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【アフガニスタンを歩く②】「私たちには夢があった」声上げる20代 ロシア軍侵攻後に統制強まるカブール

舟越美夏ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表
2021年8月、アフガニスタンの首都カブールで抗議デモをする女性たち(提供写真)

この記事はAERAdot.(https://dot.asahi.com/)からの転載に加筆したものですhttps://dot.asahi.com/dot/2022031600099.html

 飛び立つ米軍機にぶら下がる人々の衝撃的な映像で、2021年夏に世界の注目を浴びたアフガニスタン。イスラム主義組織タリバンのカブール制圧と米軍の完全撤退で起きた悲劇を、国際社会はもう過去の出来事として忘れているようだ。しかし実際には市民の生活は悪化の一途を辿っている。米国内のアフガン資産が凍結されたことなどで経済が崩壊し、国民の半分は飢餓に直面しているのだ。それでもタリバン暫定政権の取り締まりと統制は、ロシア軍がウクライナに侵攻した頃からさらに強まった。大規模な家宅捜索、ジャーナリストや大学教授の拘束、公立中学・高校での女子教育復活の撤回。アメリカ平和研究所は「ウクライナ侵攻で、国際社会からの援助や関心がアフガンから奪われ、タリバンは支配を強化する」とし、大規模な人道的災害が起きる可能性を警告した専門家の論文を掲載した。

 女性の権利と自由を求めて抗議デモをした10代、20代の女性たちも今はタリバンの標的となっている。脅迫を受けながらもアフガニスタンに留まる女性たちに会った。

「通りでよく男たちを殴ってたの」

 マリアム(24)がカフェに入ってくると、周りの空気が一瞬、揺れる。くっきりとした眉と長いまつ毛に縁取られた大きな瞳、ブラウン系のリップ、礼儀正しさと人懐こさが混じった微笑み。タリバンがカブールを制圧する前まではモデルクラブに所属していたということも頷ける華やかさがある。ベージュのスカーフは、彼女の黒髪だけでなく、秘めた闘志も巧みに覆っているのだ。

 「何年か前までは、通りでよく男たちを殴ってたの」と言う。テコンドーの道場に通っていた18歳ごろのことだ。すれ違い様に手や足に触れる男たちが我慢ならなかった。「ちょっと待って」と呼び止め、殴った男に殴り返され、顔が腫れたこともあった。

 「私たちには夢があった」。前政権の汚職にはうんざりしていたが、大学でビジネスを学び、「アフガニスタンのビル・ゲイツ」を目指していた。だからタリバンが復活したあの夏、「未来を奪われた」と感じ、いち早く逃亡したガニ大統領ら政治家に怒りが湧いた。

 アフガニスタンは多民族国家で、タリバンの主要な構成民族、パシュトゥン人は女性に関して極めて保守的だ。「タリバンはいい人たち」と語るパシュトゥン女性もいるが、タジク人であるマリアムには行動や教育、職業など女性の行動を厳しく規制するパシュトゥンの慣習はなじめない。

 友人のラムジア(22)たちが、女性の自由と権利を求めるデモをすると聞いた時、マリアムは「参加しなくちゃ」と思った。

「デモなんて、あばずれがやるものだ」。父はそう言い、弟たちも反対したが、マリアムは振り切った。

「ここは私の国よ。女性たちは互いの力が必要で、私にも責任がある」

 自分の可能性を試したいと夢に向かって歩いていたのに突然、道を塞がれて止められ、罰せられたようだった。「私たちの罪は何?」。プラカードにそう書いた。通りで見ていた男たちは「女がやることか」と嫌な顔をした。タリバン兵士に囲まれ、銃を突きつけられたり、催涙ガスを撒かれたりした。それでも女性たちはデモを何度も実行したのだ。

「抵抗以外に選択肢がない」

 ある日の午後、カフェラテとチョコレートケーキをはさんで、マリアム、ラムジアの2人と話をした。

「勝てないかもしれないけれどやるしかない」と語るラムジア(筆者撮影)
「勝てないかもしれないけれどやるしかない」と語るラムジア(筆者撮影)

 「外交官になりたかった」とラムジアは言う。大学では国際関係論を学んだ。しかし、タリバンが政権を握っている限り、女性が外交官になるチャンスはない。「命令されて、家に閉じ込められて結婚して、子供を4人産むだけしか許されない未来なんて、私はいや」。前政権のために戦っている訳じゃない。人生の選択の自由を取り戻したいのだー。ラムジアの黒目がちの目に、鋼のような意志がのぞく。

 それでも、デモに参加した彼女たちは今、追われる身だ。「タリバンのスパイから尾行されているかもしれないから気をつけて」とラムジアはマリアムに忠告する。米CNNテレビのインタビューを受けたラムジアの親友は1月中旬、武装した男たちに自宅で拘束され、2月中旬に解放されるまで行方不明だった。

 地元ジャーナリストが人権活動家の話として語ったところによると、北部マザリシャリフでは、タリバンに拘束された複数の女性がレイプされた。事実だったとしても、家族の名誉を重んじる文化の中では被害が公になることはない。不名誉だとして、被害者が肉親に殺されることもあるのだ。

 マリアムとラムジアも、タリバンと名乗る男の声で「お前たちを見つけ出す」と脅迫電話を受けた。通りを歩く時、二人はマスクで顔を隠し髪を覆うスカーフを変える。ラムジアは毎晩、寝る場所を変えている。デモもしばらく中断を余儀なくされたが、女性たちはこれで終わりにするつもりはないという。

「危険なことは分かっている。でも私たちには他に選択肢がないの」と2人は言う。現実の重さに、頭痛がしたり胸が痛くなったり、気持ちが落ち込んだりすることがあるのは無理もない。それでも「この国の未来に責任がある」と思う。「もし国を出なければならなくなっても、国外でアフガニスタンのために働きたいし、いつか帰ってくる」

 ラムジアには、フェイスブック上でタリバンの友達がいる。タリバン内の最強硬「ハッカニ派」の有力者で35歳だと明かしたその男性は、カブール制圧前は、日々の戦況を自慢げに教えてくれ、「困ったことがあったら相談してくれ」とまで言っていた。ラムジアが実は大胆に行動する固い意志を持った女性であるとは、柔らかな笑みを浮かべたプロフィール写真から、彼は想像できないのだろう。

(了)

ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

元共同通信社記者。2000年代にプノンペン、ハノイ、マニラの各支局長を歴任し、その期間に西はアフガニスタン、東は米領グアムまでの各地で戦争、災害、枯葉剤問題、性的マイノリティーなどを取材。東京本社帰任後、ロシア、アフリカ、欧米に取材範囲を広げ、チェルノブイリ、エボラ出血熱、女性問題なども取材。著書「人はなぜ人を殺したのか ポル・ポト派語る」(毎日新聞社)、「愛を知ったのは処刑に駆り立てられる日々の後だった」(河出書房新社)、トルコ南東部クルド人虐殺「その虐殺は皆で見なかったことにした」(同)。朝日新聞withPlanetに参加中https://www.asahi.com/withplanet/

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