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「貨客混載」は過疎地域の輸送システムを救えるのか

斉藤徹超高齢未来観測所
(写真:アフロ)

この9月1日より、「貨客混載」が可能となります。貨客混載とは、従来「人」輸送と「荷物」輸送を同時に行うことは法律によって禁じられていましたが、乗り合いバスについては全国ベースで、貸し切りバス、タクシー、トラックについては過疎地域では、旅客運送と貨物運送の「かけもち」を可能としようとするものです。これにより、主に過疎地域において事業困難となっていた貨物運輸、人輸送事業を共に経営的に底上げしようというものです。

 とりわけ過疎地域においては、鉄道輸送をはじめとするマス・トランスファーの多くが廃線となり、便数の少なくなった乗り合いバスに頼るしかない状況になっていますが、これすらも乗客減少により廃止の危機にさらされている路線が数多く存在しています。日本バス協会の統計数値によると、日本の乗り合いバス事業者中約7割が赤字という状況です。とりわけその傾向は大都市部よりも地方に顕著で9割が赤字です。

 このような状況の改善を目指すのが「貨客混載」というわけです。安倍政権下における規制緩和のひとつですが、これは果たして過疎地域の課題解決の一助になるのでしょうか?

 来たるべき規制緩和に備えて、各自治体ではこの「貨客混載」の可能性がさまざまな見地から検討されているようです。これらの動きをいくつかの新聞記事を追ってみました。

 規制緩和により、タクシー会社やバス路線会社に新しい可能性が見えてきたとする論調も多いものの、手放しで可能性を語っているものはさほど見当たりません。元々、人的輸送、荷物輸送ともに経営的に困難となっているのが過疎地域なのですから、両者が連携したからといって直ぐに損益分岐点を超えるというものではないでしょう。

むしろ目立ったのは、貨客混載の規制緩和を「訪日外国人向けのサービス強化」や「地域産品の輸送強化」に活用しようとするいくつかの動きです。

 例えば、長野県高山市と松本市では相互の観光地間を移動する外国人旅行者を対象に佐川急便の荷物輸送を活用し旅行者の荷物を輸送するシステムの実証実験を28日から始めています。(「信濃毎日新聞朝刊」8.15)

 東京都は、公園協会が旅客運行する「水上バス」を使い、旅客と荷物を運ぶ貨客混載の実証実験を8月10日に実施しました。参加したヤマト運輸は訪日観光客の「手ぶら観光サービス」を視野に参加したということです。(「日刊工業新聞」8.11)

 西日本最大級の道の駅「丹後王国『食のみやこ』」を経営する丹後王国は、京都丹後鉄道と連携して、従来、直接道の駅へ農産品を持ち込んでいた農家の人々が、丹鉄の客車に農産物を積み込んで運ぶ「貨客混載事業」を今年6月からスタートしています。(「産経新聞」8.30)

 当初の国土交通省の目論見である「人口減少に伴う輸送需要の減少が深刻な課題となっている過疎地域等において人流・物流サービスの持続可能性を確保するため」とは異なる方向へ注目が集まっているとすれば、規制緩和の狙いが大きく外れてしまう可能性もあるのではないでしょうか。この「貨客混載」という規制緩和がどのような方向に進んでいくか、しばらくはじっくりと見守っていく必要がありそうです。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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