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『世にも奇妙な物語』で佐藤勝利主演の新作が放送される「City Lives」は何が奇妙なのか

てれびのスキマライター。テレビっ子
「火曜ACTION!」版『City Lives』第1話のTVerサムネイル

本日14日、『世にも奇妙な物語'24 冬の特別編』が21時よりフジテレビ系で放送されます。

様々なラインナップが発表されているが、中でも注目なのが、timeleszの佐藤勝利が主演する「City Lives」です。

これは、“街”という世界最大の巨大生物が存在する世界の物語。実はこの「City Lives」は、2023年に「火曜ACTION!」枠で全3話が放送されています。その新作が『世にも奇妙な物語』の一遍として制作されたというわけです。

“街”が巨大生物? といっても何がなんだかわからいという人が大半でしょう。

というわけで、テレビ・フェイクドキュメンタリーの現代史をまとめた拙著『フェイクドキュメンタリーの時代』(小学館新書)で、前作の「City Lives」について書いた部分を抜粋(一部記事用に修正)して掲載します。 

なお、TVerでは、前作の全3話が配信中です。

https://tver.jp/episodes/epjui33fop

最新VFXを使ったフェイクドキュメンタリー

『City Lives』は最新のVFXを駆使した作品だ。

いきなりトンネルの奥で街の建物郡がゴゴゴと移動しているカットから始まる。さらには街に電柱やビルがニョキニョキと生えてくる。

「街」が生きているかのような奇妙な映像がリアリティあふれるものとして映し出されているのだ。

「こんばんは、髙嶋政宏です」

『City Lives』は『LiVES』と題した“生命ドキュメンタリー番組”として始まる。髙嶋政宏本人が番組のナビゲーターだ。

「今週から3週連続で取り上げるのは、みなさんもよく知っている動物。そう、『街』です」

「街」はクジラに匹敵する知能と、数平方メートルに及ぶ巨大な身体を持つ世界で一番大きな動物だというのだ。

「街」は自らの一部を擬態させた人間そっくりの疑似住民を抱え生きているのだが、その「街」に住む唯一の本物の人間である高城準(広田亮平)に密着するという設定のフェイクドキュメンタリーSFドラマなのだ。

本作の原作・脚本・監督を務めたのは針谷大吾と小林洋介。2020年に公開した自主制作SF短編映画『viewers:1』が「GEMSTONE」第6弾企画「リモートフィルムコンテスト」グランプリなど数多くの賞を受賞し、ネット上でも大きな話題を巻き起こしたコンビだ。

「どうも!どうもどうも!ぐっちゃんでーす!」

割れたメガネをかけた男がハイテンションで自らにカメラを向けている。

『viewers:1』は、文明が崩壊した世界で、たった1人で誰に届くかわからない配信を続ける男性を描いた「ポストアポカリプス」作品。崩壊した高層マンションの周囲を巨大な歩行ロボットが歩いている映像は鮮烈だった。コロナ禍でリモートをテーマにした映像を対象にした「リモートフィルムコンテスト」の中にあって、2人の作品は桁違いにスケールが大きかった。

応募作の多くがZoomのようなツールを使った会話劇になると考え、それを避け、まず香川に住む友人に頼んで香川の風景を撮影してもらった。その風景にSF的なモチーフを合成して加えていった。主人公「ぐっちゃん」を演じる橋口勇輝へはリモートで演出。リハーサルから本番まですべて遠隔でおこない、橋口自身がiPhoneで自撮りするという方法で撮影された。

演出・撮影方法も「リモート」をテーマにしているが、物語のテーマも「リモート」に紐づけた。

針谷「視聴者との関係性という視点も生まれ、結果、ひとり彷徨った先に誰かと出会うという今回の話に落ち着きました」(※『VIDEO SALON』2021年5月号より)

バッテリーも残りわずか、誰も見ていないであろう配信を続けながら、孤独感が募っていく主人公。そしてラスト。世界が反転するかのような鮮やかな手法で「viewers:1」、つまりひとりの視聴者との出会いが描かれるのだ。

わずか140秒ながら、そのエモーショナルで感動的な展開は、コロナ禍で人と人が満足に会えない閉塞感と相まって、ネット上で大反響を巻き起こした。まさにぐっちゃんのラストシーンのように「見つかった」のだ。

2人の監督

2人は大学のインカレサークル「早稲田大学映画研究会」の先輩・後輩という間柄(小林が2年下。なお『viewers:1』の主人公を演じる橋口も同サークルのメンバー)。大学卒業後、針谷は編集所に勤務し、数多くのテレビ番組の編集を担当。小林はCM制作会社に入り、CMやMV映像を手がけている。

針谷が編集所から独立しフリーになった頃、小林が針谷に「編集と合成を手伝ってほしい」と頼んだことがきっかけで再び共に映像作品を作るようになり、2018年に『スカイツリーの惑星』を監督として共同制作した。

小林「お互い好きなものがなんとなくわかっていて、趣味が相互補完するような関係なんです。僕はSFが好きで『生きもの地球紀行』とかの自然ドキュメンタリーが好きで、怪獣映画大好き人間。自我が芽生える小学生の高学年の頃に見たリアル志向の平成ガメラシリーズが超好きなんです」

針谷「小林とは世代的に『ゴジラ』と『ガメラ』でわかれるんです」

監督と脚本にわかれて長年コンビを組んでいる2人は少なくないが、針谷と小林の場合、ともに脚本も監督も担当するという珍しい体制で映像制作を続けている。

小林「役割分担はたぶん他に例がないくらいぐちゃぐちゃですね。どっちが何をやったかわからないくらい」

針谷「多少、得意分野の違いはあるけどね。僕の本職が編集だから、編集作業は比較的多くやっていると思います」

小林「僕は『これが、1912年に世界で初めて撮影された「街」の写真です。場所は南極点の近く。撮影したのはロバート・スコット……』みたいなセリフはいくらでも書けるけれど、男女の会話とかは上手くなくて。脚本にも理屈っぽくとか感情的にとか書き味の得意不得意がそれぞれあって、僕ひとりでやると、どこまでも変なことをして楽しくなっちゃう」

針谷「それぞれが暴走しちゃうところをお互いが制し合って、今のところすごくバランスが取れていると思いますね」

街が交尾する

本作が放送されたのは、フジテレビに2022年10月から新設された深夜枠「火曜ACTION!」。「ここから次の時代を担うヒット番組、ヒットクリエイターを続々と誕生させていきたい」(※「サンケイスポーツ」2022年9月5日より)というコンセプトの深夜ドラマ枠。深夜ならではのチャレンジングな作品をやりたいということから『viewers:1』で高い評価を得ていた2人に白羽の矢が立った。

「いきの良い企画はないか」と相談された小林洋介にはちょうどすぐ出せる企画があった。それが「街が生きている」というもの。当初は『viewers:1』同様、短編の自主制作でつくるつもりだった。

「街が交尾するんですよ!」

目を輝かせて言う小林に針谷は、「突然何を言ってるんだ、君は……?」と唖然とした。

元々は「街は巨大生物で、やがて街同士が交尾する」というBBCで放送しているような動物ドキュメンタリー番組のようなものを想定していた。専門家のインタビューと「街」の生態の紹介を5分くらいでやったら面白いんじゃないかというのがスタートだった。

小林「『生きもの地球紀行』(NHK)みたいな感じで街の発情期を淡々と描いて、柳生博のナレーションみたいに『秋は街の恋の季節です』という文言が入るというのは決まってました(笑)。建物の“怪獣化”みたいなことをずっとやりたくて、最初は全然ドラマチックな要素はないウソ科学ドキュメンタリーみたいなイメージでした」

与えられた放送枠は30分尺で3話分だったため、それをドラマ用に、街同士の恋愛(交尾)に、人間同士の恋愛ドラマ要素を重ね、膨らませた。

針谷「『街は人の記憶を擬態する』という設定を加えて人間ドラマを入れていったんですけど、街の交尾という壮大で突飛な話だから、人間ドラマのほうはなるべく身近でみみっちい話にしようと」

第1話に登場する「E604」と呼ばれる街の保護官職員・高城準(広田亮平)と、第2話の「N507」を担当する辻みさき(片山友希)が実は大学時代の知人同士で、互いに好意を持っていたという設定。勇気が出ず告白できなかったことを心残りに思っている、というストーリー。

「街は人の記憶を擬態する」という設定が効いていて、大学時代のそれぞれの思い出の風景が「街」にあらわれ物語が展開していく。

小林「大人になってから、大学時代にうまくいかなかった男女の夜の思い出がぶり返す程度のほっといたら誰もドラマでとりあげないくらいの規模感がちょうどいいかと思いました(笑)。『人類の進化の旅路』と『休日の夜にラブホが空いてなくてカップルが街をさまよう』という二つの要素を重ねたキリンジの『The Great Journey』という曲があるんですけど、それだ!って」

観て信じられる実写SF

本作の“主役”はもちろん「街」。生物である「街」は建物がニョキニョキと生やして“成長”したり、路上のひび割れが呼吸孔となり呼吸したりしている。そういった非現実的な「街」の生態の描写は最新のVFXを駆使して描かれた。

2人で自主制作をしていた頃は、自らVFXも手がけていたが、今回は映像制作チームのXORの堀江友則を中心に、LILの木村康次郎、オムニバス・ジャパンの佐藤信吾、近藤晋也らが参加し、全90カットにものぼるVFXシーンをつくりあげた。そのため制作前に1日がかりでVFXが関わる表現について、長時間の綿密な打ち合わせをおこなった。

小林「予算感と作業量のバランスでいうとかなり厳しい条件だったんです。それでも男気と優しさの塊のようなみなさんが参加してくれて、僕らのやりたいことはこうですと、全カット頭から最後までワンカットごとに絵コンテを見せながら説明してシミュレーションをしていく。ひとまずダメ元ベースでこういうふうにしたいんですって」

針谷「3時間くらい打ち合わせして、まだ全体の4分の1も来てない、みたいな綿密な打ち合わせでした(笑)。それでも最初の構想から諦めたVFXショットは実は3~4カットくらい。色々と工夫もしつつ、ほぼ削らないで実現させてもらえました」

小林「『1回削らないでおきましょうか』って考えてくれたのが本当にありがたかったですね」

VFXスーパーバイザーの堀江は、「最初小林監督から“街が交尾する”と聞いて、いったい何を言ってるのかと頭を抱えました」(※「CGWORLD.JP」2023年4月18日より)と笑う。しかし、『viewers:1』も知っていた彼は「ここまでぶっ飛んでいる監督陣ならきっと面白くなるなとも感じた」。

第1話の放送までわずか3週間ほどしかなく、正攻法では頓挫するとわかっていたため、複数のポジションを同時に進めていく作り方を採った。小林や針谷も仕上げに加わりながら、街が“生きている”様子を作り上げた。

VFXは驚くほど風景に溶け込んでいる。

「『観て、ちゃんと信じられる実写SF』をやろうというのがコアにありました。特撮モノも好きですが、『まあこれはこういうものだから』みたいな“お約束”のフィルターをなるべく通さなくても見られるものを作ろうと」(小林)

VFXによる違和感を極力でないようにするため、大きい被写体は風景のなるべく遠くに置き、合成も極力遠いものしかしないと決めていた。それは『viewers:1』の頃から継承した方針だ。

「“街”が威嚇して、保護官の目の前に標識が突然複数現れて道を塞ぐというカットではもちろんCGを使っているんですけど、標識自体は実物をリファレンスとして撮影して、CGの質感の指標にしてます。なるべく距離を置いて撮って、手前に視聴者の視界を遮る邪魔な柵も用意することで、VFXの合成の部分がカメラから近くても大丈夫な工夫をしてます。その代わり、全ポジション、全角度に標識を動かして汗だくになりながら撮りましたけど(笑)」(小林)

主人公の高城は、「街」とまだ打ち解けられておらず、「街」から時折、威嚇されたり、寝ている部屋に室外機を擬態されたりするような嫌がらせをされてしまう。そんな「街」は、言うことをきいてくれない猫のような可愛らしさがある。電柱や電線などのアニメーションを担当した佐藤は「怖いけど可愛らしさも感じられる演技」を目指したという(※「CGWORLD.JP」2023年4月18日より)。

針谷「自然ドキュメンタリーで取り上げる動物みたいに、怖いんだけど同時に親しみも覚えられるようしたくて。“街”は、なるべく可愛く見せたかった」

小林「“街”を動物のように見せるためにはどうすればいいのかと考えた時に『鳴く・飲み食いする・息をしている』様子を見せようと。もちろん画作りもこだわりましたけど、音も本当に細かいところまでやっていただきました。実は、劇中ずっとさりげなく“街”が鳴いてるんですよ。奥の方で唸っていたり、キシキシと不穏な音を鳴らしたり。『「カリブの海賊」みたいな音をつけてください』みたいに発注していました(笑)。3話の“街”同士の交尾のシーンでさりげなくベッドがきしむ音がついていたのは笑いました。結局は外すことになりましたが。それくらいのノリでみんなアイデアを出し合ってやっていましたね。“街”の交尾が始まる時に、蛇口の角度が上がりすぎていて、なんだか生々しくて卑猥に見えちゃうからもう少し抑えてくださいとか(笑)」

視点の切り替え

『viewers:1』ではPOV形式(主観映像)から視点が切り替わることで、人と人の出会いやつながりを感動的に描いていた。『City Lives』もそんな視点の切り替えを効果的に使った作品だ。第2話の途中からドキュメンタリー映像特有のカメラアングルから、通常のドラマ形式のカメラアングルに切り替わる。よく見ると、2話の前半からディレクター役の持つカメラが映り、ドキュメンタリーではありえないアングルが自然に取り入れられていき、ドラマ形式へと移行する。

小林「2話で主人公の内面に視聴者が寄っていくのと同時に視点が切り替わるというのは元々狙っていましたね。本当は第1話のエンディングでカメラがテレビ画面から引いていくカットがあるので、そこで(ドラマ形式へと)開いたつもりだったんだけど、それはあまり効かなかった。カメラアングルの考え方としては、ドキュメンタリー的ではないカメラアングルは“街”の視点だというつもりで撮っていました」

3話の最終盤では、番組の最初と最後に出てくるナビゲーターの高嶋政宏が、擬態した「街」であり、「街」が自分の生誕について語っていたという設定だったのだ。

第1話をドキュメンタリー形式にしたのは、世界観や設定を説明しやすかったという理由もあった。しかし「世界観を明かしていくこと自体が面白い」だけでは、3話連続のテレビ番組としては成立しない。

針谷「2話と3話は、保護官同士の関係性や彼らの思い出の話になっていくので、ドキュメンタリーでそれを描くには向かない。『ドキュメンタリーのテレビカメラの前でこんな本音は都合よく話さないだろう』『このセリフには裏があるんじゃないか』というレイヤーができてしまうので、ここはスパッとドラマに振ったほうがいいと」

小林は『City Lives』の前に「JAC AWARD 2022」を受賞したCM「幸せの神」や、「Spikes Asia 2023」ブロンズを受賞した「Vocument #1『今、映画監督オダギリジョーが立つ場所。』」と立て続けにフェイクドキュメンタリー作品を演出し、フェイクドキュメンタリーにおけるドキュメンタリー性を研鑽していった。

小林「(今まで手がけてきた作品は)ドキュメンタリーっぽく撮っていますけど、本当のドキュメンタリーってあんなに映像は荒っぽくないんですよ(笑)。あんなに手ブレしないし、フレームもゆるくない。けど、少し荒いくらいのほうが映像から感じるリアリティとしてはちょうどいいのかなと。特にこういう内容だと。『City Lives』のカメラは、オダギリさんとやった『Vocument』や『幸せの神』を担当した山田晃稔さんというカメラマンです。その都度ドキュメントっぽく見せるための方法論や匙加減をずっと試行錯誤していました。場面によっては役者の動きをカメラマンに伝えず、カメラワークはアドリブでいくとか、色々毎回手探りで」

ちなみに『Vocument』は映像技術的にも挑戦的な作品で、最新テクノロジーである「バーチャルプロダクション」が使用されている。

イメージはなかったけどイメージ通り

立て続けに3作のフェイクドキュメンタリー作品を作ったことからも自明なように、小林は見る側としてもフェイクドキュメンタリーが大好きだという。

小林「僕は“説得力好き”なんです。怪獣が歩いたらここの電話ボックス割れるよね、みたいな細かい部分が快楽の塊(笑)。あと、ウソ漫談をする街裏ぴんくさんが大好きなのですが、ウソを本当のこととして堂々と喋っている時の“真顔ボケ”の面白みが好きですね。『City Lives』も1話はウソを突き通す感じで行って、2話以降、実際こうだったらこうだよねみたいなリアリティで説得力を加える方向にスライドしていくみたいな考え方でした」

一方で針谷はフェイクドキュメンタリー自体が特別好きというわけではない。しかし本職ではバラエティやテレビのドキュメンタリー番組の編集もしているため、それが大いに役立った。

小林「テロップとかは、針谷さんにめちゃくちゃ監修してもらいましたね。WEBムービーのノリでつけたら、テレビはこんなに小さくないんだとか。本職の監修が入ったドキュメンタリー(笑)」

そうしてフェイクドキュメンタリーとしての強度を上げていった。『City Lives』は第1話が放送されると話題を呼び、TVerの見逃し配信も手伝い、SNS等で大きな反響があった。絶賛する中にはテレビプロデューサーの佐久間宣行らもいた。もちろんSFファンやフェイクドキュメンタリー好きは目の肥えた人が多いため賛否両論でもあった。

小林「みんな100%満足させることはできないと思うんですよ。「『パシフィック・リム』超好きだけど、言いたいことは2000個ある!」みたいな(笑)。だからひとまず僕らの好きなことをやり尽くすから、良かったら楽しんでくださいくらいの気持ちでしたね。刺さる人には刺さってくれって思いながら投げた感じです」

2人にとって意外だったのが、フェイクドキュメンタリー部分が思いの外、視聴者に受け入れられたことだ。

小林「僕ら的には1話はだいぶクセのある“発酵した何か”を出した気持ちだったんですけどね。逆に今思うと僕らは連ドラというものをあんまりわかってなくって。今回の構成は、3話まとめて見るのならいいと思うんですけど、各話の質感をズラしているから、次の放送まで1週間空いた時に『期待してたものが来なかった』って感覚にもなりうるんだなと。僕らはサービスで裏切ったつもりだったんですけど、『さっきのが良かった』みたいな(笑)」

針谷「編集している段階で『1話好きな人は2話好きじゃないし、2話好きな人は1話は好きじゃないかも』とは言っていたよね。そこは難しかったですね」

本作のクライマックス、「街」の交尾シーンは、まさに本作のキモであり、最高峰のVFXが生み出したものだ。それぞれの街に立った巨大なビルが織りなす柱状構造物が、渦巻きながら絡み合うという形で表現された。実は当初、街がどのように交尾するか、その具体的なイメージはできていなかったという。街と街がぐちゃぐちゃ混ざるような構想もあったが、とてつもない時間と予算がかかり現実ではない。そこで象徴的な異物=柱状構造物が立つシーンを脚本の2稿か3稿で加えた。

小林「ナメクジの交尾みたいにしようっていうアイデアが途中で出てきましたね。なんか人の手が絡んでいるようにも見えるし、と。『柱状構造物がこうなってこうなるんですよ!』ってCG部の方に言ったら『あ……、はい』って(笑)。最初はうまくできるか不安でしたね」

不安を抱えたまま、2人は撮影に突入した。VFXに予算と人員を投じるため、撮影はごく最小限のスタッフで行われた。監督が2人いるため助監督も入れず、場所もほとんどが木更津周辺。場としてあまり個性がなく、何か見たことがある感じがぴったりだった。加えて、駅の西側と東側で雰囲気が違うのも好都合だった。

そうして撮影をしているさなか、CG部から途中経過として柱状構造物の画像が送られてきた。それを見て2人は歓喜しガッツポーズした。

「めっちゃカッコいい! これなら行ける!」

撮影中、疲れたらそれを見て力をもらっていたという。

小林「怪獣っぽいものをやりたいっていうのが企画のベースにあったから、画的にも話的にも満足するものができましたね」

針谷「だから最終的にはイメージ通り。最初に具体的なイメージはなかったんですけどね(笑)」

新しさと懐かしさの奇妙な融合

そうして最新のテクノロジーを駆使した奇想天外なフェイクドキュメンタリーSFドラマが世に放たれたのだ。その映像表現の新しさは鮮烈だった。

同時に、「街」の生態と並行して描かれたごくごく身近な人間ドラマは、そのスケール感とは真逆だったからか、より一層、心に響きどこか懐かしささえ感じさせる。

小林「企画を出した時もテレビでフェイクドキュメンタリーが流れる味みたいなことを特別意識してなかったんですけど、第1話のオンエアをリアルタイムで見て『うわ、キモ!』って思いましたね。いい意味で。なんかわけわかんない番組が流れるっていうのは楽しいなって。明らかに何かが間違っている感じ(笑)」

針谷「テレビで流れているテレビ番組そのものがウソっていうね。個人的には中学生の時に深夜、夜更かししてたまたま見たかった。自分が作ったものですけど(笑)」

フェイクドキュメンタリーは視聴者に「この設定に乗っかろう」と思う瞬間をつくることができたら成功なのではないかと小林は言う。

小林「今回の場合、1話の最初から『街です』って始まっていますから。『こういうことでやっていきますんで、ついてきてください』って伝えた上で突っ走る。その1話で離脱している声なき声がいっぱいいるかもしれないですけど、ついてきてくれる人は“共犯”になってくれたんじゃないかなと思います」

設定に乗ろうと思うに足る説得力を映像の力によって生み出した『City Lives』。

VFXやバーチャルプロダクションなどの最先端のテクノロジーは、今後さらに想像力次第で無限な可能性が備わっている。フェイクドキュメンタリーも“新時代”を迎えたのだ。

(以上、『フェイクドキュメンタリーの時代 テレビの愉快犯たち』より)

※特に注釈のない針谷大吾氏と小林洋介氏の発言は、2023年に実施した取材時のもの。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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