上で自分自身の月経周期をきちんと把握しておくことは、「月経じゃない異常な出血(=不正性器出血)」に気づくきっかけとなります。
不正性器出血は、女性ホルモンの分泌異常や子宮にできるポリープ、性感染症などのサインであることがあり、将来的には子宮頸がんや子宮体がんの徴候でもあります。
不正性器出血があったにもかかわらず受診をしなかったために、婦人科疾患の発見が遅れてしまうことを避けるためにも、10代のうちからこうした知識を持っておくことが重要です。
No.9 月経前症候群への対処法を学ぶ
月経期間以外に毎月体調が悪くなる場合もあることを知っておきましょう。
それを引き起こす代表的なものとして「月経前症候群(PMS)」という疾患があります。症状の強いPMSを抱える女性の割合は5〜6%程度と言われています。
対処法はさまざまですが、セルフケア(自身の月経周期と症状の関連を把握する、症状のある期間の生活や仕事・部活の工夫、カフェインを摂りすぎないなど)と薬剤(低用量ピルや漢方、抗うつ薬など)が中心になります。
詳しくは産婦人科で相談してみましょう。
性感染症を知っておくため(No.10〜12)
性感染症の知識を持っておくことは、自分自身のためにもパートナーのためにも大切です。
No.10 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含む性感染症の予防方法を知る
No.11 性活動があるなら性感染症の検査を受ける
No.12 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを接種する
No.10 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含む性感染症の予防方法を知る
性感染症は、性行為を通じて感染が広まってしまう感染症のことです。
つまり、予防策をきちんと知らなければ、ティーネイジャーが性行為を経験し、知らぬ間に性感染症に罹患してしまう可能性は低くないでしょう。
性感染症には、症状の軽いものから重篤な結果に繋がりうるものまでさまざまです。クラミジアは最も感染者の多い性感染症の一つですが、将来の不妊症リスクに繋がります。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はエイズの原因ウイルスであり、その知識は必要不可欠でしょう。
最も重要な感染予防策であるコンドームをしっかり使うことが大切です。ただし、避妊率は決して高いわけではないことには注意が必要です。
No.11 性活動があるなら性感染症の検査を受ける
もし性活動があるのであれば、性感染症の検査を定期的に受けておくことが理想的です。
例えば、新しいパートナーができた際には、お互いに産婦人科で性感染症のチェックを受けておけば安心です。また、おりものの変化や下腹部痛などの症状が出現した際にはお互いに相談できる関係性が良いですね。
No.12 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを接種する
ヒトパピローマウイルス(HPV)というものを聞いたことがありますか?
これは、性行為でうつるウイルスの一つなのですが、「子宮頸がん」の原因になるという大きな特徴を持っています。
一度以上の性行為を経験したことのある女性では、一生のうちに8割以上の人が感染していると言われているくらい日常生活にありふれたウイルスなので、決して人ごとではありません。
通常、子宮の入り口部分(頸部)に感染すると、少しずつ細胞に変化を起こし、数年から十数年かけて子宮頸がんが発症してしまうことがあります。
20歳以降で受ける定期検診(子宮頸がん検診)も大事なのですが、HPVの感染自体を予防するHPVワクチンの接種が国から勧められており、高校一年生までは無料で接種することができます。
詳しくは日本産科婦人科学会やみんなで知ろうHPVプロジェクト(みんパピ!)のウェブサイトをご覧くださいね。
以上、21個の理由のうち前半の12個を解説しました。
日本では気軽に産婦人科を受診する習慣がまだまだありませんが、医療機関や医師によっては10代の女性の健康にとても関心を持っていますので、皆さんの心強い味方になってくれるでしょう。
ぜひ、10代のうちからかかりつけの産婦人科を見つけ、性や健康についての相談役にしてくださいね。
*後編はこちらです。
ティーネイジャーの女性にも産婦人科の知識や受診が大切な21の理由(後編)
参考文献
1. ACOG. 21 Reasons to See a Gynecologist Before You Turn 21.