『ONE PIECE』のジンベエの得意技は「五千枚瓦正拳」。 いったいどれほどの実力を持っているか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『ONE PIECE』において「海侠のジンベエ」は、かつて世界政府に認められた「王下七武海」のメンバーであった。
だが、「エースの処刑」に異を唱えて投獄されたり、エースを亡くして放心するルフィを救い出し、精神的にも支え続けたり……と、仁義に篤いところを見せ、ついに「麦わらの一味」の仲間に入った。初登場から、なんと11年後のことである。
ものすごく心強いが、このヒトの技について、筆者はどうしても気になることがある。
彼は魚人空手・魚人柔術の達人で、その技の一つが「五千枚瓦正拳」。
すごくないですか、このネーミング?
「正拳突きで、瓦を5千枚も砕く」ってコト!?
マンガに、ジンベエが5千枚もの瓦を割るシーンが出てきたわけではない。
でも、大監獄インペルダウンの巨大な獄卒獣を高々と空に殴り飛ばしていたから、相当な威力なのは確実だろう。
そこで、ジンベエの正拳が本当に瓦5千枚を割れるとしたら、それがどれほどスゴいことなのかを考えてみたい。
今後のジンベエの活躍を予想するためにも!
◆瓦を5千枚積むと?
空手家は、その実力を示すために瓦を割る。筆者がそれを知ったのは、実録マンガと謳われた『空手バカ一代』を読んだときだった。
山ごもりの修行から戻ってきた大山倍達先生が、瓦17枚を「つあーっ!!」と割ったのだ。
瓦にもさまざまな形や大きさがあるが、空手の試技で使われるのは、全体がゆるやかに湾曲した「のし瓦」というタイプのようだ。
瓦会社のホームページを見てみると「のし瓦」のサイズは25.2cm×21cmで、厚みは両端が3cmくらい(中央に向かって薄くなる。真ん中は2.5cmほどか)。
これを17枚も積み上げると、高さは51cmになる。5千枚だったら、なんと150m! 東京タワーのメインデッキと同じ高さだ。
これほどの枚数となると、瓦を積むだけでも大変だろう。
途中で倒れたりしないように、まずは高さ150mの足場を組むところから始めたほうがいい。
そして1枚1枚そ~っと慎重に重ねていく。1枚の瓦が髪の毛1本分=0.1mmずつズレただけでも、5千枚だと合計50cmもズレてしまうからだ。
そうならないように、1枚に3秒かけて丁寧に積んでいった場合、合計で1万5千秒=4時間10分かかる。
もちろん、おカネも必要だ。
調べてみると、のし瓦の厚いタイプで税込み1枚336円。5千枚だと168万円!
これに足場を組む料金もかかるし、筆者だったら、とても一撃で叩き割る気にはなりません。
◆一気に25m落下する!
などと小物っぷりを発揮している筆者だが、そもそも高さ150mまで積み上げた瓦をどうやって割ればいいのか?
ジンベエにとっても、それは容易ではないだろう。
てっぺんが高さ150mにあるのだから、地上にいたのでは割れない。積み上げ工事に使った足場に乗って、真上から叩き割るしかないだろう。
問題は、瓦に打撃を加えるときのフォームだ。
空手の試技では、大量の瓦を割る際には、しばしば「寸勁(すんけい)」が使われる。
腕を伸ばして瓦に手のひらを当て、瞬間的に全体重をかける技で、大きな衝撃を加えて割るもの。
とはいえ、この割り方はジンベエにはオススメできない。
瓦に全体重をかけるということは、高さ150mに積まれた瓦のタワーにわが身を預けるということ。恐ろしいと思う!
仁義に篤いあふれるジンベエが、勇気を振り絞って実践したらどうなるか?
瓦は中央部が薄くなっていて、瓦と瓦のあいだには隙間があるため、上から順に割れていくごとに、瓦タワーの高さは低くなっていく。
両端の厚さが3cmで、中央部が2.5cmなら、隙間は各5mm。その場合、5千枚で25mも降下するのだ!
全体重をかけていた瓦が、あっという間に25mも崩れ落ちたら、当然ジンベエ自身も落ちていく。やっぱりキケンすぎて勧められない。
このように考えると、ジンベエの技が「五千枚瓦“正拳”」なのもナットクである。
寸勁のように、瓦に体重をかけるのではなく、体重を足場に残したまま、正拳のエネルギーのみで5千枚の瓦を割る……ということだろう。
しかし、これは恐るべきことだ!
◆マッハ92の正拳突き!
なぜ「恐るべきこと」なのか。
それは、全体重をかけて打つ寸勁と違って、正拳突きの場合は、その1発にすべての瓦を割るエネルギーが込められていなければならないから。
もう途方もないスピードが要求される。
これができるとしたら、可能性があるのは「割れた瓦が下の瓦にぶつかるエネルギーで、ドミノ倒しのように順次割れていく」ケースではないか。
つまり、ジンベエが正拳を打ち終えた後も、瓦は下に向かって順次バリバリ勝手に割れ続けていく……はず。
どんな正拳突きを放てば、そんな現象が起こるだろう?
仮に、瓦1枚が50cmの高さから落とせば割れると考えよう。その場合、途中の瓦がドミノ式に割れていって、いちばん下の瓦にそれだけのエネルギーが伝わるとしたら、5千枚の瓦がすべて割れることになる。
この場合、ジンベエの正拳に要求されるスピードは、マッハ92!
この正拳で打たれたいちばん上の瓦は、「1千万分の1.6秒後」にマッハ46で2番目の瓦にぶつかり、これによって3番目の瓦は「1千万分の3.2秒後」にマッハ31で3番目の瓦にぶつかり……を繰り返していく。
瓦の破壊が進むほど、次の瓦にぶつかるまでの時間は長くなるが、それでも5千枚目が割れるのは1.996秒後!
たった2秒で、5千枚の瓦がバリバリバリバリ~ッと割れるということだ。
ジンベエが身長301cmの体でこれを実現できるなら、放った正拳の衝撃力は2400万t。うおっ、強い!
麦わらの一味には、こんなに強力な仲間が加わったのだ。
『ONE PIECE』最終章での活躍が楽しみである。