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「出張でしか来たことがないけれど…」 温泉ライターがそれでも札幌に移住した理由

高橋一喜温泉ライター/編集者

筆者は雪が降り積もる1月の札幌に、家族とともに移り住んだ。2021年の話だ。それまで温泉旅行と出張で計10回ほど北海道に来たことがあったが、親戚がいるわけでもなく、特に深いつながりはなかった。

しかも、北海道旅行は函館や小樽、稚内、屈斜路湖、知床など自然豊かな観光地ばかりを訪ねたので、札幌は出張で2、3回来た程度。札幌に関する情報は、ほぼない状況だった。

妻に関しては、札幌はおろか一度も北海道に足を踏み入れたことがなく、もちろん幼い娘も初めての北海道。

しかも、筆者は暑いのも嫌いですが、寒いのも大嫌い。北海道に住もうなどとは考えたこともなかった。

にもかかわらず、なぜ札幌に移住することになったのか。

自然豊かな環境で子育てをしたい

大きな理由は、当時3歳の娘を自然豊かな環境で育てたかったから。

それまで筆者は東京の新宿区に住んでいた。交通の便がよく、何かと刺激的な街にひかれて住んでいたのだが、年齢を重ねるとともに、人の多さに辟易することも増えていた。

翌春に幼稚園に上がる予定でいた娘のために、新宿区内の幼稚園をいくつか見学したが、土地柄からビルの谷間に幼稚園があるようなロケーションで、通園する道には車の交通量も多い。見学するたびに、「なんだかなあ」という違和感が膨らんでいった。

すると、妻も同じようなことを考えていたようで、突然「もっと落ち着いた場所に引っ越したい」と言い始めた。ド田舎である必要はないが、もう少し自然のある場所で子育てをしたいという思いは、夫婦ともに共有していたのだ。

鎌倉か? 別府か?

そして、引っ越し先の候補地選びが始まった。妻はピンポイントで鎌倉を押してきた。雰囲気のいい町だけれど、観光客が多いのが引っ掛かった。また、温泉ライターである筆者は全国各地へ温泉旅に行くのも仕事なので、鎌倉はアクセスがよくないのもネックでした。羽田に移動するのも大変で、新幹線に乗るのも東京在住のときより不便だ。

筆者の一押しは大分県の別府市だった。日本一の温泉都市だから、街中に温泉がある。温泉で成り立っている街といっても過言ではない。自然も多い。昔から温泉地に住むなら別府がいいなと思っていた。

ところが、妻は乗り気ではなかった。はっきりした理由は覚えていないが、とにかくイメージがわかなかったのだろう。筆者自身も、アクセス面で少し不安があった。大分空港からわりと近いとはいえ、実際に全国に移動するにはあまり便利とはいえない。

しばし引っ越しの話は停滞することに。

まさかの「札幌いいね!」

幼稚園の入園が半年後に迫っていた。引っ越すならそろそろタイムリミット。このまま決まらなければ、なんとなくそのまま住み続けることになる・・・。そんな雰囲気が漂い始めた頃、突如として「札幌はどう?」と妻に訊いている自分がいた。

今考えても不思議だが、本当に思いつきとしか言えないアイデアだった。寒いのは嫌いだし、それまで候補として考えたこともなかったのだから。

すると、妻は「札幌はいいかもね。花粉症はないし」と一言。「一度も札幌に行ったことがないくせにいい加減だな」と少し呆れたが、ここから一気に札幌移住の話が進み始めたのだ。

よく考えてみると、札幌は全国レベルでも大きな都市で、生活に困ることはなさそうだ。しかも、札幌から少し離れれば、観光地にもなっているような大自然が広がっている。自然の豊かなところで子育てをするという目的にはかなっている。

ドラマ『北の国から』のような場所に住むのは現実的ではないが、札幌なら暮らしも便利なはず……。

都市と自然のバランスが絶妙

実際、引っ越してみてわかったことだが、札幌は都市機能が集中しているので、札幌駅や大通、すすきのあたりに来れば、ほぼすべてが揃っている。買い物もラク。

中心部を離れれば円山や真駒内など自然豊かな環境に気軽にアクセスできるし、大きな公園も多い。東京の公園のように遊具の前に行列ができることもない。

つまり、都会すぎず、田舎すぎない。都市と自然のバランスがちょうどいいという印象だった。

全国各地へのアクセスもよい

各都市へのアクセスも意外と便利。新千歳空港までは1時間ほどで、全国各地を結ぶ路線が充実している。仕事で東京に行くときも、便数が多く、料金も安めなので、いざというときも安心だ。

唯一の心配は雪だった。雪国の暮らしに順応できるのか。まわりの人に取材してみると、「不便と言えば不便だけどすぐに慣れる」とのこと。しだいに「地下鉄の駅近くに住めばなんとなるのでは」「東京の暑さに比べたら雪のほうがましなのでは」と楽観的な気分が優勢になっていったのだ。

実際、3度の冬を越してみて感じたのは、「寒いけれど意外と平気」ということ。たしかに寒いことに変わりはなく、雪が積もれば不便だ。しかし、心配するほどではなかった。

むしろ娘は雪に大喜び。毎日のようにソリがしたいと言って、近所の公園で遊びまくっていた。その笑顔を見られただけでも、札幌に引っ越してよかったと思わされたのである。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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