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“私のための1本”に出会いたい! オーストラリアが誇る美しきワイン名醸地ヤラバレー【オーストラリア】

江藤詩文 shifumy旅するフードライター

こちら でもご紹介したように、世界水準のファインダイニングからローカルガストロノミーまで、美食旅 のデスティネーションとして注目される メルボルン。料理とともにそのフードシーンの主役となっているのが、ネイバーフッドで醸されるバリエーション豊かな ワイン です。

メルボルンを州都とするビクトリア州には、21カ所の産地に850以上のワイナリーがあるとか。なかでも二大産地とされるのが モーニントン半島ヤラバレー。今回はヤラバレーを訪れました。というのもヤラバレーでは、少なくとも50以上のワイナリーでテイスティングを体験できるなどツーリストにフレンドリーなのだそう。ワインツーリズム が定着しています。

▲ぶどうの植え方や育て方にも個性が表れます。こちらはYering Farm Winesのぶどう畑
▲ぶどうの植え方や育て方にも個性が表れます。こちらはYering Farm Winesのぶどう畑

また、ビクトリア州の産地には、たとえばルーサーグレンなら「オーストラリアワインといえば筆頭に挙がるしっかりめの赤ワイン用のぶどう」というように、それぞれはっきりした特徴があります。それならヤラバレーはというと「冷涼な気候に適したぶどう品種」。ってここまで言えば私の読者さんならピンと来ますよね。そう、スパークリングワイン クールな白ワイン 推しの私たちに向いているのです。

▲ゆったりと居心地のいいセラードア(テイスティングルーム)が迎えてくれます。こちらはDominique Portet
▲ゆったりと居心地のいいセラードア(テイスティングルーム)が迎えてくれます。こちらはDominique Portet

「やあやあ、泡ならブラン・ド・ブラン、ヤラバレーきっての 白ワインラバー として知られる私のツアーにようこそ」。キャラ濃いめに登場したのは、ヤラバレー出身(で現在も在住)ガイドのCraig Cooneyさん。メルボルンからヤラバレーまでは片道50分ほどのドライブ。フラットホワイト(おすすめのカフェは こちら をどうぞ)を片手にワインハンティングへと出発しました。

注*オーストラリアは道路が整備されていて、旅行者でもドライブを楽しみやすい国です。メンバーにドライバー役がいれば、セルフツアー もじゅうぶん満喫できますが、私はガイドツアーを勧めたい。

その理由はまた後ほどお話しするとして、まずはワンデートリップで私が立ち寄った 5カ所 をランダムにご紹介します。

■フランスのエスプリを感じるオーストラリアワイン界のレジェンド「Dominique Portet」

▲レジェンドDominique Portetさん(左)の登場にガイドのCraigさんは緊張で挙動不審に(笑)
▲レジェンドDominique Portetさん(左)の登場にガイドのCraigさんは緊張で挙動不審に(笑)

いきなり結論ですが、私がもっとも好みだったのが Dominique Portet 。創業オーナーでワインメーカーのDominique Portetさんは、フランス・ボルドーで代々ワインづくりに携わってきたファミリーの9代目というサラブレッド。生まれた時から「上質なワインとおいしい料理が並んだ食卓を素敵な人々と囲む時間」を何よりも大切にする、フランスのライフスタイル に育まれてきたと言います。

フランス各地の名門ワイナリーで経験を積み、米カリフォルニアのナパを経てオーストラリアへ渡ったのが1976年。オーストラリア各地で活躍し、オーストラリアワインの発展に貢献した パイオニア のひとりとなりました。世界とオーストラリアのぶどう産地の特徴を知ったうえで、ワイン人生の集大成として自身の名を冠したこちらをヤラバレーに創業したのが2000年。地球規模で気候変動が進むなか、理想とするぶどうの栽培に、ヤラバレーの コールドストリーム と呼ばれるエリアの気候が適していたそうです。

▲Dominiqueさんも参加してくれてビクトリア州らしい野菜をふんだんに使ったメニューとワインのペアリングを満喫しました
▲Dominiqueさんも参加してくれてビクトリア州らしい野菜をふんだんに使ったメニューとワインのペアリングを満喫しました

そんなDominiqueさんがつくるワインは、ボルドーの伝統とオーストラリアの自由さをあわせ持った、いわば いいとこ取り。出身地ボルドーの技術を生かしたカベルネ・ソーヴィニヨンや、土地の個性を生かしたソーヴィニヨン・ブランなど、定評のあるワインはいくつもありますが、おもしろいのがロゼ。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵でつくるスパークリング ロゼや、オーストラリア初ともいわれるプロヴァンス風ロゼのきれいな口当たりは、料理と合わせて楽しむのに向いています。

▲至るところにDominiqueさんの美意識の高さを感じるダイニング
▲至るところにDominiqueさんの美意識の高さを感じるダイニング

「人生を豊かにするワインと料理は、どちらも 等しく高いレベルで調和 していなければならない」と、テイスティングルームに繋がるダイニングで提供する料理も本格的。食材はヤラバレー周辺を中心に、ほぼビクトリア州のものを使い、フレンチの技術を用いながらも、フレッシュな素材を生かして軽やかに仕上げています。ルールに縛られず、好きなものをいろいろ並べてシェアする気軽なスタイルは、日本の居酒屋からもインスピレーションを得たそう。ここではぜひたっぷりと時間を取り、ゆっくりとランチを楽しむことをお勧めします。

■“ヤラバレーといえば上質な泡”のイメージを全世界へと広めた立役者「Domaine Chandon」

▲前面ガラス張りの大きな窓の目の前にワイン畑が広がるアイコニックなダイニング
▲前面ガラス張りの大きな窓の目の前にワイン畑が広がるアイコニックなダイニング

シャンパンのモエ・エ・シャンドン社が「シャンパンクオリティのぶどうを栽培できるフランス国外の優良な生産地のひとつ」として1986年に設立した Domaine Chandon。伝統的なシャンパーニュ製法(瓶内二次発酵)を採用したスパークリングワインをつくって売るだけでなく、スパークリングワインが彩るライフスタイル を発信する文化施設の役割も備えた、国内外のツーリストも好意的に受け入れる、ヤラバレーを代表するワイナリーのひとつです。

▲メニューはワインに合うだけでなく、ビクトリア州の素材をヘルシーで軽やかに仕上げることを大切に考案されています
▲メニューはワインに合うだけでなく、ビクトリア州の素材をヘルシーで軽やかに仕上げることを大切に考案されています

レストラン、サロン&バー、ブティックのほか、スパークリングワインの専門家が案内するツアーや各種スパークリングワインのテイスティングなどもあり、フランス由来の伝統的なスパークリングワイン文化を 包括的に体験 できる一方で、ユニークなのがフランス本国とは異なる オーストラリアらしい味わい を提案していること。たとえば”シャンドンオレンジ”の愛称で親しまれている「シャンドン ガーデン スプリッツ」は、ロゼワインに柑橘やハーブの苦味を加えたもの。氷を浮かべてドライオレンジやハーブを添え、カクテルのように楽しむというヤラバレーで誕生したスタイルは、この夏 日本でもトレンド になりました。

▲「シャンドン ガーデン スプリッツ」はスパークリングワインの新しい味わい方やふさわしいシチュエーションまで提案
▲「シャンドン ガーデン スプリッツ」はスパークリングワインの新しい味わい方やふさわしいシチュエーションまで提案

こういった、これまでの固定観念をくつがえす新しいチャレンジは、伝統を守り受け継ぐ本場フランスのシャンパーニュ地方より、むしろ 新しいモノ好き多様な文化 を受け入れてきたオーストラリアのヤラバレーの方が、人々の気質に合って好まれるそうです。

■ヤラバレーの歴史を伝えるファミリー経営のほっこりワイナリー「Yering Farm Wines」

▲テイスティングルームに使われている風情のある建物も当時の面影を伝えています
▲テイスティングルームに使われている風情のある建物も当時の面影を伝えています

1989年に設立された、ヤラバレーで最古のワイナリーのひとつ Yering Farm Wines 。もともと貯水池のほとりで果樹園と菜園を営んでいた歴史ある農家のファミリーが、家族で育てたぶどうからワインをつくり始めました。ヤラバレーの気候風土に合った農業をなりわいとしてきたため、今も環境に負荷をかけないように、サステナブル で無理のない農業を持続しているのが特徴。伝統を受け継ぎつつ醸造学を学んだ次世代が、世界の動きにも目を向けながら新しい技術を取り入れていて、現在は“ヤラバレーらしいテロワールを持った ピノ・ノワール ”に特に力を入れています。

▲赤ワインはシラー、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンもつくっています
▲赤ワインはシラー、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンもつくっています

ワインを携えて貯水池のほとりで ピクニック もおすすめで、アヒルや野うさぎ、ときどきは子ぎつねを見かけることもあるとか。ワインのほかに果樹園で育てたりんごや洋梨のサイダー(フルーツを発酵させた発泡のお酒)もつくっているので、ワイナリー巡りの合間の休憩に立ち寄りスポットにもなります。フルーツのサイダーは生産量が少ないこともあり、日本では手に入りにくいそうなので、おみやげを買いに立ち寄るのもよさそうです(私はアップルサイダーを持ち帰りました)。

■ヤラバレーのワインと相性抜群!同じ土地で育った手づくりチーズ「Yarra Valley Dairy」

▲ハードチーズ、フレッシュチーズ、ハーブやガーリックの風味のチーズ、桃のコンフィチュールなどの盛り合わせプレート
▲ハードチーズ、フレッシュチーズ、ハーブやガーリックの風味のチーズ、桃のコンフィチュールなどの盛り合わせプレート

ワインのベストパートナーといえばチーズ。そんなチーズと乳製品のつくり手として地元のワインメーカーたちから愛されているのがYarra Valley Dairy。もともと酪農が営まれていた土地で、搾乳所だった建物をそのままリノベーションして牛・ヤギの乳製品専門店としてオープンしました。コミュニティの酪農家とコラボレートして、ヤラバレーのワインに合う クリーミーでありながらクセの強くないミルクをつくってもらっているとか。ヤラバレーの草を食べて育つ牛やヤギのミルクは、やはりこの土地のワインと格別に相性がいいそうです。

▲あめ色玉ねぎもカマンベールも購入できたので持ち帰ったのですが、帰国後つくってみたらなんだか違う。カマンベールの鮮度かも。その土地でしか食べられない味ってありますよね
▲あめ色玉ねぎもカマンベールも購入できたので持ち帰ったのですが、帰国後つくってみたらなんだか違う。カマンベールの鮮度かも。その土地でしか食べられない味ってありますよね

ショップの一画に牛・ヤギの両方をテイスティングできるスペースがあるほか、牧歌的な風景が楽しめるテーブル席がいくつかあり、チーズを使った料理とヤラバレーのワインを楽しむこともできます。とりわけ脂肪分の高いミルクを使ったつくりたてのカマンベールとあめ色オニオンの グラタン は驚くほどのおいしさ。ペアリングはよく冷えたスパークリングワインで、これを食べるためだけ でもここに立ち寄った意味がありました。注文ごとに焼き上げるため少し時間はかかるのですが、待っても後悔しないはずです。

■プライベートツアーならではのサプライズは”朝シャン”「Yering Station」

▲Yering Stationでも伝統的なシャンパーニュ製法(瓶内二次発酵)を採用していました
▲Yering Stationでも伝統的なシャンパーニュ製法(瓶内二次発酵)を採用していました

さて、ここからはおまけ情報です。前述したようにヤラバレーにはセルフドライブで来ることもできますが、私は ガイドツアーをお勧め したい。というのもヤラバレーのワインはタイプが幅広いため、専門家のサジェスチョンがあることで、より 私好み のワインを見つけやすくなるのです。

たとえば私が今回リクエストしたのは、”ヤラバレーらしいスパークリングワイン”を中心としたツアー。そこでCraigさんは王道の「Domaine Chandon」を中心に、「Dominique Portet」の小粋なロゼ、さらに「Yering Farm Wines」のりんごと洋梨のサイダーと、泡で繋がる豊かな体験をさせてくれました。さらに「ドライブで喉が渇いたでしょう」と、朝イチで立ち寄ってくれたのが Yering Station のスパークリングワインの飲み比べ。

▲ここに野生のカンガルーが現れることもあるそう。カンガルーは夜行性なので早朝がベストタイミングです
▲ここに野生のカンガルーが現れることもあるそう。カンガルーは夜行性なので早朝がベストタイミングです

ちなみ、このエリアは野生のカンガルーを見られる可能性が高いそうで、朝早く出発してカンガルーを観察してからツアーを始めることもできるそうです(というかそちらの方がニーズが高い)。私は朝が苦手なので、カンガルーではなく朝シャン になりました。

また、私が体験した今回のコースは、各ワイナリーで4杯から6杯のワインをテイスティングする内容で、アルコールが強い人に向いた内容です。テイスティングの内容などもリクエストに合わせて調整してもらえます。

近ごろはナチュールやビオディナミ、オレンジといった 世界のトレンド を押さえたワインも登場しているヤラバレー。ゆっくり旅して 運命の1本 に出合ってくださいね。

special thanks to Visit Victoria

旅するフードライター

世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ各国でのインタビュー多数。訪れた国は80カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。

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