「新型コロナは怖いけど…」サラリーマンの悲哀伝える海外メディア
新型コロナウイルスの感染者数が増え続け、爆発的増加のリスクも日増しに高まっている日本。しかし、政府は緊急事態宣言の発令に慎重姿勢を崩さず、国民が外出を控える動きも鈍い。海外に比べて明らかに危機感が低いように見える日本の現状を伝える海外メディアは、日本社会の特殊性に焦点を当て始めている。
通勤電車は依然、混雑
米CNNは3日、「新型コロナのパンデミックの最中でも、日本人はシンゾウ・アベが強制しない限り、在宅勤務はしないだろう」と題した東京発の記事を配信した。
記事は「スーツ姿のサラリーマン(salary men)が混雑した通勤電車に乗り込む姿は、東京ではおなじみの光景だ」という文章で始まる。和製英語である「サラリーマン」を欧米のメディアがわざわざ使う時は、仕事優先の日本人のライフスタイルを揶揄(やゆ)する意図が、多かれ少なかれ、込められている場合が多い。
次いで記事は、「小池百合子東京都知事が、都民に対し可能ならテレワークをするようお願いし、ホンダやトヨタ、日産などの大企業は、社員に対しテレワークを要請したが、依然、多くの会社員は、満員の地下鉄に乗って通勤している」と、満員電車の写真付きで、日本の現状を伝えた。
(このCNNの記事とは別に、米グーグルは3日、スマートフォンの位置情報データを基に、新型コロナの感染拡大後の各国の人々の移動状況を分析した結果を公表した。それによると、日本国内の通勤に伴う移動は、普段に比べて9%の減少にとどまっている。東京都だけ見ると27%減っているが、それでもニューヨーク州の46%減、パリを含むフランスのイル・ド・フランス地域圏の63%減、ロンドンを中心とする英国のグレーター・ロンドンの62%などと比べ、なお人々の移動が活発なことがわかる。ちなみに、日本国内の他の主要地域では、大阪府が7%減、愛知県が5%減などとなっている。)
「過労死」を招く文化
現状を伝えたCNNの記事は、次に、密閉・密集・密接のリスクを承知の上で日本人が毎日、出勤し続ける背景を、当事者や識者のコメントを交えながら、指摘し始める。
背景として真っ先に挙げたのが、「日本の悪名高いハードワーク文化」だ。今や海外でも有名な「過労死(karoshi)」という日本語を改めて取り上げ、その意味を解説。さらに、50代の男性会社員のSNS上でのつぶやきを、次のように紹介した。
「みんな、新型コロナのことは常に頭の中にあり、とても恐怖感を抱いています。しかし、平均的な日本人にとって、仕事はいつも最優先事項であり、何をするにも一番の言い訳になる。私たちは、仕事の奴隷なんです」
また、日本では依然、65歳以上の高齢者が会社の中で重要なポジションに就いているが、彼らの多くはIT機器を使いこなせず、それがテレワークの普及を妨げる一因になっていると指摘。さらに、日本独特のハンコ文化や、夜遅くまでオフィスにいることが評価される企業文化などを、新型コロナの感染が広がる中、サラリーマンが会社に行かざるを得ない理由として列挙している。
従順な国民性に期待
一方、米ブルームバーグは1日、なぜ日本政府がこの期に及んで緊急事態宣言を出さないかを解説する記事を掲載した。
記事は、日本の社会は、戦前の帝国主義の反省から政府が国民の私権を制限することに非常に敏感なため、緊急事態宣言も、欧州のような強制力を伴ったものにはならないと解説。そのため、たとえ安倍首相が緊急事態宣言を出しても、力尽くで国民を従わせることはできないと指摘している。
一方で記事は、東京都と周辺の県の知事が3月26日、共同メッセージを出し、住民に外出自粛を要請したところ、多くの住民が要請に素直に従い、その結果、山手線の乗車率は大きく下がり、繁華街が閑散となるなど、一定の効果を上げたことを紹介した。
こうしたことから記事は、「日本の最も強力な新型コロナ対策は、(権力に)従順な国民性に期待することだ」と結論付けている。