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いよいよ今夜『M-1グランプリ』決勝 20回目の記念大会で何が破壊され何が生まれるのか

てれびのスキマライター。テレビっ子
『M-1グランプリ』決勝の会場となるテレビ朝日(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

いよいよ今夜、『M-1グランプリ』(朝日放送/テレビ朝日)の決勝戦が放送される。今年は20回目となる記念すべき大会だ。エントリー数もついに1万組台に突破。第1回の10倍近い芸人が参加した。

今回、なんといっても注目なのは、審査員が大きく変わったことだ。これまで、7人だった審査員が、9人に増員(これは2015年以来のこと)。

石田明、海原ともこ、柴田英嗣、哲夫、博多大吉、塙宣之、山内健司、礼二、若林正恭と、大きく若返った。

中でもサプライズだったのは若林正恭。彼の審査員就任を待望する声は、多くあがっていたが、それが叶うことはしばらくないのではないかと思われていた。なぜなら、それに対して消極的な発言を繰り返していたからだ。

伊集院「(審査員の)依頼されたらどうする?」

若林「僕はできないかもしれないですね。まだネタをやりたいんで。なんか審査員やっていても許されるネタのタイプの人と許されないタイプのネタってあると思うんですよ。オードリーは許されないタイプのネタだと僕は思っていて」

春日「あ、そう? やってほしいけどね、若林くんに」

若林「こんなやつ横にしてさ、人のこと審査してる場合じゃないだろ(笑)」

(※『あちこちオードリー』2023年12月31日)

さらに同番組のサンドウィッチマンの回でもこんなやり取りもあった。

富澤「審査員来たら、やる?」

若林「俺、そこはできないかもなって思ってます」

伊達「でも、若手は若林くんに面白いと思ってもらいたい人、多いと思うよ」

若林「そうですかねえ……」

(※『あちこちオードリー』2024年5月8日)

おそらく若林は、自分が世に出るきっかけになった『M-1』への恩返しや、後輩芸人への責任感などからオファーを受けたのだろう。それは若林だけでなく、他の審査員の多くも同じに違いない。

もちろん主役は審査員ではなく出場者たちだ。大会を前にファイナリスト9組を改めて整理しておきたい。

■前人未到の2連覇なるか

・令和ロマン(東京吉本/2年連続2回目)

なんと言っても注目なのは、前年王者の令和ロマン。前年、「自分たちのため」よりも「大会が盛り上がるため」を最優先して行動した結果、見事優勝を果たした。高比良くるまはその場で「来年も出ます!」と宣言。それがボケでなかったことはすぐに判明した。事あるごとに前人未到の2連覇を目指すことを公言。さらには、M-1優勝後に『ABCお笑いグランプリ』優勝を果たすという珍しい新記録まで樹立した。

そして宣言通り、2年連続のファイナリストに。ある種、ヒール役をまっとうし、まさに「大会の盛り上げ」に一役も二役もかっている。そして真の意味で大会を盛り上げるためには、決勝でも「強い王者」としての戦いをし、優勝争いを繰り広げなければならないことは本人たちも自覚しているだろう。前回も順番や大会の流れに応じてネタを変えた、その高い戦略性で、高く上がったハードルを超え、これまでの常識を破壊してほしい。

・真空ジェシカ(人力舎/4年連続4回目)

いまや近年の『M-1』の“顔”の一組といえる真空ジェシカ。4年連続ストレートでの決勝進出は笑い飯以来の快挙だ(和牛も5年連続で決勝に上がっているが、そのうち2回は敗者復活から)。

決勝では、高い評価を受けつつも6位、5位、5位とファイナルステージに立つことは叶わずにいる。いよいよ機が熟した感のある今年、奇想天外な発想のネタであれよあれよという間に優勝し、その瞬間もボケまくり感動の雰囲気をぶち壊す光景を見てみたい。

・ヤーレンズ(ケイダッシュステージ/2年連続2回目)

前回惜しくも1票差で準優勝となったヤーレンズが、再びファイナリストの舞台に立つ。前年同様、ファイナルステージでの「ヤレロマ」(ヤーレンズと令和ロマンのツーマンライブの通称)対決がまたも実現する可能性は低くはないだろう。

楢原「M-1チャンピオンになりたい。まずそこっていうか、僕は結構そこがゴール。お金も別に。趣味もなにもないんで。今のところ漫才が一番好きだから漫才はやりたい。そのためにみんなに認められたい」

出井「漫才より楽しいこと絶対にないですよ。俺マジでセックスより好きですよ、漫才」(『あちこちオードリー』2024年2月28日)

と、並々ならぬ漫才愛と『M-1』優勝への思いを語っていたヤーレンズ。その飄々とした佇まいとは裏腹の熱い思いが炸裂するに違いない。

■ラストイヤー

・トム・ブラウン(ケイダッシュステージ/6年ぶり2回目)

そんなヤーレンズと同じケイダッシュステージ所属のトム・ブラウンはラストイヤーで、2018年以来の決勝進出となった。

昨年も準決勝に進出していたが敗退。が、事務所の後輩ヤーレンズの決勝進出にみちおは号泣しながら祝福していた。そのときの心境をこう語っている。

みちお「正直、決勝にストレートでいってないという事実わかってる状態で会いに行ってるんですけど、その時点でとても不満だったんです。なぜなら、僕らが今年やった漫才って、漫才コントの歴史に手をかけたつもり。だから不服だったんです。めちゃくちゃ悔しかったんです。いい加減にしろー!ふざけんじゃねぇぞ!と思ったけど、ヤーレンズが呼ばれた嬉しさ。悔しさがめちゃくちゃあった100を、ヤーレンズがいった喜びが1コだけ勝った。101あった。だから自分の悔しさとヤーレンズが行った喜びと泣き崩れてる出井ちゃんを見たら感情を抑えられなかった」(『あちこちオードリー』2024年2月28日)

この言葉からもわかるように、自分たちの漫才にも並々ならぬ自信があったのだ。布川も「もしかしたら合体に匹敵するやつができたかも」と感じたというように、昨年の敗者復活戦では敗れたものの絶大なインパクトを残した。

今年は、「生まれて初めて『有吉の壁』の収録を休んで」挑んだ準決勝を見事勝ち進んだ。

みちお「2018年のときは、優勝を目指していたのに“飛び道具”と言われて、正直ムカついてた。6年越しに決勝行けたので、正直、死ぬほどうれしいです」

(※M-1決勝進出者発表会見)

彼らがインパクトを残すのは、もはや当然のこと。大爆発し、すべてをなぎ倒すように破壊し、優勝する光景が見たい。

・ダイタク(東京吉本/初進出)

2015年に準決勝進出して以降、16~18年は準々決勝、19~21年は準決勝、22年は準々決勝、23年は準決勝と、この10年で5回準決勝、4回準々決勝と好成績を残し、常にファイナリスト候補を言われながらも、あと一歩が届かなかった。そして今年、ラストイヤーにしてついに初の決勝進出を果たしたのだ。

東京吉本の後輩芸人から慕われる彼らの実力は折り紙付き。

「双子」という唯一無二の武器を持った彼らの実力が証明される日になるに違いない。

■新鋭

・エバース(東京吉本/初進出)

初出場組の中でもとりわけ勢いがあるのがエバースだ。いま、もっとも“熱い”といわれる若手育成劇場・神保町よしもと漫才劇場の所属。『M-1』は2022年に準々決勝、2023年に準決勝へ初進出した。敗者復活戦では、トム・ブラウンが、ものすごいインパクトで“焼け野原”状態にした後に登場しながらも、大差で勝利したのも印象深い。

今年は、第9回上方漫才協会大賞 大賞・新人賞にノミネートされたのを皮切りに、各種賞レースで活躍。『ツギクル芸人グランプリ』では3位に輝き、『ABCお笑いグランプリ』でも決勝に進出。さらに『NHK新人お笑い大賞』では大賞を受賞した。

昨年の令和ロマンを彷彿とする勢いを感じる彼らが、その勢いのまま優勝してもまったくおかしくはない。

・バッテリィズ(大阪吉本/初進出)

そのエバースと盟友的関係性なのがバッテリィズ。昨年の準決勝で出会い、東西で同じ野球用語に由来したコンビ名を持つもの同士という共通点から、毎月大阪と東京で交互にツーマンライブしてきた。まさに「ヤレロマ」を思わせるような間柄。昨年のようにツーマンライブしていた2組がファイナルステージ進出となれば激アツだ。

真っ直ぐでピュアで、その名の通り主人公タイプのエースは大舞台でこそ本領を発揮するはずだ。

・ジョックロック(大阪吉本/初進出)

わずかコンビ結成3年目で決勝進出を果たしたのがジョックロック。とはいえ、それぞれキャリアを重ねた末でコンビを組んでいるため、決してその技術が荒削りな訳ではない。その一目見たら忘れられないキャラクターも大きな武器だ。

福本は学生時代、ラジオのハガキ職人だった。そして関西のハガキ職人のオフ会でよく顔を合わせていたのが、ママタルトの槍原だったという。紆余曲折を経てそれぞれが漫才コンビを組み、決勝で再会を果たすのだ。

彼らは今年の『NHK新人お笑い大賞』の決勝で、エバースと一騎打ちして敗れている。その雪辱を晴らす舞台としてこれ以上のものはないだろう。

・ママタルト(サンミュージック/初進出)

身長182cm、体重190kgの規格外の巨漢でもはやバラエティ番組でもお馴染みの大鶴肥満と、同期の霜降り明星・粗品をして「1個のボケの事実をわかりやすくお客さんに伝わるまで説明して最後ちゃんとウケてる」「理想的」と言わしめる独特なツッコミを駆使する檜原洋平からなるママタルトもついに『M-1』決勝の舞台に立つ。肥満のキャラはもとより、檜原のクセになるツッコミもインパクトを残すに違いない。

大学お笑い出身で、令和ロマンとはレギュラー番組『研修テレビ!!』(テレビ朝日)で共演していた。同じく大学お笑い出身の真空ジェシカの川北は、肥満の持ちギャグ「まーごめ」をよく使っている。果たして今大会で先に「まーごめ」を言うのがどちらになるかも、なにげに注目だ。

檜原は肥満と組む時に「俺は大鶴肥満を王にしたいんや」と誘ったという。いよいよ、その宣言が現実になるチャンスがやってきた。

20回目の今大会、何が破壊され、何が生み出されるのか。目が離せない。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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