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神田小川町「豊はる」は肉系メニューが目白押し。5月登場の「牛ヒレスジ」はどんな味?

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
今年5月に登場した「豊はる」の「牛ヒレスジ」(筆者撮影)

 東京都千代田区神田小川町にある立ち食いそば屋「豊はる」が、いま東京の「肉系」メニューの概念を大きく変貌させている。ちょっと大げさな表現だが、最近は真剣にそう考えている。

 一般に立ち食いそば屋の定番といえば「かき揚げ」を代表とする天ぷらをのせたメニューである。しかし、こちらでは客の6割以上が「肉系」メニューを注文する。そのラインナップは多彩であり、しかも増え続けている。

2023年1月開業の「豊はる」(筆者撮影)
2023年1月開業の「豊はる」(筆者撮影)

「天ぷら」のメニューに加え、「肉系」のメニューが増加の一途(筆者撮影)
「天ぷら」のメニューに加え、「肉系」のメニューが増加の一途(筆者撮影)

「豊はる」は2023年1月に神田小川町に誕生

 「豊はる」の店主は西村歩さん(51歳)。以前はラーメン屋で10年働き、もつ焼き屋も掛け持ちで働き、その後春日・飯田橋・江戸川橋にある「豊(と)しま」で4年間修行し、2023年1月に独立し現在に至っている。

店主の西村歩さん(51歳)はナイスガイ(筆者撮影)
店主の西村歩さん(51歳)はナイスガイ(筆者撮影)

 「豊はる」では創業当初は修行元の「豊しま」のメニューである豚ばら肉を使った「肉」、「厚肉」を発売していた。ここまでなら普通のシナリオである。ところが2023年の夏頃から、今まで都内であまりみかけなかった「肉系」の新メニューを次々と発売し始めたのである。ここから西村店主の「肉系」オリジナルメニュー開発の旅が始まったわけである。またそばうどんだけでなく、きしめんも選べるようになった。「肉系」にはきしめん・うどんがよく合うのだ。

厚肉を煮込んだ鍋の様子(筆者撮影)
厚肉を煮込んだ鍋の様子(筆者撮影)

昨年7月「元祖パイカ」登場から「肉系」メニューの旅が始まった

 1年前、西村さんは「豚ばら肉だけでなく、色々な部位の豚肉をそばうどんに使ってみたい」と話していた。そして、去年の7月、まず「元祖パイカ」を発売した。パイカは豚ばら軟骨のこと。これを圧力鍋で炊いて、さらにそばつゆや生姜などでじっくり炊いて完成させる。そばにつゆをかけ、さらに揚げ玉をのせ、その上にたっぷりのパイカ、紅生姜をのせて完成である。そばつゆに「パイカ」を炊いた汁を加えているので、ほんのりと生姜の香りとうまい肉汁の味が広がる。とろけるようなパイカと紅生姜とつゆと麺。完成された味だ。

 補足だがJR小淵沢駅や甲府駅などにある老舗駅そば屋「丸政そば」には人気メニュー「コラチャー」がある。これはコラーゲンチャーシューのことで実は豚ばら軟骨である。しかし都内では販売しているところはなかったと思う。

よく煮込まれた「パイカ」はとろけるようなやわらかさ(筆者撮影)
よく煮込まれた「パイカ」はとろけるようなやわらかさ(筆者撮影)

「パイカ」の煮汁もそばつゆに入っているので堪らないうまさ(筆者撮影)
「パイカ」の煮汁もそばつゆに入っているので堪らないうまさ(筆者撮影)

11月には大量の肉がのった「牛ばら」が登場

 さらに昨年11月、豚肉だけでなく今度は牛肉を使ったメニューを発売した。牛ばら肉を使った「牛ばら」である。「パイカ」同様にじっくりと煮込んでそれを麺の上にのせて登場する。相当上質の牛ばら肉を使っていて、そばつゆとの相性が抜群だ。

 牛肉の「肉そば」といえば関西の定番だが、こちらでは関東風のつゆを使っているので、味の構成が少し違う。しかし、知り合いの関西人が食べても実にうまいと驚いていた。つゆをひとくち飲むと、上質な牛肉のうまみが一気に広がる。堪らないうまさである。現在、一番人気の「元祖パイカ」に肉薄するぐらい人気が上昇しているという。

牛ばら肉のきれいな脂が一層うまさを引き立てている(筆者撮影)
牛ばら肉のきれいな脂が一層うまさを引き立てている(筆者撮影)

「牛ばらきしめん」は牛肉の汁とよく合う(筆者撮影)
「牛ばらきしめん」は牛肉の汁とよく合う(筆者撮影)

続いて牛ホルモンを使った「てっちゃん」が登場

 「牛ばら」だけでもずいぶんチャレンジしている雰囲気だったのだが、その1ヵ月後、また別の「肉系」メニューを開発したとの知らせが届いた。牛ホルモンを使った「てっちゃん」だというのだ。牛スジと牛ホルモンでも人気の部位をたっぷりと煮込んで、牛ばら肉よりもはるかにとろけるような脂のうまみが広がる味である。これはみたこともないまさにオリジナルの味である。

きれいな脂が堪らない「てっちゃん」を煮込んだ様子(筆者撮影)
きれいな脂が堪らない「てっちゃん」を煮込んだ様子(筆者撮影)

「てっちゃん」とそばつゆと麺がこんなにも合うとは驚きだ(筆者撮影)
「てっちゃん」とそばつゆと麺がこんなにも合うとは驚きだ(筆者撮影)

今年2月には厚切り牛たんがのった「茹で牛たん」が登場

 さらに今年の2月、牛たんの厚切りを煮込んだ「茹で牛たん」を発売した。こちらもじっくりと炊いた厚切りの牛たんが三枚のる。四ツ谷にある牛たんの名店「忍」の茹でたんを彷彿とさせるビジュアルで、黒胡椒などをかけて食べることができる。厚切りの牛たんはしっとりと柔らかくこちらもそばつゆに抜群にあっている。仕込みの関係で十数食しか作れないというから、あればラッキーなメニューである。しかし、そばうどんに牛たんをのせるという発想が素晴らしいと思う。

今年の2月に登場した「茹で牛たん」はセンセーショナルだ(筆者撮影)
今年の2月に登場した「茹で牛たん」はセンセーショナルだ(筆者撮影)

厚切りの牛たんはそばつゆと相性抜群だ(筆者撮影)
厚切りの牛たんはそばつゆと相性抜群だ(筆者撮影)

今年3月には「チャーシュー」が登場

 さらに今年の3月には、「チャーシュー」を発売した。こちらも黒胡椒をかけて食べると抜群の味だ。チャーシューが少しでなく、大量にのるところがポイントだ。「肉系」のラインナップがこれだけ増えてくると、注文する側としては目移りしてなかなか決められないのが難点だ。券売機の前で長考する人が多数いるのも頷ける。

チャーシューが何枚ものったビジュアルに興奮する「チャーシューきしめん」(筆者撮影)
チャーシューが何枚ものったビジュアルに興奮する「チャーシューきしめん」(筆者撮影)

今年の5月に「牛ヒレスジ」を発売開始

 さらに今年の5月に「牛ヒレスジ」を発売開始したという。これは関西の「ぼっかけ」に近い具材の構成だという。牛ヒレ肉のスジを圧力鍋で炊いて、さらにそばつゆと「こんにゃく」「ごぼう」などとじっくり炊いて完成させる。関東風のつゆにのる「ぼっかけ」というわけである。さっそくゴールデンウィークの合間に食べに行ってみた。いつ来ても綺麗な店である。「牛ヒレスジきしめん」と「生玉子」を追加して注文した。その登場した姿にテンションが上がる。どんぶり一面に具材がのる。まずつゆをひとくち。これは肉汁が沁みわたるうまさだ。そして「ごぼう」の味が広がり、「こんにゃく」も味が沁み沁みだ。すべてが良い仕事をしている。完成された味だ。「牛ヒレスジ」を煮込んだ鍋もみせてもらった。これでビールを一杯やりたい。居酒屋メニューだ。

5月のおすすめ「牛ヒレスジ」が登場(筆者撮影)
5月のおすすめ「牛ヒレスジ」が登場(筆者撮影)

一面に具材がびっしりとのった「牛ヒレスジきしめん」に「生玉子」トッピング(筆者撮影)
一面に具材がびっしりとのった「牛ヒレスジきしめん」に「生玉子」トッピング(筆者撮影)

この肉汁が沁みわたるつゆがたまらない(筆者撮影)
この肉汁が沁みわたるつゆがたまらない(筆者撮影)

「牛ヒレスジ」の鍋をみせてもらった。気分は居酒屋である(筆者撮影)
「牛ヒレスジ」の鍋をみせてもらった。気分は居酒屋である(筆者撮影)

またいいメニューのアイデアを思い付いたという

 「牛ヒレスジ」はこれ単品で店をやれるレベルの完成度だと思う。現在の大人気の「元祖パイカ」に迫るかもしれない。

 豚ばら肉の「肉」「厚肉」、そして豚ばら軟骨の「元祖パイカ」を誕生させ、次に牛肉に行き「牛ばら」、「てっちゃん」、そして「茹で牛たん」、「チャーシュー」、そして「牛ヒレスジ」と立て続けに発売した。本当は「今月のメニュー」で終わるはずだったものが人気でグランドメニューとなったというわけである。

 そしてさらに、西村店主は「すごいいいアイデアを思い付いたよ」と満面の笑みで話してくれた。それはまだ秘密だそうだ。「肉と会話する店主」といわれる日も近いのかもしれない。

「肉系」のメニューのおいしい食べ方ご紹介

 さて最後に、西村店主に聞いたおいしい「肉系」メニューの食べ方を紹介しよう。

・「肉系」メニューは、きしめんやうどんもすごく合う。

・生玉子や煮玉子は特にマッチする。

・おにぎりなどのサイドメニューとの相性もよい。

・ツワモノは「パイカダブル」とか「パイカと牛ばら」などのダブル系を食べている。

・「チャーシュー」の黒胡椒などの薬味を上手く使ってアレンジをして欲しい。

 これからの季節、肉系の冷し(麺とつゆが冷し)もうまいという。「豊はる」は今後どんな「肉系」メニューを誕生させるのか目が離せないわけである。

「豊はる」はきれいな店内だ(筆者撮影)
「豊はる」はきれいな店内だ(筆者撮影)

「豊はる」
住所:東京都千代田区神田小川町3-11-10
営業時間:月~金 6:30~18:00
     土・祝 6:30~15:00
定休日:日曜日

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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