全日本JSB1000は2台体制のチームが増加!新世代バイクの激戦区となる今季は見逃せない!
オートバイレースの国内選手権「全日本ロードレース選手権」の最高峰クラス「JSB1000」が活気を取り戻し始めている。国内販売市場の低迷で、同レースを戦う各メーカーの体制は縮小傾向にあったが、近年はヤマハがファクトリーチームを参戦させるなどワークス活動が盛んになってきている。そんな中、2017年はいよいよJSB1000に各メーカーが新世代のバイクを投入、さらには国内最大のレースイベント「鈴鹿8時間耐久ロードレース」が40回記念大会を迎えるとあって、各メーカーが体制強化を図ってきたのだ。
2台体制が増加し、ワークス級対決へ
今季のJSB1000はニューマシンの戦いだ。2016年後半に欧州の排ガス規制「EURO4」に合わせたニューモデルを各メーカーが発表。MotoGPなどのレースを通じて培われた電子制御システムを搭載した新世代のバイクがレース車両のベースとなる。すでに新世代バイクに移行していたヤマハ、カワサキに加え、今季はスズキがGSX-R1000を全面リニューアル。さらにホンダも電子制御を進化させたCBR1000 Fireblade SP2をリリース。各メーカーはそれぞれのニューモデルを「JSB1000」に導入する。
さらに今季の「JSB1000」はタイヤがこれまで使用可能だったホイール径16.5インチのタイヤが禁止され、全車が17インチのタイヤに統一される。ブリヂストンとダンロップが激しく争ってきたJSB1000用タイヤの開発競争が一旦リセットされ、新たなパッケージによる時代を迎えることになるのだ。
新時代の幕開けの年ということもあり、今季は各メーカーの「JSB1000」への力の入れようが半端ない。2月にMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)が発表した今季の年間エントリーリストでは、各メーカー主力チームの多くが2台体制で参戦することが明らかになった。
こうした体制強化の背景には「JSB1000」、そしてJSB1000に近い規定で争う夏のビッグイベント「鈴鹿8耐」の立ち位置が見直されてきたことがある。国内のオートバイ販売市場は東南アジアなどのマーケットに比べると厳しい状況は変わらず、全日本ロードレース選手権の観客動員数もまだ人気回復とまではいかない。しかしながら、マシンの開発という意味では自由度が高かった「スーパーバイク世界選手権」が年々制限を厳しくしてきており、タイヤもピレリのワンメイクであるため、各メーカーのお膝元である日本国内で開催されるJSB1000の方がより有効な舞台になってきている。タイヤはブリヂストン、ダンロップ、そして今季からはピレリも加わるマルチメイクの競争だ。
また、近年テレビ放送が世界各国に行われるようになり、現役MotoGPライダーの参戦もあって注目度がグローバルになってきている「鈴鹿8耐」の存在も大きい。JSB1000のレースは「鈴鹿8耐」に向けたマシン開発の舞台でもある。成長市場、東南アジアのライダーも参戦する「鈴鹿8耐」は今後バイク好きたちが1000ccのビッグバイクを所有することになる東南アジアに対してもアピールできる格好の舞台だ。様々な事象とメーカーの思惑が絡み合い、全日本JSB1000は世界で最もコンペティティブなスーパーバイクレースになろうとしている。
今季の注目はスズキ!
2017年の全日本JSB1000に新型GSX-R1000を投入するスズキはワークスチームこそ参戦しないものの、トップチーム体制となる「ヨシムラ」と「TEAM KAGAYAMA」がそれぞれ2台体制を取ることが明らかになった。3月6日(月)に鈴鹿サーキットで開催されたテスト走行では「ヨシムラ」の新型GSX-R1000に乗る津田拓也(つだ・たくや)がコンディションのあまり良くない中でも2分6秒台をマークし、新型の素性の良さを確認。素晴らしい走り出しを披露した。ブリヂストンの17インチタイヤも想像以上に素晴らしいパフォーマンスを発揮している印象だ。
また、「TEAM KAGAYAMA」もチームを率いる加賀山就臣(かがやま・ゆきお)が新型GSX-R1000をテスト。今季は全日本J-GP2の王者に輝いた浦本修充(うらもと・なおみち)をJSB1000にステップアップさせて、体制強化を図ってきた。2台体制になったことで、実戦を通じたダンロップタイヤの開発もスピードアップが期待できるだけに、今季の注目度は非常に高い。
テストではホンダの高橋巧がトップ!
新型マシンCBR1000RR Firebkade SP2を投入するホンダ陣営のトップチームとなるのが「MuSaShi RT HARC PRO(ハルクプロ)」。チーム体制は高橋巧(たかはし・たくみ)のライダー1人だが、新型のワークスマシンを得てどんな走りを見せてくれるか注目だ。
ただ、ホンダは3月6日(月)のテスト走行には新パッケージが間に合わず、新旧ハイブリッドなマシンで走行。17インチタイヤを装着して、2分6秒652でこの日のトップタイムを記録。ここ最近にはないポジティブな開幕前テストになった。ただ、先行して始まった「FIM スーパーバイク世界選手権」に投入された新型CBRは開幕の2戦で大苦戦。全日本JSB1000の開幕までに時間があまりない中、限られたテスト日数でいかに高橋巧がマシンをまとめていけるか気になるところだ。
また、「鈴鹿8耐」を見据えたもう1台のワークスマシンは今年も「F.C.C. TSR Honda」に委ねられるとみられる。同チームは今季、FIM世界耐久選手権にフル参戦中で、全日本JSB1000にはスポット参戦となる。4月の開幕戦・鈴鹿にはフランス人ライダーのアラン・テシェが新型CBRで参戦する。テシェの全日本JSB1000での速さは未知数だが、冬の間、FIM世界耐久選手権に向けたテストで鈴鹿を走り込んでいたので問題ないだろう。
また、今年から鈴鹿8耐に9年ぶりに参戦する「モリワキ」は今季から清成龍一(きよなり・りゅういち)と高橋裕紀(たかはし・ゆうき)の2台体制となる。こちらもニューマシンがまだ間に合っておらず、3月5日(月)のテスト走行は新しくパートナーを組むピレリのタイヤを装着してのテストとなった。森脇護(もりわき・まもる)総監督は独自開発のスイングアームなどモリワキ独自のモディファイを施して戦うことを表明している。
若手ライダー達の参戦に注目!
新世代のバイクによる新しいJSB1000はマシンの変化が楽しみだが、2台体制を取るチームの増加で、若手選手たちの活躍にも期待だ。ベテランの開発能力に頼りきりだったJSB1000にフレッシュな顔ぶれが参戦することで新たなファン層の拡大が期待されている。
ヤマハのワークスチーム「YAMAHA FACTORY RACING」には王者の中須賀克行(なかすが・かつゆき)に加えて、ヤマハが手塩にかけて育てる期待の若手ライダー、野左根航汰(のざね・こうた)が加入。JSB1000の初優勝、チャンピオン獲得を命ぜられた若干21歳の若武者の覚醒に大いに注目が集まる。そして「YAMALUBE RACING TEAM」からは引き続き、藤田拓哉(ふじた・たくや)が参戦する。
また、カワサキの「Team GREEN」にはホンダから渡辺一馬(わたなべ・かずま)が移籍し、エースとなる。チームメイトには全日本ST600からステップアップの松崎克哉(まつざき・かつや)を起用することになり、ベテランの柳川明(やながわ・あきら)はスポット参戦となった。チーム体制一新の今季、若き2人のライダーは新たなカワサキファンを作り出す可能性を秘めている。
そして、若手ライダーで最注目は津田拓也と2台体制になる「ヨシムラ」に起用されることになった濱原颯道(はまはら・そうどう)だ。昨年、鈴鹿8耐のテストで驚異的なタイムをマークしてパドックをざわつかせた22歳のライダーが名門「ヨシムラ」からチャンスを得た。1000ccスーパーバイクでのレース経験は鈴鹿8耐を含めても僅か3戦。ポテンシャル未知数のライダーを大胆起用する「ヨシムラ」からの正式発表は3月24日(金)に「東京モーターサイクルショー」で行われる。
いろんな意味でまだまだ未知の要素も多い今季の全日本JSB1000。鈴鹿8耐の体制発表を含め、今季は予測不能な戦いの構図で日本のロードレースが活気にあふれそうだ。全日本ロードレース選手権JSB1000は4月22日(土)23日(日)、鈴鹿サーキットで開幕する。
【全日本ロードレースJSB1000 日程】
4/22-23 鈴鹿サーキット(200km耐久レース)
5/13-14 スポーツランド菅生(120マイル耐久レース)
6/10-11 ツインリンクもてぎ
6/24-25 オートポリス
8/19-20 ツインリンクもてぎ
9/9-10 オートポリス
9/30-10/1 岡山国際サーキット
11/4-5 鈴鹿サーキット(2レース制)
全8ラウンド、9戦
※7/27-30 鈴鹿8時間耐久ロードレース(FIM世界耐久選手権)