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高橋海人&森本慎太郎が若林&山里に“憑依”した『だが、情熱はある』第1話をより味わうための“副読本”

てれびのスキマライター。テレビっ子
『だが、情熱はある』公式HPより。毎週日曜日22時30分放送

走馬灯を見てるみたい

「いつでもOKです」

扉の奥から聞こえた声に耳を疑った。

若林正恭本人が“特別出演”でもしているかのようにそっくりだったからだ。しかし、姿をあらわした声の主は、もちろん高橋海人だった。

南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭の半生をドラマ化した『だが、情熱はある』(日本テレビ)。

ドラマ化自体も驚いたが、そのキャスティングにも驚いた。何しろ、山里役をSixTONESの森本慎太郎、若林役をKing & Princeの高橋海人というジャニーズのアイドルが演じるというのだ。

森本に関しては同じ制作チームが手掛けたドラマ『泳げ!ニシキゴイ』(日本テレビ)でも錦鯉・長谷川雅紀を見事に演じていたし、予告などを見ても風貌もしっかり寄せており心配はしていなかった。実際、感情によって変化する語り口のスピードから目の動きに至るまでそっくりだった。

しかし、若林と高橋は見た目もキャラクターもかなり違う。正直、大きな不安要素だったが、第1話が始まった瞬間、まったくの杞憂だったことがわかった。ゴニョゴニョ喋る口調やトーン、仕草が完璧に再現されていたのだ。

だが、決してモノマネではない(モノマネだとドラマとしてチープなものになってしまう)。しっかりそれぞれの特徴を自分の中に落とし込み、自分のものにして演じている。

若林本人も「噂に聞いてたの。本読みで『若林さんじゃん!』ってなってるよって。だから、安心はしてたけど、反響がみんな『海人くんってスゴいね』って。ホント、海人くんで良かった」(『午前0時の森』2023年4月11日)と称えた。

それに加えて、教室で若林と春日が座っている席がまったく一緒だっただとか、アメフトのヘルメットも春日は既になくなったメーカーのものを被っていたが、それも再現されていたなど、怖くなるほどのリサーチ力だったという。

若林:アメフトのショルダーつけながらバスケやってるのなんて、まんま俺と春日の昼休みなのよ。

若林:海人くんがボール持って走ってたアメフトのシーンはパワーオフタックルってプレイで、そんなことアメフトやってる一部の人しかわからないのにブロックとか完璧で……変な気持ちになった。走馬灯を見てるみたいな。

(『午前0時の森』2023年4月11日放送より)

そんな第1話を振り返りつつ、より深く楽しめるように、描かれたエピソードにまつわる、これまで語られたことを紹介していきたい。

(※第1話はTVerで配信中

『だが、情熱はある』第1話のTVerのサムネイル画像
『だが、情熱はある』第1話のTVerのサムネイル画像

たりないふたり結成

物語は2021年に行われたライブ「明日のたりないふたり」本番当日から始まる。

このライブは山里と若林が組んだユニット「たりないふたり」の“解散”ライブという位置づけ。コロナ禍のため無観客の配信ライブという形式で開催された。

そもそも「たりないふたり」が結成されたのは、のちにテレビ番組化もされたライブ「潜在異色」でのこと。「潜在異色」はコント番組『落下女』(日本テレビ)で共演した山里とアンガールズ田中が発起人となり、その番組の企画・演出を務めた安島隆とともに2008年4月に立ち上げたもの。

一度ブレイクしたものの当時くすぶり気味で「芸能界から消えていく危機感があった」という山里と田中は「見せたことない見せたいワタシ」をコンセプトにキャパ80人程の下北沢オフオフシアターから始めた。

そんなさなか、安島はオードリー若林と出会う。2008年末の『M-1グランプリ』で準優勝を果たし、テレビの世界に本格的に足を踏み入れたばかりの頃だった。若林は安島とよく飲みに行くようになった。ドラマ『だが、情熱はある』に登場する薬師丸ひろ子演じる島貴子は、性別は変わっているが、安島がモデルだろう。この頃のことを若林はこう振り返っている。

初めて経験するTVライフに対するぼくの悩みや愚痴を、安島さんは静かに受け止めてくれていた。

テレビに出たての山ちゃんが言ってた悩みとか愚痴と全く同じこと言ってるよ

ある時、 安島さんはしみじみと言った。

「山ちゃんって、山里さんのことですか?」

あの山里さんと同じことを言ってるなら、自分はさほど間違っていないような気がした

(山里亮太『天才はあきらめた』収録の若林正恭による解説文より)

テレビに出始めたばかりの若林にとって、その4年前の『M-1』で既にブレイクしテレビで売れっ子になっていた山里は「あこがれ」の存在だった。

なにしろYouTubeにあがっていた「山里亮太、ツッコミ27連発」という動画を繰り返し見て「標準語のツッコミの歴史は山里亮太以前以後に分けられる」と思っていたほど。

ドラマではライブのシーンのあと、過去に戻りふたりの初対面のシーンになるが、実際も、安島の手引きで2009年、中野の居酒屋でふたりはついに初対面を果たした。

ここで若林は先輩だと思っていた山里が同期だと知って愕然とするのだ。

山里:その時の居酒屋の位置関係、こんな感じで座ってました。山里と若林の間に総合演出の安島さん。ふたり並ぶなんてことは照れてできなかったから

若林:緊張はしてたね

(略)

山里:若ちゃん、どんな話したか覚えてる?

若林:ハッキリ覚えてる。

山里:ふたりが一気に火がついたトークがあったの。それが、「飲み会が嫌い」って話だった。それが思いのほか盛り上がって、これをライブにしたらいいんじゃないかって。

(『たりないふたり2020秋』2020年11月22日放送より)

若林は3回目の「潜在異色」(2009年3月)から出演。同年10月の第4回を経て、2010年1月から日本テレビで番組化。その幕開けは「たりないふたり」からだった。

そして2012年には『たりないふたり-山里亮太と若林正恭-』としてスピンオフでレギュラー化。2014年に続編『もっとたりないふたり』、2019年『さよなら たりないふたり』、2020年『たりないふたり2020〜春夏秋冬〜』と続いていき、2021年5月31日に“解散”ライブとなる『明日のたりないふたり』を開催したのだ。

部室の前で遊んでたことばっかり覚えてる

第1話では居酒屋の対面シーンからさらに時間が遡り、高校時代を中心に描かれる。

早速ここで、若林の同級生・春日が登場する。彼を演じる戸塚純貴は、表情から佇まい、口調まで完璧に春日だ。

ちなみに春日と若林が出会ったのは中学2年の頃。

若林:中1のときから「ラグビ一部の仮入部に来て1日で来なくなったやつ」ってことで、春日の顔だけは知ってたんだけど、中2で同じクラスになったんですよね。

(『オードリーとオールナイトニッポン 自分磨き編』より)

高校になると同じアメフト部員として常に一緒に遊ぶようになった。

若林と春日が通った高校は「中高一貫の男女共学。だが、校舎は男女別々。男子と女子は授業でも部活動でも一切関わることは禁止」とドラマでは説明されていた。

若林:中・高男子校なんすよね、僕ら。

春日:そうなんですよ、私たちね。

若林:だから女性とのね、距離の計り方がすごく分からないっすよね。

春日:(無言でうなずく)

若林:中学生の時から(周りに)男しかいないわけですよ。で、同じ名前の高校の女子部っていうのが、300mくらい離れた場所にあるんですよね。

春日:男女別学っていうかたちなんですよね。

(略)

若林:で、男子が女子部校舎の二階以上に上がると停学ね。

(略)

若林:全然接点がないから、女子部と。一回だけ外人の先生が来たからって、女子部と合同で授業をすることになって。

春日:やりましたね。

若林:五年ぶりに女の子が隣にいる状況なんすよ、僕らにとって。一週間くらい前からみんなドキドキしてて。でね、この人、赤面症なんすよ。英語の授業やらで、先生に指名されて一人で教科書を読まされる時あるじゃないすか。そういう時、読みながらものすごい顔赤いんですよね。

春日:かわいいじゃない、かわいいじゃない。

若林:それはいいんですけど。その合同授業の時に「女の子が隣にいたら、春日絶対顔赤くなってんだろうな!」って思って。春日がオレの後ろの席だったから、パッて振り返ったら、春日鼻血出してた……。

(『オードリーの小声トーク』より)

アメフト部の部室のシーンでは『ナインティナインのオールナイトニッポン』の当時の音源が流れていた。

これは春日が持ち込んだものだ。

春日:休み時間も練習がない日も、基本的にここ(部室)にいたな~。

若林:机があって、そこにラジカセ置いてラジオのテーブ流してたんだよ。

春日:私が録音してたナイナイさんのオールナイトとか。

若林:でも、部室でしゃべってたっていうより、部室の前で遊んでたことばっかり覚えてるな。春日にアメフトの防具つけさせて、みんなでボールぶつけたり

春日:廃品置場の机を遠くまで投げ飛ばす競争をしたりね。 あとはテニスボールで野球もやってたな。

若林:俺が真っすぐ打って、隣の団地までボールが入ったのに、春日が「ファール!」つって。

春日:すげーケンカになって、乱闘して終わるっていうね

(『オードリーとオールナイトニッポン 自分磨き編』より)

偽りの天才

一方、山里は、ドラマで進路希望用紙に「何者かになる」と記入していた。当時の心境を自著でこう綴っている。

自分は何者かになる。そんな、ぼんやりだけど甘い夢のような特別な何かを容易に見つけられて、何者かにたどり着くため必要な労力を呼吸するようにできる人、それが天才なんだと思う。

でも、昔から僕はハッキリわかっていた。「自分はそうじゃない」。この自覚は、自然と努力へのブレーキを強めてしまう。さぼる言い訳にしてしまうし、最悪は止めてしまう。

だからといって天才を目標にするのはおこがましい。だって僕は普通の人だし。

だけどどうしても何者かになりたい

そんな僕は、「自分は天才じゃない」という自覚を強制的に消して、すごいところを目指さなくちゃいけなかった。「あいつには才能がない」と誰にもバレないように、天才が自然にしていることをやり遂げる必要があった。

そして自分をその「何者か」に連れて行ってくれたのは、この感情だった。

モテたい。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

そんな山里に一筋の希望を与えるのが親友・溜ちゃんが何気なく発した「山ちゃんって時々おもしろいからお笑い芸人になったら」という一言だった。

『天才はあきらめた』では「なめちゃん」として登場する。「決して人前にがんがん出るようなタイプではないが、ぼそっと言う一言がおもしろかったり、マイナーなおもしろいものを見つけては僕に紹介してくれたり、 深夜ラジオの投稿でめちゃくちゃはがきが採用されていたり、とにかくおもしろい男」だったという。

僕たちの主戦場の“教室の隅っこ”で、なめちゃんはクラスの人気者によるトークショーをBGMに、僕がニヤニヤするトークをずっとしてくれていた。

そんなある日、いつもの教室の隅っこでなめちゃんはニヤニヤしながら僕に言った。

「山ちゃん、時々おもしろいこと言うからお笑いやってみたら」

なめちゃんからすれば、それは何気ない日常の会話のうちの一つだったのかもしれない。

しかし、まだ将来の夢に迷っていた山里少年にはキラキラ輝いた選択肢になった。

何者かになりたいという欲求に一番見合った夢の選択肢、それが現れただけでものすごく幸せな気持ちになった

でもそのとてつもないゴールを目指すほどの自信はもちろんない。けれどせっかく見つけたスタートラインに自分が立つためにやったこと、それは「偽りの天才」を作ることだった

ずっとおもしろいと思っていたなめちゃんからの「時々おもしろいから」というお墨付きを最大限に評価して、僕はお笑いを目指すことにした

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

ドラマでは彼らの人格形成に大きな影響を与える家族も描かれている。

常に「すごいねえ」と山里を褒め称える母を演じるヒコロヒーは絶品だ。

母ちゃんは、信じられないところから褒め言葉を持ってくる

学校でも、僕がめちゃくちゃ怒られているところを見て「反省してる感じ出すのうまいねぇ」という褒め言葉で引き取っていってくれたときもあった。

(山里亮太『天才はあきらめた』より)

若林に大きな影響を与え続ける父は、光石研が演じている。

第1話では、7回目のクビになったことを家族に責められているが、『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ、2017年11月19日)によると、その後、1回増えて、計8回クビになったそう。営業車で会社を出て自宅に帰ってきて昼寝をしたり、麻雀を朝までやって会社に行かなかったりサボり癖があったのだという。

「負け組とか勝ち組とかくだらねぇな。生きてるって実感をどんだけ感じられるかが大事なんだ」「勝ちばっか求めちゃダメなんだ」と言って例にあげたのが、小学生時代、若林が「負けてばっかりは嫌だ」と阪神ファンから近鉄ファンに鞍替えしたときのこと。このエピソードもたびたび若林が話している。

(参考:オードリー・若林正恭の“クーデター”と阪神ファンの父の教え

ステージが変わっただけ

そんな若林がお笑い芸人を意識するきっかけとしてドラマでは、「一番面白い」やつを選ぶクラス投票で若林に票を入れたクラスメイトが「ふざけるな」と言われ、殴り合いのケンカになった、と描かれていた。

若林のエッセイにはこんなふうに綴られている。

自分に人を笑わす才能があるのかもしれないと初めて思ったのは高校一年生の頃だ。

この学校で誰が一番おもしろいか?という話になり、ぼくの名前を挙げた友人がいた。その友人は別の人物の名前を挙げた生徒と口論を始めた。「絶対、じゃり(当時のぼくのあだ名)の方がおもしろい!」と目の前で何度も連呼されてぼくはとても居心地が悪かった。その友人の連呼は止まることが無かった。そして、次第に語気は強まり別の生徒の名前を挙げて頑として譲らなかった生徒をついには殴り始めたのだ。

唖然とした。自分がおもしろいかどうかで人が殴り合いをしている。 ぼくは「おれはそんなにおもしろくないから!」と言いながら二人の間に入ってケンカを止めた。その時ぐらいからもしかしたら人を笑わす才能があったりするのかな? と勘違いし始めた

(若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』より)

ところでドラマ前半から、若林が前の席に座る春日の襟足の髪の毛を少しずつ切っている場面がブリッジかのように挿入されていた。これはオードリーファンにはおなじみのエピソードで2人の口から度々語られている。

春日:若林が後ろの席にいて、毎日少しずつハサミで春日の髪を切ってくるんです。 でもここで反応したら負けだと思っていました。 そうしたら、“ワカメちゃんカット”になってしまいました(笑)。ほかにも学生時代に「絶対死なない」と言ったら、友達に「だったら立ちこぎした自転車から飛び降りろ!」といわれたこともありました。 もちろん、やりましたよ。(略)まあ友達というのは全部、若林ですけど(笑)。

(『女性自身』2017年10月10日号より)

他にも、「校舎の2階から飛び降りる」だとか「1日誰とも口をきかない」だとか、若林ら友人たちが春日に無茶振りする、いわゆる“春日チャレンジ”に興じていた彼ら。

若林が一番やっぱりそそる提案をして来てましたね」(『金曜日のスマイルたちへ』2020年5月1日)と春日は笑う。

若林:ここのベンチで美術の時間に並木道を描いてて、完成間近の春日の絵を破ったこともあったね(笑)。「破っていい?」って聞いたら、やってみろって言うから。

春日:せっかく描いた絵が破られるっていうのがおもしろくて、ふたりとも大爆笑してた。破壊の衝動だろうなー。 いまもそんなに変わってないからね。

若林:成長してないんだよ。 変わりたくないってわけじゃないし、落ち込む部分もあるけど。

春日:ステージが変わっただけでね。場所が学校じゃなくなったっていうだけで、なんにも変わってないな

(『オードリーとオールナイトニッポン 自分磨き編』より)

まさに青春の瞬き。

『だが、情熱はある』第1話には確かにその衝動が刻まれていた。

※本日16日放送の第2話の予告はこちら

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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