母離れ、独り立ち、ままならない恋愛…。女性の揺れる心情を「セリフではなく画で感じてもらえたら」

そのタイトルにあるように「さようなら」という言葉に含まれるさまざまな別れであり、何かから離れること、去りゆくことの意味をかみしめる映画といっていいかもしれない「グッドバイ」。
まだ何者にもなれていない女性の不安や焦燥感、心の隙間を浮かびあがらせ、ひとつの区切りと旅立ちを描いた新鋭、宮崎彩監督に訊くインタビューの後編へ。前回のインタビューは主に主人公・さくらに込めた想いや作品の成り立ちについて触れたが、引き続き作品世界について訊く。
状況や設定をセリフで言わせることには抵抗がありました
本作の大きな特徴のひとつにあげていいのが、あらゆる状況説明を排除している。多くのことをあえて見せない、多くのことをあえて語らないことが徹底されている。
前回に触れた父の存在が象徴するように、彼のバックグラウンドやなぜともに暮らしていないのかなど、触れられてない。
説明過多が当たり前となった現在の映画に入ると、思い切った試みといっていいだろう。
「状況や設定をセリフで言わせることには抵抗がありました。
なぜなら、物語の都合で、登場人物によけいな説明をさせると、その人物自体がぼやけてしまう。そうしたくなかった。
さくらには25~26年の人生があったわけですけど、その時間の3カ月ぐらいだけを切り取って、そこで起こったことだけを画に映すことで彼女の過ごしてきた時間というものも微かに感じられればいいと思いました。
日々の暮らしの中で、都合良く母親が、さくらが透けてみえるようなことを言うのはありえない。
生活の一場面で、そういったセリフを挟みこむのは違うと思ったんです。それであえて説明をする必要はないと判断しました。
背景自体は事細かく用意していました。でも、実際はすべて説明することはなかった。
どこまで見せるのかすごく悩みましたけど、さくらの目の前で起きていることだけを切り取って、あとは見てもらった人に委ねようと思いました。
背景がよくわからないという意見があることはもちろんわかりますが、わたしの中では、これだけでも十分さくらの時間は伝わると思ったんです。むしろ映画の完成をみて『説明し過ぎちゃったのではないか』と心配したくらい。
たとえば母の夕子とさくらが朝ご飯の後、『お父さんのどこが好きだったの?』『何考えてるか分かんないとこかな』と会話するシーンがありますけど、実は脚本上ではそのあとにもセリフが続いていたんです。
でも、ここで母は饒舌に父のことをしゃべらないな、とカットしました」

ラストシーンを撮ったときは
「これ以上のものをこのあと撮れない」と思いました
多くをセリフで語らず、映像でなにかを感じてもらう。その真骨頂と言っていいシーンは主人公のさくらのいろいろな思いが交差しているといっていいラストシーンに集約されているかもしれない。
「あのシーンは、自分でも思い出深いものになりました。
福田(麻由子)さんが歩んできたキャリアと、さくらという主人公の人生が交差し、少女からひとりの女性へと変わる瞬間が収められたのではないかと思っています。
あのラストショットは撮影全体の中では後半に挑んだんですけど、当日はそのシーンのあとにもいくつか撮らなければいけないショットがあったんです。
でも、福田さんのあの演技をみたら、私、放心状態になってしまって。『もうここで終わっていい』と。『これ以上のものをこのあと撮れない』と思いましたね」

今回が初の長編監督作品。今後をどう考えているのだろうか?
「モノづくりは続けていきたい。ただ、それが必ずしも映画じゃなくてもいいと思っているところもあります。
この先も、映画が撮り続けられたら嬉しいけれど、まずは自分がおもしろい、やりたいと感じたことを実現できるモノづくりをしたい。
撮りたいこと、物語として書きたいことがいっぱいあるので」

「グッドバイ」
渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・編集:宮崎彩
出演:福田麻由子 小林麻子 池上幸平 井桁弘恵 佐倉星 彩衣 吉家章人
撮影:倉持治 照明:佐藤仁 録音:堀口悠、浅井隆 助監督:杉山千果、吉田大樹
制作:泉志乃、長井遥香 美術:田中麻子 ヘアメイク:ほんだなお
衣裳:橋本麻未 フードコーディネート:山田祥子 スチール:持田薫
整音効果:中島浩一 ダビングミキサー:高木創 音楽:杉本佳一
公式サイトはこちら
場面写真はすべて(C)AyaMIYAZAKI