高橋海人&森本慎太郎が若林&山里に“憑依”した『だが、情熱はある』第1話をより味わうための“副読本”
走馬灯を見てるみたい
「いつでもOKです」
扉の奥から聞こえた声に耳を疑った。
若林正恭本人が“特別出演”でもしているかのようにそっくりだったからだ。しかし、姿をあらわした声の主は、もちろん高橋海人だった。
南海キャンディーズ・山里亮太とオードリー・若林正恭の半生をドラマ化した『だが、情熱はある』(日本テレビ)。
ドラマ化自体も驚いたが、そのキャスティングにも驚いた。何しろ、山里役をSixTONESの森本慎太郎、若林役をKing & Princeの高橋海人というジャニーズのアイドルが演じるというのだ。
森本に関しては同じ制作チームが手掛けたドラマ『泳げ!ニシキゴイ』(日本テレビ)でも錦鯉・長谷川雅紀を見事に演じていたし、予告などを見ても風貌もしっかり寄せており心配はしていなかった。実際、感情によって変化する語り口のスピードから目の動きに至るまでそっくりだった。
しかし、若林と高橋は見た目もキャラクターもかなり違う。正直、大きな不安要素だったが、第1話が始まった瞬間、まったくの杞憂だったことがわかった。ゴニョゴニョ喋る口調やトーン、仕草が完璧に再現されていたのだ。
だが、決してモノマネではない(モノマネだとドラマとしてチープなものになってしまう)。しっかりそれぞれの特徴を自分の中に落とし込み、自分のものにして演じている。
若林本人も「噂に聞いてたの。本読みで『若林さんじゃん!』ってなってるよって。だから、安心はしてたけど、反響がみんな『海人くんってスゴいね』って。ホント、海人くんで良かった」(『午前0時の森』2023年4月11日)と称えた。
それに加えて、教室で若林と春日が座っている席がまったく一緒だっただとか、アメフトのヘルメットも春日は既になくなったメーカーのものを被っていたが、それも再現されていたなど、怖くなるほどのリサーチ力だったという。
そんな第1話を振り返りつつ、より深く楽しめるように、描かれたエピソードにまつわる、これまで語られたことを紹介していきたい。
(※第1話はTVerで配信中)
たりないふたり結成
物語は2021年に行われたライブ「明日のたりないふたり」本番当日から始まる。
このライブは山里と若林が組んだユニット「たりないふたり」の“解散”ライブという位置づけ。コロナ禍のため無観客の配信ライブという形式で開催された。
そもそも「たりないふたり」が結成されたのは、のちにテレビ番組化もされたライブ「潜在異色」でのこと。「潜在異色」はコント番組『落下女』(日本テレビ)で共演した山里とアンガールズ田中が発起人となり、その番組の企画・演出を務めた安島隆とともに2008年4月に立ち上げたもの。
一度ブレイクしたものの当時くすぶり気味で「芸能界から消えていく危機感があった」という山里と田中は「見せたことない見せたいワタシ」をコンセプトにキャパ80人程の下北沢オフオフシアターから始めた。
そんなさなか、安島はオードリー若林と出会う。2008年末の『M-1グランプリ』で準優勝を果たし、テレビの世界に本格的に足を踏み入れたばかりの頃だった。若林は安島とよく飲みに行くようになった。ドラマ『だが、情熱はある』に登場する薬師丸ひろ子演じる島貴子は、性別は変わっているが、安島がモデルだろう。この頃のことを若林はこう振り返っている。
テレビに出始めたばかりの若林にとって、その4年前の『M-1』で既にブレイクしテレビで売れっ子になっていた山里は「あこがれ」の存在だった。
なにしろYouTubeにあがっていた「山里亮太、ツッコミ27連発」という動画を繰り返し見て「標準語のツッコミの歴史は山里亮太以前以後に分けられる」と思っていたほど。
ドラマではライブのシーンのあと、過去に戻りふたりの初対面のシーンになるが、実際も、安島の手引きで2009年、中野の居酒屋でふたりはついに初対面を果たした。
ここで若林は先輩だと思っていた山里が同期だと知って愕然とするのだ。
若林は3回目の「潜在異色」(2009年3月)から出演。同年10月の第4回を経て、2010年1月から日本テレビで番組化。その幕開けは「たりないふたり」からだった。
そして2012年には『たりないふたり-山里亮太と若林正恭-』としてスピンオフでレギュラー化。2014年に続編『もっとたりないふたり』、2019年『さよなら たりないふたり』、2020年『たりないふたり2020〜春夏秋冬〜』と続いていき、2021年5月31日に“解散”ライブとなる『明日のたりないふたり』を開催したのだ。
部室の前で遊んでたことばっかり覚えてる
第1話では居酒屋の対面シーンからさらに時間が遡り、高校時代を中心に描かれる。
早速ここで、若林の同級生・春日が登場する。彼を演じる戸塚純貴は、表情から佇まい、口調まで完璧に春日だ。
ちなみに春日と若林が出会ったのは中学2年の頃。
高校になると同じアメフト部員として常に一緒に遊ぶようになった。
若林と春日が通った高校は「中高一貫の男女共学。だが、校舎は男女別々。男子と女子は授業でも部活動でも一切関わることは禁止」とドラマでは説明されていた。
アメフト部の部室のシーンでは『ナインティナインのオールナイトニッポン』の当時の音源が流れていた。
これは春日が持ち込んだものだ。
偽りの天才
一方、山里は、ドラマで進路希望用紙に「何者かになる」と記入していた。当時の心境を自著でこう綴っている。
そんな山里に一筋の希望を与えるのが親友・溜ちゃんが何気なく発した「山ちゃんって時々おもしろいからお笑い芸人になったら」という一言だった。
『天才はあきらめた』では「なめちゃん」として登場する。「決して人前にがんがん出るようなタイプではないが、ぼそっと言う一言がおもしろかったり、マイナーなおもしろいものを見つけては僕に紹介してくれたり、 深夜ラジオの投稿でめちゃくちゃはがきが採用されていたり、とにかくおもしろい男」だったという。
ドラマでは彼らの人格形成に大きな影響を与える家族も描かれている。
常に「すごいねえ」と山里を褒め称える母を演じるヒコロヒーは絶品だ。
若林に大きな影響を与え続ける父は、光石研が演じている。
第1話では、7回目のクビになったことを家族に責められているが、『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ、2017年11月19日)によると、その後、1回増えて、計8回クビになったそう。営業車で会社を出て自宅に帰ってきて昼寝をしたり、麻雀を朝までやって会社に行かなかったりサボり癖があったのだという。
「負け組とか勝ち組とかくだらねぇな。生きてるって実感をどんだけ感じられるかが大事なんだ」「勝ちばっか求めちゃダメなんだ」と言って例にあげたのが、小学生時代、若林が「負けてばっかりは嫌だ」と阪神ファンから近鉄ファンに鞍替えしたときのこと。このエピソードもたびたび若林が話している。
(参考:オードリー・若林正恭の“クーデター”と阪神ファンの父の教え)
ステージが変わっただけ
そんな若林がお笑い芸人を意識するきっかけとしてドラマでは、「一番面白い」やつを選ぶクラス投票で若林に票を入れたクラスメイトが「ふざけるな」と言われ、殴り合いのケンカになった、と描かれていた。
若林のエッセイにはこんなふうに綴られている。
ところでドラマ前半から、若林が前の席に座る春日の襟足の髪の毛を少しずつ切っている場面がブリッジかのように挿入されていた。これはオードリーファンにはおなじみのエピソードで2人の口から度々語られている。
他にも、「校舎の2階から飛び降りる」だとか「1日誰とも口をきかない」だとか、若林ら友人たちが春日に無茶振りする、いわゆる“春日チャレンジ”に興じていた彼ら。
「若林が一番やっぱりそそる提案をして来てましたね」(『金曜日のスマイルたちへ』2020年5月1日)と春日は笑う。
まさに青春の瞬き。
『だが、情熱はある』第1話には確かにその衝動が刻まれていた。
※本日16日放送の第2話の予告はこちら