【南北首脳会談】文在寅と金正恩、ふたりのリーダーの破格的会話録。「北の交通は不便なので…」
かなり豊富な情報。韓国側スポークスマンが会話の詳細を発表。
27日に開催された韓国と北朝鮮による南北首脳会談。韓国メディアの報道によると、事前協議で多くの内容が決まっていたが、当日のトップ会談の結果の発表方法は定まっていなかったという。共同声明を発表するのか、それぞれの発表で終わるのか。結果、「板門店宣言」として共同宣言が記された。「今日のところは少なくとも大成功」といったところか。これが履行されるか、そして史上初の米朝首脳会談にどう繋がるかで真の結果が見えるのではないか。
00年、07年に続き3度目の開催だった。初の韓国側での開催のため、過去2回よりも多くの情報が出てきている。昨日午後、韓国政府のスポークスマン(ユン・ヨンチャン国民疎通主席)が午前中に両首脳が交わした言葉の詳細について明らかにした。そこにはリアルな両者の声が含まれていた。口頭で発表された内容を、注釈を加えつつ丹念に翻訳した。
参考: 【全文掲載】南北首脳会談 北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長の冒頭発言
「今、越えてみましょうか?」。ふたつの予定外行動。
日本の地上波でも生中継された冒頭の金正恩朝鮮労働党委員長による「軍事境界線越え」。さらにサプライズとされた金委員長の手招きによる、韓国文在寅大統領の「逆越え」。午前9時30分に両者が最初の握手後、こんな言葉が交わされたという。
文:「(いま)南側にいらしたんですが、私はいつ(北側に)行けるのでしょう?」
金:「南側に越えて来た…では、今、越えてみましょうか?」
と言って手を取った。そして当初の予定になかった、北側に入っての写真撮影が行われた。
その後、歓迎セレモニーのために現場にいた儀仗隊(冒頭の写真)の方へ共に歩みを進めながら、文大統領が話しかけた。
文:「外国の人たちも我々の伝統儀仗隊を好むんですよ。でも今日お見せしているのは(スペースの関係で)略式になっていて、残念です。青瓦台(韓国大統領官邸)にいらしたら、はるかによい場面をお見せできます」
金:「あ、そうですか。大統領にご招待いただければ、いつでも青瓦台に行きますよ」
演奏が始まると今度は金委員長のほうからこう切り出したという。
金:「儀仗隊の閲覧を終え、(北側に)帰らないと行けない人がいるんですよ」
文:「でしたら、帰られる前に南北の公式随行員全員で一緒に写真を撮りましょう」
さらにもうひとつ、予定されていなかったフォトタイムが実行された。
「睡眠時間」の話題へ。ジョークを織り交ぜながら。
9時48分頃、会談の行われる「平和の家」に到着すると、ふたりは現場に掲げられていた絵画(ソウルにある北漢山を描いたもの)について会話を交わした。その後、軽いジョークを織り交ぜながら話を続けたという。
文:「ここまでどうやって来られたのですか?」
金:「明け方に車で出て、開城(ケソン)を経由してきました。大統領も朝早く出発されたのでは?」
文:「私はわずかここからわずか52キロの場所なので1時間程で」
金:「大統領はわれわれ(北側)のために、NSC(国家安全保障会議)に参加され睡眠時間が減ったとお聞きしたのですが……早起きの習慣がついたのではないですか?」
文:「われわれ(南側)の特使団が(今回の首脳会談に先立ち)北に行った時、金委員長から先に早起きの話題が出たとか。もう足をゆっくり伸ばして寝られませんよ」
金:「大統領がゆっくり寝られているか、私が確認しますよ」
その後、金委員長の言葉は長く続いたという。
金:「ここに来るまで、わずか200mを(200m先の軍事境界線を越えただけなのに)なぜこう遠く感じるのでしょう。なぜこんなに難しくなったのかを考えましたよ。元々は平壌で文大統領にお会いするだろうと思っていたのですが、むしろここで会ったことが上手くいったのではないかと思っています。対決の象徴となっているこの場所で多くの人達が期待をもって見ています。ここに来るにあたり、失郷民(本来北側の出身ながら朝鮮戦争時の混乱で北に戻れない人)や脱北者、延坪島の住民などがいつ北側の軍の砲撃が来るだろうかと心配している方々も我々の出会いに期待しているだろうと考えました。この機会を大切にし、両側の傷が癒える機会にしたいです。(先程越えてきた)分断の線は別に高さがあるわけではない。多くの人がこれを踏み越えれば、無くなってしまうものじゃないでしょうか?」
文:「(私は今朝)、青瓦台(韓国大統領官邸)から来たのですが、道路周辺で多くの住民が見送ってくれました。それほどに今日、我々の出会いに対する期待が大きいんですよ。(板門店近くの)自由の村の住民も出てきて、一緒に写真を撮りました。肩の荷が重くもあります。板門店をスタートにして、平壌とソウル、済州島、白頭山までこの出会いが続いていってほしいですよね」
中朝国境の聖地観光の話題。金委員長「交通事情が悪く不便を強いるのでは」
また、文大統領が会場内にある長白瀑布(中朝国境近くににある朝鮮半島の聖地、白頭山近くの滝)の絵について言及した際、こんな会話が続いた。
金:「文大統領のほうが白頭山については私よりもよく知っているのではないですか?」
文:「私も行ったことがないんですよ。(韓国の観光客が)中国側からたくさん登っているんですけどね。私は北側からぜひとも白頭山に登ってみたいと思っています」
金:「文大統領がいらしたら、率直なところ心配なのがわれわれ(北側)の交通の便が悪いので不便を強いるのではないかと。平昌五輪に行ってきた人から聞いたのですが、高速道路がすごくいいらしいじゃないですか。南側がそういう状況にあるのに、北にいらしたら本当に気まずい状況になりかねません。われわれも大統領がいらしたらしっかりとご案内できるようにしますよ」
文:「将来、北側と鉄道が繋がれば、南北全土で高速鉄道を利用できます。こういったことは過去の6.15(2000年南北首脳会談)、10.4(同07年)の合意書にも含まれているのですが10年の年月が過ぎ、それほどに実践ができていません。南北関係が完全に変わってしまい、その脈が途絶えてしまったことが無念です。金委員長が勇気ある決断をしてくださったおかげで10年間途絶えてきた血脈が再び繋がりました」
金:「期待が大きいだけに、懐疑的な視点もあるでしょう。大きな合意をしておいて、10年以上実践が出来ていないのですから。今日の出会いもその結果がしっかり出るのかという目があるでしょう。この国境線を越えるまで、短く歩みを刻んだとしても本当に11年もかかるのだろうか、と思いましたよ。それならば、われわれが11年間できなかった会談の再開を、100日ほどの準備期間(今年1月の本人の新年辞から状況が動いた)でやろうと駆けつけました。固い意志で手を取り合えば、この先われわれが出来ないことなどあるでしょうか?」
妹イジり? 大きな笑いも。
金委員長の言葉は続いた。
金:「大統領は私がここ(板門店の南側)で会えば不便ではないかと考えてくださったでしょうが、それでも親書を通じ事前に対話をしたので気持ちは楽です。お互いに対する信用が重要ですよね」
いっぽう、会話にはふたり以外の参席者も加わっていった。
文:(席についた金与正朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部第1副部長=金委員長の妹を指さして)「金副委員長は南側でスターになっているんですよ」
すると金与正副部長は顔を赤らめた。
文:「今日の主人公は金委員長と私です。過去の失敗を反省材料にし、上手くやっていきましょう。過去には政権の中間や末期に南北間が合意することが多く、政権が変わるとこれが実現してきませんでした。私は大統領になって1年です。私の任期のなかで金委員長の新年辞(今年1月1日。平昌五輪への参加希望などが表明された)からここまで駆け上がった速度を引き続き維持できたら嬉しいです」
金:「金与正副部長の部署で『万里馬速度戦』という言葉を作ったのですが、統一も速度をもってやりましょう」
ここで一同笑いが。金委員長が照れている妹をイジった、という笑いか。あるいは「南側も知っている言葉(万里馬速度戦=一日に一万里を駆ける馬のごとくスピードを持って仕事をしよう)が出てきた」という笑いだったか。
それに乗って、韓国側のアン・ジョンソク南北首脳会談準備委員長がこんな言葉を。
「『薄氷を渡る時、いちばん重要なのは速度』という言葉もあります」
これに両首脳が続いた。
文:「過去を振り返った時、(南北の話し合いで)最も重要なのは速度です」
金:「これからはしばしば会うこととしましょう。気持ちをしっかりと定め、再び原点に戻るようなことがあってはいけません。期待に応えて、よい世界を作っていきましょう。これから、われわれも頑張ります」
話題は北側での最近のニュースにも及んだ。22日、黄海北道で起きた。バス転落事故だ。中国人32人と北朝鮮人4人が死亡、中国人2人が重傷を負った。
文:「北の方で大きな事故があったと聞いています。(事態の)収集が大変だったのは。金委員長は直接病院に見舞いに出向かれ、患者を励まし、特別列車を運行する配慮までされたと話を聞きました」
金委員長がこの話にどう返答したかは定かではない。韓国側の発表によると、話は再び今回の会談への決意へと及んだ。
金:「対決の歴史に終止符を打とうと、ここに来ました。われわれの間にある問題について、大統領と膝を突き合わせるために。必ずよい未来が来るという確信を持つに至りました」
文:「韓(朝鮮)半島の問題は我々が主です。そうでありながら世界とともに歩む民族である必要があります。我々の力で導き、周辺国家がついてこられるようにしなければなりません」
韓国メディア「金正恩の破格・率直話術」
過去の南北首脳会談でも、笑いが起きるシーンというのはあった。筆者がよく覚えているのが、00年の第一回開催時のこと。平壌に随行した韓国メディア団からかなりのジョークが飛び出した。金大中大統領とともに、金正日総書記と面会した韓国地上波テレビ局の社長が、金総書記にこう伝えたのだ。
「いつもご視聴いただき、ありがとうございます」
今回は上記の内容の他に、金正恩委員長が文大統領と握手後、韓国メディアの前でこんな言葉を放ったという。「握手だけで拍手されるのは恥ずかしいですよ」。さらに文大統領とのふたりの決めポーズの後に「演出、できましたか?」とも。
いっぽうで、今回ならではの観るべきポイントがある。金委員長が自ら自国の弱みに触れたということ。「交通事情」や「脱北者」。後者については、韓国政府側の発表のため、厳密に「脱北」という言葉が使われたかどうか定かではないが。これについて、保守系の東亜日報系列メディア「チャンネルA」は「金正恩の破格・率直話術。計算された発言?」と報じた。
いずれにせよ、緊張関係にあった両国の首脳がこうやって顔を合わせた場面は素晴らしかったのではないか。人と人、対面できて嬉しい、という感情は伝わってくる。これが開催の噂される米朝首脳会談にどう繋がっていくか。次はこの点に注目だ。