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低緯度なのに大きな予報円の台風28号 ひょっとして先島諸島接近?

饒村曜気象予報士
台風28号の雲(二重丸)と熱帯低気圧の雲(丸)(11月27日15時)

台風予報円の誕生

 台風の進路予報を表示するのに、昭和57年(1982年)6月の台風5号から予報円が用いられています。

 それまでの約30年間は、予報に誤差幅をつけた「扇形表示(進行速度は難しいので一本の線上に表示)」でした(図1)。

図1 台風の扇形表示
図1 台風の扇形表示

 戦後の日本は、大きな台風災害が相次ぎ、死者が4桁(1, 000名以上)の大惨事となるのが珍しくありませんでした。

 それを何とか減らすために、何とか進行方向だけでも正しい予報を出して防災に役立てようとする当時の予報官達の苦労の結晶が「扇形表示」です。

 しかし、最初から大きな欠点を持っていました。

 それは、予報誤差には、進行方向と進行速度の2種類があるのですが、扇形表示ではその形から、進行方向の誤差が全くないかのような印象を与え、「台風はまだ来ないだろう」と人々に誤った判断をさせてしまったことです。

 そこで考えられたのが、「予報円」を用いた表示方法です

 台風の予報誤差には,進行方向と進行速度の2種類がありますが、多くの例で調査すると、両方の誤差がほぼ等しく、予報位置を中心とした分布となっています。

 精度の良い予報になればなるほど予報位置の回りに集中した分布となり、精度の悪い予報ほど周辺部にも広がっている分布となります。

 予報の精度を簡単に表すには、この予報位置のまわりにどれ位集中してくるかということを示せば良いのです。

 気象庁の発表する予報円表示の予報円は、表示の簡明さ、情報伝達のわかりやすさ等を考え合わせ、円の中に70%の予報が入るということで半径を決めた予報円を採用しています。

 このため、予報円の半径は、ほぼ台風の進路予報誤差の平均に対応しており、進路予報誤差の平均が小さくなれば、予報円は小さくなります。

どんどん小さくなる予報円

 台風の進路予報誤差の平均は、気象衛星「ひまわり」観測の高度化や、コンピュータの飛躍的な性能アップを背景とした数値予報と呼ばれる予報法の改善を受けて、どんどん小さくなっています。

 予報円が採用された頃の台風進路予報誤差は、24時間予報で200キロメートルを超えていました。

 48時間予報が始まった平成元年(1989年)での24時間予報の平均誤差は200キロメートルを切り、120時間予報が始まった平成21年(2009年)には約100キロメートルになっています。

 そして、現在では約80キロメートルと、予報円表示が始まった頃の3分の1の予報誤差です(図2)。 

図2 台風進路予報の年平均誤差(昭和57~平成30年(1982~2018年))
図2 台風進路予報の年平均誤差(昭和57~平成30年(1982~2018年))

 48時間予報、72時間予報、96時間予報、120時間予報すべてにおいて、同じ傾向がみられます。

 気象庁が令和元年(2019年)6月21日に報道発表した資料によると、「精度が向上した最新の台風進路予報を用いると、予報円の半径をこれまでよりも約20パーセント小さくすることが可能」としています(図3)。

図3 改善前後の予報円半径(平成28~30年(2016~2018年)の検証結果)
図3 改善前後の予報円半径(平成28~30年(2016~2018年)の検証結果)

 このような予報円の大きさの縮小は、これまでも適宜行われてきました。

予報円の面積は4割減

 令和元年(2019年)から予報円の半径が約20パーセントも小さくなることは、予報円の面積が約40%も小さくなったことに対応します。

 このため、台風15号や台風19号など、大きな台風災害が相次いだ令和元年(2019年)ですが、台風の予報円が小さくなったのではと感じた人が多かったと思います。

 台風15号は予報円のほぼ真ん中を通って千葉市付近に上陸していますし、台風19号も予報円のほぼ真ん中を通って伊豆半島に上陸しています。

台風28号の進路予報

 台風28号が発生したグアム島近海の海域の海面水温は、台風が発生・発達する目安となる27度よりも高い29度以上です。

 台風28号の進路予報では、東経140度線を越えたあと北上し、そのあと、少し停滞してから西へ向かう予報です。

 北上か西進か、ちょっと迷ったあと、この季節に多い西進をするという見えますが、海面水温が29度以上の海域を進んでいますので発達します。

 そして、30日(土)には、フィリピンの東海上で非常に強い台風になりますが、予報円は非常に大きくなっています(図4)。

図4 台風28号の進路予報(11月27日21時)
図4 台風28号の進路予報(11月27日21時)

 台風予報は最新のものをお使いください

 一般的に、台風進路予報の平均誤差は、進行速度が大きく変化しない低緯度ほど小さく、転向や加速がある高緯度では大きくなります。

 つまり、高緯度では全体の平均より大きな予報円、低緯度では全体の平均より小さな予報円となるのが普通です。

 ただ、令和元年(2019年)の台風28号は、低緯度にあるにもかかわらず、平均より大きな予報円です。

 より高緯度にあった令和元年(2019年)の台風19号の予報円が全体の予報円の平均より小さかったのと対照的です(図5)。

図5 令和元年(2019年)の台風19号と台風28号の予報円
図5 令和元年(2019年)の台風19号と台風28号の予報円

沖縄ヘの影響は

 気象庁の台風予報は5日先までなので、6日目以降に台風28号が沖縄県先島諸島に接近するかどうかは、今の段階ではわかりません。

 ただ、海面水温が高い海域を西進ですので急速な衰弱は考えにくいと思います。

 予報円が大きく、暴風警戒域も大きく、そして衰えないとすると、沖縄県先島諸島に接近し、暴風警戒域がかかる可能性がでてきます。

 沖縄や小笠原といえども台風シーズンが終わる12月上旬ですが、予報円が小さくなって過ぎ去るまでは、台風情報に注意が必要です。

タイトル画像、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:気象庁資料を元に著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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